津上俊哉 現代中国研究家・コンサルタント

津上一目押し

中日両国は共に「アジア人のアジア」を築け
2000/09/04
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中日親善は双方にとって生死の大事、
アジアは代理戦場になってはならない、
日本は脱米国化、再アジア化に努めよ

 中国の朱鎔基総理が10月12日から17日にかけて訪日することが決まった。21世紀に向かおうとしている今、朱総理の訪問には中日関係の修復がかかっているだけでなく、未来のアジアの平和秩序構築がかかっている。中日両国はアジアの安定のための車の両輪であるが、時の巡り合わせにより、ちょうど厳しい試練と選択に直面している。

  折しも北京を訪問したばかりの日本の外務大臣河野洋平は言った、日本は中国を信任しておらず、中国でも日本への懐疑心が充満している。そのカギとなるところは・・・

 日本はと言えば、中国の国力が次第に高まっていくことは自らにとって不利ではないかと憂慮している。これは「侵略者が報復を恐れる恐怖症」のなせる業であり、米国の右派の「中国脅威論」と結びつく傾向を持ち中国の脅威を誇大に宣伝している。例えば中国の軍事費の規模は日本に遙かに及ばないにも関わらず、日本がその問題を取り上げる。少し前日本在住のオーストラリア籍コラムニスト、グレゴリー・クラークは「日米タカ派の親密さは実際、一般人の理解を超える」と指摘した。

 中国に対する日本の不信感が産むこの種の集団心理の要素を横に措くと、最近中国の海洋測量船が日本の経済水域付近で行った活動も日本を非常に不快がらせた。特に台湾海域は日本経済活動の最重要のルートであり原油や商品はみなここを経て往来しているため、仮に迂回しなければならなくなると大幅コスト増につながる。このような地政学的要素も日本を憂慮させ、また、台湾問題に関して曖昧な態度を取らせる主たる原因となっている。

 このため日本の中国に対する態度は、長期的に敵か味方かはっきりさせようのない状況の下にある。米軍の日本駐留も実は暗黙裏に中国を主たる対象とするものであるし、米日のTMDシステムも同様に中国を目標としたものになっている。加えて釣魚島列島の主権問題の紛糾もあり、現下の勢力構造の下では、日中関係は好転しようのないどころか一歩一歩悪化するものと定まったようなものである。

  中国はというと、当然ながらこれまた日本を信任する気にはなれない。日本は太平洋島弧上の米国の前進戦略拠点であり、中国に介入・封じ込めを行う戦略的な位置づけにある。そして米国のTMDシステム及び台湾問題における曖昧さは、中国から見ると帝国主義的侵略の準備と同じ形をしたものである。とりわけ近年日本では軍備拡張を求める声が起こってきており、甚だしきは改めて空母を持てという議論まである。より深刻なのは日本が最近インドとの関係を強化し、米国と組んで更に広い範囲での包囲網を展開しようとしていることである。この種の戦略が中国に警戒心を起こさせずにおくだろうか。中国とロシアの間に次第に戦略同盟関係が生まれようとしていることは、すなわちこの事情に由来するものなのである。

  とりわけ、最近米国ではタカ派が台頭し、宣伝により国内で中国を悪魔の如く描き、ソ連に代わる新仮想敵にしようとしている。ペンタゴンは既に世界の1/3強を占める軍事費を増大させるべしと絶え間なく揚言している。現在毎年の米国軍事費は2000億ドルを超え、米国GDPの2.3%に相当するのに、軍部はこれを更に2,3ポイント増やすことを希望している。そうなれば米国の軍事費はその他全世界の軍事費の総和を上回ることになってしまう。米国内のユニラテラリズムは今やマルチラテラリズムを圧倒する勢いであり、果ては最近、アリューシャン列島に中国を標的とする巡航ミサイルの配備を始めた。

  ベルグラードの大使館が爆撃されたことにより、中国の危機意識は更に増しており、一面では当然ながら米国に働きかけて、その印象を改善しようとしているが、より重要なことは防衛能力の強化を開始したことである。米国の軍事同盟国日本に対する中国の疑心は当然ながら更に深い。一般にもし中米の大戦争が起きたと仮定すれば、中国は恐らく自衛のために日本に毀滅型攻撃を加え、米国のアジア最大の前進基地を半身不随に陥れようとするだろうと推測されている。

  こうしてみれば、中日関係が悪化の一途を辿っていることは、実はとうに定まったことだとみることができる。歴史的、心理的な要因は措き、最も重要な原因はやはり勢力構造的なものである。過去の冷戦構造は中日を敵対させたが、今や米国に主導された新冷戦構造が出現しつつある。中日両国は何としても互いに得るところのないこのような新冷戦構造に対する洞察と自覚を持たなければならず、さもなければ、この冷戦構造がやがて裂け、生きるか死ぬかの戦争の暴発から逃げようのないところに追い込まれ、甚だしくは共倒れの憂き目を見ることになる。最近、南北朝鮮は和解に踏み出したが、最大の動機は南北朝鮮が共にこのような新冷戦構造に対する自覚を持ったことにあり、韓国が中国・ロシアとの親善に転じ、北朝鮮は世界への開放に向かった。両国は朝鮮半島において民族の自決を作り出し、大国が彼らを左右する構造を受け入れないことを意図しているのである。

  日本外務大臣の河野洋平は朱鎔基総理の訪日に先だって北京を訪問した。河野外相はこのときの講演の中で、正面から双方の相互不信を肯定した。彼のこの演説は、聞く耳を持たぬ人もいるかもしれないが、間違いなく極めて大きな啓発力があった。彼はまた、朱鎔基総理が訪日する際、双方が21世紀において行う協力事業の青写真を携えてくることを希望した。この一言も肺腑から出た言葉であろう。我々は考える。中日親善、相互提携は双方にとって等しく生死の大事であり、そのカギはすなわち中日双方が互いの命運を檻に閉じこめてしまうが如き、果ては殺し合いをさせかねない新冷戦構造に対して自覚を持つ必要があるということだと。それは日本が基本的方向において「脱米国化」そして「再アジア化」に力を尽くさなければならないことを意味する。

  日本は新冷戦構造の狩猟犬の地位にはもはや甘んじず、TMDシステムへの組み込みを拒否し、駐留米軍を漸減させることにより、中日親善協力の前提の下で、初めて中国と共にアジアの先頭に立つことができる。アジアはアジア人のアジアでなければならず、潜在的な代理戦場になってはならない。恐らくこの一点こそが朱鎔基が訪日し討論に応ずる際の焦点であろう!そして日本にとっても、現下の経済的悪夢を抜け出す唯一の機会であろう!

(香港亜州週刊「筆鋒」欄 2000年9月4〜10日号)