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2期目習近平政権の発足

比類なき力と権威で難関突破か



  3月20日、全国人民代表大会が注目の指導者人事、憲法改正、行政機構改革を決めて閉幕した。開幕直前に意表を衝く任期制限撤廃などの憲法改正案を発表したことから、世間の関心は「習主席の権力集中」に集中したが、他にも注目すべき変化が幾つかあった。

  第一は人事だ。下馬評どおり王岐山氏が国家副主席に、李克強総理は留任、副総理は韓正氏を筆頭に孫春蘭、胡春華、劉鶴氏が選任された。経済政策は劉鶴氏の役割が重くなる一方、李克強総理の影が薄くなりそうだが、これも想定どおりだ。

王岐山氏の分担は?

  しかし、「未だ全容が見えない。」王岐山副主席が何を担当するのか見えないからだ。巷間では今後勃発する中米貿易戦争の処理を担当すると言われるが、王氏が適任な領域はそれだけではない。

  例えば金融だ。「両会」前は今年の重大課題「金融リスク防止」のために、銀行、証券、保険の監督機関を横断的に統轄する「スーパー金融庁」の新設が取り沙汰されたが、銀行が保険を吸収する合併組織の新設が発表されただけで、それ以上傘や横串をさすような機構改革の発表はなかった。人事を見ても周小川氏の後を継いで新人民銀行長に就任したのは実務型、学究タイプの易鋼氏だ。

  これだけだと何か「字足らず」な印象が否めないが、この上に、仮に「王副主席が金融分野を指導する」要素が付け加わると、落ち着きが良くなる。

  反腐敗についても、高い格式で「国家監察委」の新設が決まったが、けっきょく「非党員の公務員」の腐敗を捜査・摘発する地味な機関になりそうだし、人事も知名度の低い楊暁渡氏が監察委主任に就いた。紀律検査委書記の趙楽際氏と二人を足しても、1期目の大虎退治で勇名を馳せた王岐山氏ほどのオーラはない。

  しかし、ここでも「紀律検査委と国家監察委の双方を王氏が指導する」という要素が付け加わると落ち着きが良くなるのだ。

  さらに言えば、今年は、「金融政策」と「反腐敗」の二つの重点課題が交叉するかもしれない。紀律検査委は1月今年の重点操作対象として「金融信貸」を名指しした。ここ数年派手な海外企業買収で名を売った民営コングロマリットも経営者の逮捕や海外で取得した資産を手放して経営方向を変えろという厳しい圧力を受けている。あれこれ考えていくと、金融分野に潜む特権的抵抗勢力を退治する仕事が2期目習近平政権の重要課題なのではないかという気がする。そういう連中に臆さずに追及の手を伸ばせるのも王氏くらいだろう。

  機構改革では様々な役所が新設統廃合されたが、最強官庁、発展改革委が国土計画(主体効能区)、独禁法、価格監督など多くの重要事務を他省庁に譲って「痩せる」話を聞いて、「最強官庁であるが故に、「不服従の憾みあり」とされてお仕置きを受けたか」と揣摩憶測した。

権力集中は表と出るか裏と出るか?

  そして任期制限撤廃の憲法改正の件だ。

  世間では批判が強いし、とくに欧米ではこのニュース後、対中論調が大きく悪化していて要対策だが、筆者はネガティブ一辺倒に評したくはない。

  権力強化が指摘される習近平主席だが、それが自己目的化して、「終生トップで居続けたがっている」とは思わない。こんな憲法改正を強行したのは、むしろ思い描いたように国を動かすことができない現状に苛立って、比類なき力と権威で難関を突破したいためではないか。とくに上述した金融をはじめ、経済分野では改革に抵抗する勢力が依然健在な印象がある。

  盟友王岐山の助けも借りて2期目にその狙いが実現すれば慶賀の至りだが、逆に習近平主席の権力と権威が格段に強化されたことによって、側近や部下が悪い報せを耳に入れることをためらうことはないだろうか。それで過ちを修正できなくなったり、部下が過度な「忖度」をして暴走したりするリスクはないか。

  このような独裁の弊害が現実になれば、習主席は己の心中に掲げる理想の中国への道を自分で阻むことになる。
(「国際貿易」誌 平成30年3月27日号所載)





 

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