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ブログ 津上俊哉
天皇皇后両陛下のサイパン島ご訪問について

経済問題からは離れますが、この出来事に触れない訳にはいきません


 去る6月27日、天皇皇后両陛下が太平洋戦争の激戦地であり多くの島民が自決に追い込まれたサイパン島を訪問された。その際に、予め公表されていなかった韓国人の殉難碑、「韓国平和記念塔」を訪問、追悼されたというニュースを聞いて、以前から抱いていたある考えが確信に変わった。
 それは、皇室は、(日本人であると他国人であるとを問わず)日本が起こした先の戦争で犠牲になった全ての人を追悼し、平和を祈念することを戦後皇室の重要な務めだとお考えであるということだ。今回サイパン島へのご出発に当たって述べられたお言葉「・・・この度、海外の地において、改めて、先の大戦によって命を失ったすべての人々を追悼し、遺族の歩んできた苦難の道をしのび、世界の平和を祈りたいと思います」がそれを如実に示している。
 戦後の皇室は「国民統合の象徴」とされ、政治的な役割は担わないこととされている。しかし、今上両陛下は、戦争犠牲者の追悼や平和祈念の問題については、たびたびご自身の強い意志をお示しになってきた。今回ご訪問前後の各紙報道では、その思いが「昭和天皇の戦争に対する思いを引き継いで来られたもの、昭和天皇の残された宿題を果たす」ものだとする見方も示されている。

 悲惨な戦争体験をした、今の年齢で言えば70歳代後半以上の世代が退場していく昨今、先の戦争については、以前とはずいぶん異なる見解を多く聞くようになった。
 また、最近はよく「戦後日本は平和国家の道を歩んだ」ことが強調される。それはそのとおりであり、中国や韓国など近隣諸国にはそのことをもっと認識、評価してほしいと思う。しかし、同時にそれは「あんな戦争は二度とイヤだ」という「被害者の立場」からの平和国家の道ではなかったか、逆に言えば、米欧相手はともかく、中国、韓国を始めとするアジア近隣諸国に相済まないことをしたという「加害者」としての認識が十分だっただろうかという気がしてならない。そう言うと直ぐ「謝罪の繰り返し」が取り上げられそうだが、気になっていたので最近調べてみると、戦後60年間、近隣アジアへの加害の反省という観点から日本がしてきたことが驚くほど少ないことに愕然とする思いだ。
 そういう風潮の中にあって、皇室が日本人だけではなく他国の犠牲者に対しても追悼を捧げ、平和を祈念することが務めだと一貫してお考えであることに襟を正したい思いだ。皇室は多くを語られないが、「引き継ぐ」ということの大切さを身を以て示しておられると感じる。

 今回改めて知ったが、今上陛下は10年前、政府主催の「戦後50年を記念する集い」においては「日本国民が国内にあっても世界の中にあっても、常に他と共存する精神を失うことなく、慎みと品位ある国民性を培っていくことを、心から念願しております」と述べられたと言う。昨今は国民の閉塞感に便乗して狭いナショナリズムを煽る政治家やメディアが多いが、そういう御仁たちには、陛下のこれらのお言葉から滲み出るお気持ちに少しは思いを致してほしい。

 追記

 陛下のご訪問について、韓国でも中国でも報道ぶりは実に冷淡だった。皇室はさまざまな制約の下でnarrow pathを懸命に探し求めておられるのに、そのようなお気持ちを疑ったり、不十分と貶す報道が多いことに本当に悲しい思いがした。
 でも、先月末ネットでそういう類の報道ばかり目にしてがっくりきた直後に、北京で会った友人が「このニュースには感動した」と言った。「報道ぶりは全然違うじゃないか」と質すと、「自分たちは報道の裏を読むのが習慣になっている」と笑った。中国でも心ある人は両陛下のご心中を分かってくれる、少し救われた思いがした。
 政治が昨今のような有様だからこそ、皇室にはいまの思いを大切に引き継いでいっていただきたい。それは日本という国の今後の進路にとって重要な意味を持つと確信する。
(平成17年7月7日記)




 

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