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小泉総理の靖国神社参拝をめぐる日中の風景
言うは易く行なうは難き「相互理解」
かねて予想されていたとおり、小泉総理が靖国神社を参拝した。今回は秋の例大祭の始まる１７日のタイミングが選ばれた。総理参拝に強く反対する中国、韓国も含めて「小泉総理は今年中にまた参拝するだろう」という点では衆目が一致していたから、その限りでは外交につきものである「（意図の）読み違え」はなかったと思う。しかし、その周辺を見回すと、相変わらず相互不信が生む誤解の構図が露わなように感じられて溜息をつきたくなる。
中国の反発の仕方やその規模を参拝当日の今日の動きだけで判断するのは危険だが、ネットの書き込みや駐日大使の声明からして、多くの中国人が、１７日という時期選定は有人宇宙飛行船「神州６号」の帰還にぶつけたものだと憤慨していることがはっきり見てとれる。
しかし、せっかくの慶事に水を差された不快感は理解できるとしても、「そのタイミングを狙った」と言われると、多くの日本人は「小泉総理がそこまで深く謀りごとをしている筈はない」と思うはずだ。国会日程、年内の外交行事、何よりも（比較的穏便なタイミングだと総理が考えた）靖国神社の秋の大祭という国内要因を念頭に１７日が選ばれたのであって、事の善し悪しは別としておそらく「慶事に水を差した」と抗議されて初めて「ああ、そうかと思った」といったところが真相に近いはずだ。中国嫌いの日本人は「中国は世の中いつも自分を中心に回っているみたいに思い上がっている」と言うだろう。
公平を期するために（？）類例を探すと、懸案のガス田開発問題などを討議するために外交当局同士の「総合政策対話」のために週末北京に赴いた日本の外務省が中国側の突然の予定変更で週末中待ちぼうけを喰わされたというニュースがあった。結局この協議は１７日に中国側からキャンセルされたそうだが、待ちぼうけを喰わされている間、「小泉総理の靖国神社参拝に関係があるのではないか」、とか「これをけん制した動きとの見方もある」という書き方が新聞報道に見られた。前者については疑いなく「関係がある」と思うが、他方、「参拝を牽制するための動き」と見るのはどうだろうか。
私なりに憶測すると、「小泉総理が週明けに参拝する」ことは日本の新聞にも先週末から気配が出ていたから、中国側の耳にも入ったと思う。しかし、それを知った中国外交部の脳裏を去来したのは「仮に参拝が行われて強烈に抗議すべき時に、のうのうと政策対話なんかやっていたら国内で叩かれるのではないか」という不安、「本当に参拝したら、そのときはどう対応するか」、「対処方針を上層部に上げて相談しなくては」といった事柄ではなかったか。要するに時間のない中、国内のことでアタマは一杯、日本の外務省を待たせることになるのは意識したが、「延期を『対日カード』に使うなんて、考える余裕もなかった」ということではなかったか。
本当は、相手はそんなことを考えていないのに、あたかも相手の行動が自分に向けられたもののように錯覚して、その「意図」を勘ぐる、というのは外国との交渉、駆け引きに見られがちな現象だ。中国は意思決定の手の内をみせない国だから殊のほか真相が分かりにくいが、情報が公開されている日本側の行動についても中国から「挑発」の意図が疑われる。共通しているのは、相互の不信が誤解を生む構図だ。
ところで、いま、そういう相互の不信・誤解がもっとも危惧される問題は、領土・領海が絡まったガス田問題だと思う。総理の靖国参拝は中国人や韓国人の感情を傷つけるから決して軽い話ではないが、下手をすれば軍事緊張につながりかねないガス田問題に比べれば、事の軽重は明らかだ。日中両国はともに大国。相手国のことよりも自国の国内事情に気を取られがちなのは大国の常だが、領土・領海問題に火がついたら、お互いのっぴきならないことになる。双方の指導者には、相手国を注視して、くれぐれも「読み違え」のないように願いたい。
（平成17年10月17日記）
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