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ブログ 津上俊哉
「中国台頭」 中文版が出版されました!

私事めきますが、昨年末、積年の願いが一つ叶いました。


  やや私事めくが、2003年に日本経済新聞社から上梓した拙著 「中国台頭」 の中文版が昨年末、中国社会科学文献出版社により出版された。



  本書を執筆したきっかけは 2001年に日本で沸騰した 「中国経済脅威論」だった。その中身たるや泣き言、人のせいにする類ばっかり・・・当時日本経済が苦境にあったとはいえ、情けないやら、腹が立つやら、で発憤して本を出そうと心に決めた。とはいえ経産省の課長をやっていたので時間はないし、発言の自由も乏しいので、執筆にかかれたのは研究所への異動が叶った 2002 年夏、それから半年使って書いた本である。世の主流に対する少数派の抗議のつもりで書いたが、翌2003年末、思いがけず 「サントリー学芸賞」 を戴いた。我ながら受賞の資格を疑いつつも、自分は思っていたほど少数派ではないと感じられて、胸が熱くなったことを今も鮮明に覚えている。

  日本語版にいただいた書評でも指摘されたが、本書は 「中国台頭」 をタイトルに挙げながら、「では日本はどうする?」 に紙面を割いた本である。しかし、中国人にも読んでもらいたいので、上梓後直ちに中文版出版を計画し、半年後の 2003 年夏には翻訳がほぼ出来上がっていた。
  それ以来、出版社 3社と交渉した。しかし、編集担当者は好感してくれても、会社の承認を取るために企画を上げていくと、毎回途中で話がお流れになってしまう。最終の第 6 章で日中関係やら歴史問題やらを取り上げていたからだ。日本ではこの問題になると決まって 「共産党の歴史教育の偏向」 が論難されるが、考えてもみてほしい。政府の公式声明は別として、日本自身が日本人のホンネを対外的に説明する努力をどれだけしてきたか。してきたのは、相手に分かってもらう努力というより、むしろ 「中国と闘った」 ことを国内で誇るのが狙いではないかと疑いたくなるような不毛の論争ばかりだ。そう思って、「右」 の人は賛同しない論旨かもしれないが、自分なりに中国人に分かってほしいことを書いた。
  しかし、中国共産党公定の歴史観等とは衝突する内容だ。そのせいで、本書はいつも 「 敏感(機微) すぎる」 と言われて途中で企画が止まってしまう。「最終章を外せばすぐ出版できるのに」 と言われたことも一再ならず。それはそうだろうが、本人は相互理解のために日中両方の立場のバランスを取ろうと腐心して書いたつもりだ。最終章の論旨のバランスだけでなく、第 1~5 章とのバランスの問題もある。「外すのは不本意」 と突っ張ったせいで、いつまで経っても出版できない仕儀となった。
  地方出版社からの出版を試みた際には、「念のため省の新聞出版署の意見を訊く」 と言われ、当該出版署はご丁寧にも 「外交部の意見も訊きたい」 とやらで、そこで沙汰止みになった。「敏感な内容が出版できない」 と言うと、日本では 「背後に共産党の意向や政策がある」 と解釈されがちだが、すべての出版物が事前に共産党宣伝部系統の事前検閲を通させられる訳ではなく、出版社側の判断で 「相談」 に持ち込まれることも多いのだと知った。「それはリスクヘッジ、保身のためではないか!」・・・悪態をつきたい衝動にも駆られるが、しかし局面が違えば日本の官庁でも会社でも似たような行動パターンは枚挙に暇がない。昨今共産党だけでなくネット世論の外圧にも晒されている出版社として 「そこまでリスクを冒す義理はない」 ことは理解しなければならないのだろう。

  それやこれやで 3 年経つ間に中国は大きく変化した。小泉総理の治世とも重なったせいで日中関係も大きく変質した。おかげで本書はあちこち記述が現状に合わなくなったと感じられるようになって焦りがつのった。このため、このウェブサイトで中文訳をネット公開するハラを固めた昨年夏になってようやく転機が訪れた。本書を評価してくれた清華大学の汪暉 (Wang Hui) 教授が紹介してくれた社会科学文献出版社 (中国社会科学院の系列出版社) が出版したいと言ってくれたのだ。しかし、過去何度も挫折しているので、 「今回も駄目なのでは?」 と半信半疑のまま応対していたら、企画がスムースに通って出版が日の目をみることになった。

  難産のすえ、やっと出版に漕ぎ着けた感想を三つ記したい。第一、出版された中文版を読んだメディアの友人の中には 「敏感な内容なのによく出せた」 という感想を言う人が何人かいた。「共産党の検閲方針が最近変わったので以前なら出せないものが出せるようになった」 という訳ではない。結局は担当する 「人」 による部分が大きいという印象だ。本書の担当者とはメールと電話によるやりとりしかしていなかったので、先日北京に出張した際に初めて会った。果たして社内稟議は必ずしも順調ではなかったようだが、彼女が最後までがんばってくれたおかげで、本書が日の目を見た。日和見らずに初志貫徹する・・・一般論だが、この点で男は女に劣るのではないか・・・筆者はこういうコンプレックスがあるのだが、それをまた感じてしまった。

  第二、検閲方針が変わったわけではないとは言いながら、前後の日中関係の変化が本書出版の可否に影響を与えたことは否定できない。小泉総理の靖国参拝継続は日中関係を大いに後退させ、「失われた5年」 みたいな状況を生んでしまったが、他方で小泉総理があまりに度々参拝するので、中国人の側も最初は「飛び上がるような大事件」だったのが 、(言葉は悪いが) だんだん慣れっこになってしまった面がある(だからと言って、「ではもっと繰り返せば、やがて文句を言わなくなる」 と考えるのは大きな間違いだが)。そして安部総理の登場。中国は安部総理の参拝について決して警戒を解いているわけではないが、目下は 「参拝さえなければ、中日関係はこんなにうまくいく」 ことの演出に余念がない。本書も勇気ある担当者を得たうえで、その余禄を頂戴したのかもしれない。

  第三、やっと出版できたとは言え、執筆当時から数えると 4 年以上の歳月が経ってしまったことは、やはり心残りだ。中国の友人たちに 「中身が旧くなってしまって・・・」 と言い訳すると、決まって 「それじゃもう一冊書いたらいい」 と言われる。そうだね・・・でもこのブログも更新をさぼってばかりの昨今、執筆時間はどうやって見つければよいのだろう・・・(汗)

後記 いまのところ、本書は過激を以て鳴る中国 「ネット市民」 からの批判には遭遇していない。売れ行きが気になって、ランキングのあるウェブ書店 「当当網」 をチェックしたら、新刊のせいもあるのだろうが、「世界及び各国状況」 というジャンル 478冊 の40位以内に入っていた(ちなみにトップはフリードマンの『フラット化する世界』)。えへへ、無名著者の本としては悪くないと思う(^_^)

平成19年1月28日記




 

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