中国の 「58兆円内需拡大策」 フォローアップ
とりあえず分かったところをコメントします。乱筆御免!
中国の 「58兆円内需拡大策」 フォローアップ
前回エントリした「58兆円内需拡大策」 は、まだまだ全貌が見えてこない点が残りますが、とりあえず分かったところをコメントします。
1.財政支出の中身
「和諧社会」 を看板とする政権らしく、産業インフラだけでなく農業や民生、環境にも重点を置いた支出内容となっている。(下記リンクをクリック、画像ファイルのため、字が潰れて見えにくい場合は、ビューアーで拡大して見てください)
2.金融緩和の中身
11日付けの上海証券報が主要なエコノミストの見方を紹介しており、
○ 今回の国務院発表に見える 「適度に緩和された金融政策」 という言い方は従来の 「穏健な 中にも適度な引締め」 といった表現から一線を画する近年初出の表現であり、かなり吹っ切 れた政策転換の覚悟が見て取れる
○ 今後2009年末までに予想される利下げ幅は216basis、預金準備金比率は現行の17% から3.5?5.5%の引き下げになるのではないか
とのコメントが目に付いた。
予想に挙がった216basisの利下げ幅は、27basisで刻む今の金利調整慣行からすると8回分、1年貸出の現行金利6.66%からすると4.5%への大幅利下げになる計算である。
また、前回エントリでも述べたように今回の金融面の措置の 「カギ」 は、利下げ以上に融資の 「量的拡大」 である。金利については今日、「10月のCPIは4.0%」 との発表があったが、1年定期預金金利が先日既に3.6%に下がったことを考えれば、依然 「マイナス金利」 状態が続いている訳で、直ちに大幅利下げに踏み切るのは難しいかもしれない。よって、金融政策の次なる一手は、預金準備金比率の再引き下げになる可能性が大きく、遠からず発表になるのではないか。
3.経済効果
今回措置の経済効果については、以下のようなコメントがあった。
○ 本年末までの第4四半期中には中央財政から1000億元の 「真水」 投資が行われると約束 されているので、「乗数効果を考慮すると、第4四半期のGDPは0.5%に近い引き上げが 見込めるのではないか」
○ 「仮に決定の述べるとおり2009年末までに4兆元の投資が行われ、しかもそれが政府 の 「真水」 だ (民間投資の誘発分を除外する) とすると、2009年のGDPは1.8%程度引き 上げられるのではないか」
「第4四半期GDP 0.5%引き上げ」 という予測については、1四半期のGDPを約6.5兆元とすると3000億元強の需要創出を見込んでいることになるが、11月に発表した措置によって、年内に3倍の需要創出というのは、やや楽観的に過ぎると感じられる。
また、「2009年GDP 1.8%引き上げ」 の予測についても、2010年へのずれこみ分が一部出るのは不可避との見方が表明されているほか、中国のエコノミストからも 「11次五カ年計画の既定分と新規増分の内訳・比率が知りたい」、「中央財政と地方財政の財源分担比率はどうなるのか」 等の質問の声が挙がっている。経済効果をきちんと見積もるためには、やはりこれらの点が明らかにされる必要があるが、胡錦涛主席サミット出席の関係で期限を切られた作業だったので、細目は 「生煮え」 の部分が残っているのだろう。
なお、「1.8%引き上げ」 の見方は後ろに 「その結果、2009年も8?9%台のGDP成長率を維持できるであろう」 というコメントが続いている点が興味深い。裏返して言えば、「今回の措置なかりせば、体制の死活ラインと言われる7%成長を割り込む恐れがあった」 と見ていることになる。
4.その他
さて、関連報道で目に付いたのは、中央が 「とにかく早期実施、需要創出を急げ」 と強い発破をかけていることだ。広い中国で中央指示に忠実、かつ、微細に 「マクロ・コントロール」 を行うのは不可能に近い。極端に言えば、地方政府に対する経済号令は “go”/“stop“ の二値しかなく、中間の “fine tuning“ はないのである。
もともと投資したくて仕方なかった地方政府指導者たちは、今回の号令で奮い立っていることであろう。その結果、またぞろ「重複建設」やらの弊害が出ることはある程度避けがたい。中央政府は、それは百も承知の上で 「進め」 の号令をかけたのだと思われる。「成長維持」 の危機感と決意はそれくらい強いということだ。
平成20年11月11日 記
追記 9日の本決定発表から明けて翌10日、アジアの株式市場はいっせいに上げました。東証では建機など 「中国銘柄」 が吹いて、日中経済の連動がさらに強まっていることを感じさせました。 また、余波を買って、上げの勢いは欧米市場にもいっとき及び、中国経済に対する世界の切実な期待を感じさせました。「パワーシフト」 はこのようにして、徐々に、しかし着実に進んでいくものだということを改めて感じさせる景色でした。
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