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ツイッター鎖国、遂に 「出島」 も閉鎖か

また中国に来ているのですが、一昨日からツイッターができなくなりました。不審に思って調べてみたら、遂にやられました。当局が中国からのツイッターを支えるVPNサービスに鉄槌を打ち降ろしたようです。


ツイッター鎖国、遂に 「出島」 も閉鎖か
中国当局がコンシューマ向けVPNサービスを遮断したようです


  また中国に来ているのですが、一昨日からツイッターができなくなりました。ホテルのネット環境によってはよくあることなので、いろいろやってみましたが、全くダメ。不審に思って調べてみたら、遂にやられました。当局が中国からのツイッターを支えるVPNサービスに鉄槌を打ち降ろしたようです。

  英国大手のVPN業者、Purevpn社の 「お報せ」“China Blocks PPTP & L2tP Protocols”
  According to different VPN Providers and their customers in China, PPTP and L2TP VPN Protocols have been blocked there. It turns out to be a very bad news for all the VPN providers who have been delivering VPN services in only these two protocols.
  SSTP, SSL/OpenVPN still seem to work in China, without any issues. The top 3 providers that provide SSTP and SSL/OpenVPN support are StrongVPN, PureVPN & Astrill.
  Feel free to comment below if you have any updates.


  ZDNet社の報道“Reports: China tightens grip on VPNs, Gmail”
  According to technology blog engadget.com, the Chinese government is exercising its wield on these services to prevent pro-democracy protests from gaining strength.
  It reported that some VPN services providers "observed" the local government joined their paid services to enter their networks in a bid to extract details which were used to block Web users in the country from accessing the Web. Corporations in China typically subscribe to VPN services to enhance network security.

  中国のネット環境では、これまでもtwitter社のウェブ等へのアクセスは遮断されていましたが、上述のようなVPN(バーチュアル・プライベート・ネットワーク)サービスにより、基幹通信網における遮断を 「乗り越えて」 twitterや同様に遮断されているyoutube、facebook等のサービスに接続することが可能でした。中国人ユーザーもこのやり方を 「翻墻(fanqiang)」 (壁を越える)と呼んで、twitter愛好者が増えてきた矢先でした。しかし、「ツイッター鎖国」 は唯一開いていた窓である 「出島」 もいよいよ閉鎖する断を下したようです。

  従来、VPNは大企業のように本格的な専用通信回線を持てない企業が 「専用回線もどき」 として重宝していたようです。言論統制機関は不適切な内容の削除や遮断がなかなかできないツイッターの流行を懸念はしていたのでしょうが、こういうビジネス・ユースへの影響を恐れてVPNサービスを「黙認」してきたように思います。

  しかし、最近は月々千円足らずのコストでVPNサービスをコンシューマに提供する海外業者が増えてきました(中国国内業者について筆者は不知)。こういうコンシューマ・ユースのVPNサービスこそ、言論統制機関が強く恐れる対象です。これらの業者は海外にせいぜい数十のサーバーを置いてサービスを提供するだけですから、これらのサーバーのアドレス(ユーザーのアクセスのために公開されている)を調べ上げて片っ端から遮断すればよいのです。私は以前から中国国内からのVPNアクセスはそういう意味で脆弱だと感じてきました。そして、自分で重宝しているせいもあり、「頼むから遮断しないで」 と祈る気持ちでしたが、遂にヤラレました(トホホ)。

  しかし、中国のツイッターはそれほど 「危険」 な存在なのでしょうか。拙著 「岐路に立つ中国」 でも論じたのですが、中国のアルファ・ブロガーや著名ツイーター達はツイッターという新しい言論空間を中国で育てるために、自分達が暴走して当局の鉄槌を喰わないように、随分自重して行動してきたように思います。私も、そういう慎重・賢明なアプローチで言論統制との間合いを計りながら、中国の健全な言論の自由空間が拡がっていくことを期待していました。

  そういう見地からみて、最近の中国ツイッター言論に暴走があったとは思えないのです。このことは中東の民主化革命に刺激された 「じゃすみん革命」 の騒ぎに対して、著名ツイーター達が非常に慎重に対応してきたこと(ふるまいよしこさんが自身のツイートで繰り返し指摘しています)からも明らかです。

  しかし、当局は2月の胡錦濤主席の講話にもあるように、中東革命の波及を強く恐れているようで、その後の言論統制の強化は顕著です。今回の遮断措置もこの流れの上にあると思って間違いないでしょう。「何ほどの罪もないのに」 という気がして、自重して行動してきた中国ツイーター達を強いアパシーが襲うことと思います。

  公平のために言えば、中国国内では 「微博(weibo)」 と呼ばれるツイッター類似の国産サービスが急速に普及しています。こちらは削除や遮断など言論統制機関が 「中国のあるべき秩序」 と考える措置の採れるサービスですから、是認されます。「やりたきゃ、こちらを使え」 というのが当局の意向なのでしょうが、これでは国内のツイーター達が海外の情報を得ることも、海外ツイーター達が中国の息吹を知ることもできなくなります。「そこまでする必要があるのか」 と思いますが、上の強い意向(今回は 「社会の安定重視」)が下りてくれば、内心違和感を覚えても逆らわないどころか、「120%やっちゃう」 のは、中国に限らず大組織の病理(保身・迎合)です。

  ところで、いま日本は前例のない東日本大震災の苦難に直面して苦しんでいますが、ネット社会では、これまでにない現象を見ることができます。ツイッター上でデマっぽいつぶやきや極論が流れると、直ちに反駁、反論のつぶやきが現れます。ショックと悲しみにうちひしがれた社会を勇気づける 「ちょっといい話」 は、大量にリツイート(転送)されて多くの人に共有されます。

  うまく言い表せないのですが、従来、「世論」 とはマスコミが 「これが世論だ」 と示すものを意味していました。政治を左右する強い権力をマスコミが独占していたと言えるでしょう。しかし、マスコミは 「言論の自由」 という護符に護られた統制されにくい存在、言葉を換えれば 「ガバナンス」 が働きにくい組織です。最近のマスコミ(とくに民放)の愚民・迎合路線や明らかに中立を欠いた 「(特定の)立場に立った報道」 を見ると、統制を受けない独占権力の危うさが露わだと感じさせられます。

  そういう見方をするとき、私はツイッターという存在に社会発展の必然を見る思いがするのです。マスコミがアホな記事を流せばツイッター等で嘲笑される、偏向した報道には大量の批判が寄せられる、「ものの見方」 の伝達手段の独占が破られ、マスコミの 「逸脱」 に警告を発するガバナンスの担い手が現れたと。これまで 「サイレント・マジョリティ」 でいた 「日本の良識」 がツイッター等の表現手段を得て立ち上がった、気がするのです。ネット言論に対しては、とくに伝統的なマスコミ関係者から依然として 「暴走の危うさ」 といった懐疑の声が絶えません。しかし、筆者は上記のような意味で 「危ういのは最近のアンタらの方だ」 という思いを禁じ得ません。

  根底にはネットのように非常に 「分権化」 された空間を信ずるか、それとも信じずに 「統制」 が欠かせないと考えるかという価値観の分岐が横たわっているように思います。それは経済で分権化された 「市場」、すなわち 「神の見えざる手」 がもたらす 「善」 を信ずるか、それとも何らかの 「権力」 による 「指導・統制」 が欠かせないと考えるか、というのと非常に似た問題だと思います。

  どちらかに完全に寄った選択はありえないのでしょうが、参加者の「民度」(ちょっとイヤな言葉ですが)の高低がカギになると思います。その点で、東日本大震災後のツイッター空間の有様を見ていると、分権化された 「見えざる手」 はいい線を行っているように、私には思えます。そういう空間を実現した 「日本の良識」 は戦後60有余年、豊かで安定した国民生活を実現してきた結果、日本が得た一つの資産だとも思えるのです。

  事情は中国でも同じでしょう。改革開放30有余年、問題は多々抱えながらも、豊かさを実現する中で、中国でも 「素質」 (「民度」 に代わる中国語)の向上で 「良識」 が育ってきたように思います。たとえば、ツイッターではなくネット(掲示板?)上の言論だったようですが、大震災に見舞われた日本に対して「報いだ」と書き込んだ 「憤青」(中国版ネトウヨ) に対して 「君は病気だ、治すべきだ」 と反論が直ちに書き込まれたという記事がありました(「9・11から10年、中国は民族感情(情緒)を修正しつつある(中文))。

  そうしてみると、いまの中国が行う言論統制は 「社会の不安定化」 を恐れるあまり、出口のない袋小路に陥っている印象を持ちます。喩えて言えば、子供の非行を恐れるあまり、何時まで経っても子供への干渉をやめられず、子供の自主性を阻害し続ける教育ママのようなものです。今回のVPN遮断措置を見て、一層その思いを強くしました。こんなやり方に 「出口」 があるのでしょうか。
平成23年3月20日 記

追記

  順序が逆だとお叱りを受けそうですが、今回の東日本大震災の犠牲者を悼み、被災して苦しむ人々に心からお見舞いを申し上げます。同時に、これは文字どおりの国難だと思います。こういうときこそ国民が一致団結して難局に立ち向かわないといけません。海外も日本に心から日本に同情して声援を送っています。これは中国でも同じです。上記の 「君は病気だ」 発言にもあるように、中国人が最も情緒的になりやすい相手、日本に対する 「哀悼」 の空気が覆っています。四川大地震で受けた日本の恩情を想起する向きもたいへん多いです。みんなで力を合わせて難局を切り抜けましょう。

  危機はまだ去ったとは到底言えない状況ですが、この週末には少し希望も見えました。中国からネットを通じて知るかぎりですが、震災発生から1週間経ち、福島原発対策だけでなく、ようやく救難支援活動に日本全体がフル回転し始めた印象を持ちます。

  とくに数万人規模の被災者受け入れを申し出た沖縄県の発表に驚かされました。我々本土の人間は、なぜ沖縄がこのような申し出をするのか、改めて普天間問題との関わりを想起すべきだと思いました。





 

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