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ブログ 津上俊哉
南シナ海の哨戒には手を出すな

日米防衛ガイドライン改定、平和安全法制整備について、一点だけ以前からひっかっていることを書きます。




  日米両国は防衛ガイドラインを改訂し、日米同盟の再定義を行おうとしている。平たく言えば、日本が米軍の役割を肩代わりする代わり、米軍の日本防衛に対するコミットメントを強化、せめて維持してもらおうというディールだ。

  「日本の負担は明確に重くなる一方で、米国の負担は曖昧だ」として「割の合わないディールだ」という批判もあるが、中国の急速な軍拡、米国の国防予算削減という大きな流れを見ていると、致し方ないのだろう。中国との友好関係を増進し緊張を緩和することで安全を確保できればよいのだが、そうした努力で中国の軍拡が止むとも思えない。

  ただ気になるのは、防衛ガイドライン改訂に伴って、自衛隊が南シナ海での哨戒活動に従事するよう米軍から求められるらしいことだ。これは良い考えだとは思えない。

  中国は当然「当事国でもない日本が南シナ海に首を突っ込むな!」と抗議する。しかし、それに従っていたら、米軍の役割肩代わりは何もできなくなるから、共同訓練だとか物資面での協力だとかには精一杯汗をかく必要があるだろう。しかし、航空機とか艦船による哨戒活動は、直接中国軍と対峙するリスクのある行動で、次元が違ってくる。そのとき、中国はどう出てくるか。

  中国のタカ派紙として有名な「環球時報」などを見ていると、「南シナ海にもADIZ(防空識別圏)を設定して対抗せよ」「空母の配備など南シナ海の軍備を更に強化して手を出せなくさせろ」といった声が一般的だ。

  メディアはそんな話で終わっているが、本当に自衛隊が哨戒を始めるとなれば、中国軍は東シナ海(尖閣周辺)で仕返ししにくると思う。舞台を南シナ海に限定した仕返しでは日本に響かないし、背後で日本を操る米国に態度を改めさせるためにも、日本が直面する東シナ海で事を起こす方が有効だからだ。

  2012年秋の尖閣「国有化」騒動以来、2年以上をかけてやっと沈静化させて、最近は日中間で「海上連絡メカニズム」も動き出そうかという話になっている尖閣で、日中武力衝突のリスクが再燃する・・・

  南シナ海での自衛隊の哨戒協力が良い考えだと思えないのは、そうして中国が尖閣に再び紛争を飛び火させる挙に出てきたら、米国は日本に「構わずに哨戒を続けてくれ」とは言わないのではないか、と思うからだ。だって、そうなったら元々の狙いだった「米国の負担軽減」どころではなくなるからだ。

  「日本に介入を止めさせるために、いちばん有効な策は何か・・・」少し考えれば分かることだから、中国軍もそう考えて準備していると思う。「中国がそう出てくれば、米国の要請は撤回されうる・・・」自衛隊も日本政府も、そのつもりで米国の要請を「話半分」くらいに取り合っておいた方がいいと思う。

  逆に言うと、「南シナ海哨戒活動」の予算を取るとか、部隊編成替え・装備をするとか「組織的対応」をしてしまうと、後で米国から「あの話はもう必要ないから」と言われても、「転身が下手な日本組織」ぶりを晒してしまうのではないかと恐れる。

  そうやってもがいているうちに、米国と中国の間で「頼んでもいないのに、日本が首を突っ込みたがっている」ことにされでもしたら、烏滸の沙汰も極まれりだ。

平成27年5月24日 記(無断転載を禁じます)




 

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