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ブログ 津上俊哉
賢いウサギは三つの巣を持つ話

ふと、思い出した中国のことわざをネタに、駄文一筆啓上


                 賢いウサギは三つの巣を持つ話


  何年か前、親しくしていた中国人と人生の話をした。当時自分の役人としての適性に疑問を感じていた私は、役人を続けることの意味に疑問を感じるようになったと話した。友人は日本人がそんなことを言う珍しさは感じたようだが、事柄自体は至極当然と受け止めたと見えて、「で、これから何をする気か」 と問うた。

  それが見えない・・・私は何に向いているんだろ?

  問い返した私をマジマジと見た彼は言った。

  中国のことわざに 「賢いウサギは三つの巣を持つ」 と言う、知っているか。
  ( 原文:「狡兎三窟」 )

  ・・・・・・・

  賢い人間なら何かあった場合に備えて、我が身を活かせるような場所・仕事などのオプションをいつも三つは用意しておくという意味だ。見たところ、いまの君は一つもないじゃないか。

  アハハ・・・


  歴史上動乱、混乱に見舞われることの多かった中国では、個人レベルでも安全保障の観念が発達している。「万一の備え」 の巧拙は、ときに命や全財産に関わる。バックアップは一つじゃなくて、二つ用意すべきだと言うところが如何にも苦労の多かった中華民族だ、などと苦笑いしながら思った。

  そのやりとりから別のことも連想した・・・中国でしょっちゅう耳にする 「被動」 という言葉のことだ。日本語では 「能動vs.受動」 と言うところを、中国では 「主動vs.被動」 と言う。辞書には 「被動」 は 「受け身」 と出ている。もう少し語感を足すと 「他人の言うなりに従わざるを得ないような境遇」 を 「被動」 と言うことが多い気がする。
  安定して収入も悪くない仕事でも、それ以外の選択がなく、したがって納得しかねる命令にも従う以外に道はない、といった状態を非常に嫌う中国人が多いのだ。そういう不本意な人生を送らないためには、「常在戦場」 ではないが、いつも転職先のことを忘れない心の構えが必要、という訳だ。

  この点、終身雇用 (いまは死語になりつつあるが) に代表される 「安定」 に価値を見いだしてきた (戦後の) 日本人とはずいぶん違う。我々日本人の方が幸せで安穏な歴史を過ごしてきたのだとも言えるが、中国人の方が 「己の人生は己で切り開くものだ」 という自立自助の気風に富んでいるとも言える。「共産党独裁」 の下、言論の自由も制約された環境で暮らす人々だが、実は、精神の上で我々よりずっと 「自由人」 だったりするのである。

  さて、中国人とディールするときは、「被動」 的に物事を強いられるのが大嫌い、という彼の性格を覚えておくことを勧める。
  ちょうど1年前、我が国が国連常任理事国入りを目指したとき、中国をどうするのかについて 「他の4常任理事国の同意取り付けなど 『外堀』 を埋めてしまえば、中国も反対しかねるだろう」 という観測があったらしい。それこそ中国人が嫌がる 「被動」 そのものだ。しかもその 「読み」 を中国人にも聞こえるほど公言した・・・その後の中国の対応の是否は別に、結果はご存じの通りである。


      故曰、知彼知己者、百戦不殆 不知彼不知己、毎戦必殆  (孫子兵法巻三 謀攻篇)

(平成18年5月19日記)




 

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