暑い夏 − 五年に一度の人事を控えて
竹のカーテンの向こう側で、いま中国でいちばん大事な会議が開催されています。
5年に一度の共産党大会の開催を秋に控えた暑い夏がまたやってきた。委細は分からないが、この時期、避暑地北戴河で政治局常務委員はじめ党の最高幹部の人事案が国家指導者OBなどの長老組に根回しされるのだと言い伝えられる。
異変続きの前回
前回の2012年は異変続きだった。2月に薄煕来の腹心だった王立軍が成都の米国領事館に駆け込む騒ぎが起きた。3月の全人大の期間中には薄煕来が失脚、同じ頃に中央弁公庁主任として実権を振るった令計画の息子が交通事故死、その醜聞が長老を交えた夏の会議で追及されて令の失脚に繫がった。8月下旬から9月前半にかけては、習近平主席が2週間ほど音信不通になり、原因について「暗殺未遂だ」「太子党に支持を求める隠密行脚だ」と憶測が飛び交った。
そんなニュースがもたらされるたびに「劇画じゃあるまいし」と一笑に付していたら、後日大半が本当の話だったと聞いて、中国政治のイメージが覆されるほど驚いたものだ。人事はいずこでも争いの種になるが、選挙がない中国では、権力の所在と経済利益の配分を決める人事がよけい紛糾するのだろう。
今年は前回と違って、表向きは平静だ。「党中央の核心」称号も手中にして権力を固めた習近平主席の2期目だからだろう。
しかし、少し目を凝らすと、床下ではいろいろ起きている気配がする。
(1) 王岐山攻撃
筆頭に挙げられるのは、いまは事情があってニューヨークに逃れた郭文貴という不動産上がりの政商が(反腐敗の責任者である)王岐山紀律検査委書記とその夫人親族をネット上で執拗に攻撃していることだ。とくに夫人の親族が海南航空という会社を私物化して腐敗を重ねていると各種の「証拠」を画面上で示すものだから衝撃度が大きい。
私は当初「掲げる証拠もどこまで信憑性があるのやら」と軽く見ていたが、5月に北京に行ったら、想像以上の大事件に発展しているのに驚いた。半年前には、国務院総理の呼び声もあった王岐山氏だったが、いまや政治局常務委員留任は遠のいたと見る人が増えていたのだ。
郭文貴の背後には金融分野を根城とし、今なお習近平主席に従おうとしない大物の存在も噂されており、また5年前のような党内抗争に発展しはしないかと不気味である。
(2) 海外企業買収へのメス
中国企業はここ数年海外企業の買収を盛んに行うようになったが、その中でも不動産や保険などで財を成した幾つかの民営企業集団の派手な企業買収は目を惹いた。
ところが、最近これらの企業による海外買収について、貸出や社債買い入れなどにより与信していた銀行に対して、金融当局が一斉検査に乗り込む事態が発生した。検査を受けた銀行の中には慌てて社債を売りに出すところもあり、対象企業の株価は大幅に下落した。
負債に頼った企業買収はリスクが高すぎることが一斉検査の表向きの理由だが、タイミングもやり方も異例だったため、ここでも「背後に企業を庇護する大物がいるのではないか」「その大物に習近平政権が警告を送るためだったのではないか」といった憶測が飛び交った。
(3) 政治局員の更迭・処分
7月15日には政治局員の肩書を持つ重慶市孫政才書記が突如更迭された(しかも腐敗問題で拘束されたらしい)。現役政治局員の拘束となれば、習近平政権下でも初の出来事になる。しかも後任に任命されたのは習近平主席の腹心の一人だ。人事が煮詰まる最終局面とは思えない出来事だ。
課題も山積
人事のかたわらで、政権の課題も山積している。経済運営は上半期に不動産や金融で景気引き締め効果の強い政策を講じたので下半期には減速する可能性が高まっている。外交面では春の首脳会談で上々の滑り出しだったトランプ政権との関係が北朝鮮問題の停滞の煽りで暗転、貿易問題に波及する恐れも出ている。
内外ともに「人事の季節ゆえ、いっときお休み」とは言っていられない課題山積の情勢下、いよいよ北戴河の季節が幕を開けようとしている。
(「国際貿易」紙 平成29年7月25日号所載)
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