津上俊哉 現代中国研究家・コンサルタント

中国経済・政治

書評:岐路に立つ中国 津上俊哉著
-真の大国への険しいハードル-
2012/04/10
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 中国の経済規模は日本を抜いて世界2位になった。いずれ米国を抜き去るとの見方も強まってきた。だが著者は、中国が米国を抜くのは早くても今世紀後半だという。真の大国となるにはいくつものハードルを越える必要がある、とも指摘する。まず、人為的に割安に抑えてきた通貨、人民元の問題。著者によれば、切り上げが景気失速やデフレをもたらすことへの恐怖感は、共産党政権の内部でも国民の間でも広く共有されている。

 それでも、人民元問題は比較的乗り越えるのが容易なハードルという。都市部と農村部の制度的な分離が生んだ、巨大な格差をはらむ二元社会の問題。国有企業が民間企業を圧倒する「国進民退」という最近の問題も、制度的な背景が指摘できる。

 こうした制度の根っこにある共産党の一党独裁体制をどうするかという問題は、展望がみえない。この独裁を支える心理的な柱となっているのは、侵略された歴史の記憶に由来する国民の歴史トラウマだが、近年これが対外政策にもたらすゆがみが顕著になるにつれ、その克服の難しさも浮き彫りになってきた。

 著者が特に憂慮するのは、30年に及ぶ産児制限政策が生んだ「未富先老」の問題だ。高齢化の急激な進行で成長率は2020年までに低下傾向に陥る。高齢化の衝撃を乗り越えられなければ米国に追いつくのは無理と断じる。(日本経済新聞出版社・1900円)

(日本経済新聞 朝刊)