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ブログ 津上俊哉
森有正の 「日本語・日本人」 論(学習ノート)

この数ヶ月、ずっと自習で勉強してきたことをポストします。全部で9回分もあります。この自習のせいで、長い間ブログを更新しませんでした。何とか300万アクセス達成記念に間に合うように、と思って書き始めましたが、時間を食ってこれにも間に合わなかったことをお詫びします。


日本人と日本語 (学習ノート)
(森有正の 「日本語・日本人」 論 第一回)


  森有正をご存じだろうか。1911年、初代文部大臣であった森有礼の孫として生まれてフランス思想・哲学史の学者となり、戦後留学で渡仏して後は、彼の地で日本語・日本文化を教え、1976年に没した人だ。

  私がこの人に興味を惹かれたのは、昨今の日本の政治や社会の、あまりにも情緒的、無思慮、自傷的な有様を眺めるうちに 「日本はどうしてこういう風なのか」 ということをつくづく考えさせられたからである。この二年間暗澹たる気持ちにさせられる出来事の連続を前に、私は 「日本という国の何たるか」 を立ち帰って学んでみたくなり、歴史書などをあれこれ読みあさってきた。森有正のことは、そういう濫読の中で 「二項関係と律令官僚」 という面白い論説を発表している植田信氏のブログで知った。

  森の優れたところは、西洋と日本の違いということについて、突き詰めて考えられる生い立ち・経歴、そして知性の持ち主だった点である。幼少の頃から暁星でフランス語に親しみ、近代西洋哲学・思想の神髄とも言えるデカルトやパスカルを専攻し、そして戦後フランス社会で20年間暮らした。言語学者ではないが、彼の地で日本語教師として仏人らに日本語を教える過程で、フランス語と日本語という対照的な言語、それだけでなく彼我の思考方法、さらには人が生きていく態度の差異について、考え抜く経験をした。

  その森が、西洋と大きく異なる日本人の思考や行動のパターンは、日本語というユニークな言語に由来するのだと喝破しているのを読んで私は衝撃を受けた。日本人独特の思考・発想パターンとして森が指摘することは、突き詰めて言えば 「個人 (自我) の未確立」 ということに帰結する。それは明治以来無数の識者が指摘し慨嘆してきたことで目新しさはないが、森は 「何故そうなのか」 について、彼我の言語や文化を比較して説得力のある仮説を呈示した。森がこれらの日本人・日本語論を書いたのは40年以上昔のことだが、その後も日本人は変わっていないようで、いま読んでも古さを感じないインパクトがある。

  哲学者でもある森の文章は決して読み易いものではないので、私はこの数ヶ月苦戦しながら 「解読」 を続けてきた。読解のテキストにしたのは、主に 「経験と思想」 (岩波書店 1972年刊) 及び 「森有正エッセー集5」 (ちくま学芸文庫1999年刊) である。(どちらも絶版であるが、ネットのおかげで、ウェブ上で数クリックすれば数日後には古本が届く。まことにありがたい時代になったものだ。)

  本ブログを長い間お休みした一つの理由は、そういう 「自習」 をしながら、少しずつ考えをまとめる作業をしてきたことにある。それなら小分けにブログにポストすればよさそうなものだが、全体を消化するのにえらく時間がかかってしまった。

  これをお詫びした上で、これから自分なりの森理論の理解とそこから考えたことをポストしたい。分量は全体で3万字を超える。これを一回でポストしても誰一人読んでくれないだろうから、全体を以下の9回分に分けることにした。

  次号以下では、さっそく私が素人なりに読んだ森の思想というものをご紹介します。
(平成23年9月24日 記)






 

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