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ブログ 津上俊哉
「人民元が上がると円も上がる」話

今度は目先を変えて、人民元問題です


「人民元が上がると円も上がる」話

 最近、また人民元を巡る論議が喧しい。今次ラウンドの特徴は「米国の忍耐にも限度がある」というものだ。
 私は門外漢のくせにこの問題を論ずるのが好きで、過去に何度も駄文を書いてきた。
http://home.att.ne.jp/sigma/tsugami/9802.htm
http://tsugami-workshop.jp/article_jp_class4id20021219.html
http://tsugami-workshop.jp/article_jp_class4id20030901.html
http://tsugami-workshop.jp/article_jp_class1id20040224.html
 読み返してみると、この二、三年は同じことばかり書いている。そのくせ肝心の、人民元が上がるとすれば何時、どれくらいか?は、さっぱり読めない。という訳で、問題は依然として深刻なのだが、いい加減飽きてしまった。

 目先を変えたい。よくメディアに「人民元が上がると円も上がる」という読みが載るが、それはなぜだろうという問題だ。論ずるというより、誰かに教えていただきたい。
 その論拠を示すものを探したのだが、なかなかない。やっと見つけたのは、香港で取引されている人民元の代用相場、NDF (Non Deliverable Forward)と円の変動を統計的に検証してみると、最近は両者の相関が強いから、というものだ。
 確かに、そういう側面があるだろう。例えば、米国が「為替操作国」への批判を強めたというニュースがあれば、円も(変動相場制移行後の)元も「同じ舟の上」、ともに上昇するだろう。また、ペッグを守るために頑なに米国債(TB)を買い続けてきた中国が変動相場制への移行を宣言すれば、市場は「ドルの大口買い手がいなくなった」と考えてドルを売るかもしれない(これは円高というよりドル全面安と言うべきかもしれないが)。

 マーケット関係者が「人民元が上がると円も上がる」と信じているなら、人民元切り上げのニュースが流れるとき、円も買われて上がることは間違いないだろう。しかし、その期待を裏付ける経済的メカニズムは何なのか知りたい。そう言うと、相場は所詮「期待」の産物なので、裏付けになる経済的メカニズムが説明できるか否かなんて関係ない、とプロから嗤われるかもしれない。それでもこだわりたいのは、これが統合度合いを強める東アジア経済の今後にとって意外と大事な問題ではないかという気がするからだ。
 例えば、元高になると日本製品の輸出競争力が相対的に強まり、日本の対米輸出を増加させる方向に働く、或いは既に中国と巨大な分業体制を築いている日本経済では、元高になると中国に移管した部品・材料・中間加工品の生産を日本に戻すかもしれない。そうすると中国の見かけ輸出額は変わらなくても日本の対中輸出が増える方向に働く、市場はそう読んで円高を予想する、結果的に元と円は連動する、といった因果の経路があるかもしれない。
 そう考えると、それは何も日中の間に限った話じゃない気がしてくる。輸出性向が高く米国市場依存という点で東アジア、とくに日中韓台経済はよく似ている。似たもの同士が同じ動きをするという素朴なイメージも捨てたものではない。
 さらに考えると、そういう似たもの同士が「自分たちの通貨は似ている」という共通のアイデンティティを持つとする、そして「どうせ似ているなら、お互いの平価を安定させる仕組みを作ろう」と思い立ったとする。別に固定レートで安定させるところまで行かなくてもよい。フォーミュラにより連動性を強めて、それを守るために協調介入するといった合意でいい、ちょうど波に揺られるイカダ同士がお互いを結わえ合うイメージだ。
 ところが、そんなことが現実化すれば、市場は必ず揺さぶりをかけに来る。ちょうどヨーロッパが70年代からユーロ誕生まで続けた域内固定相場制が投機筋の挑戦を何度も受けたように、だ。「欧州イカダ」は投機の挑戦を受けるたびに弱い部分がどこかほどけてしまい、修理しなくてはならなかったが、イカダ組みの努力を止めなかった。きっと「バラバラでいるよりずっとマシだ」と思っていたからだろう。

 日に日に結びつきを強める東アジア経済だが、結びつきは実物経済の側面に留まっていて、もう一つの側面、通貨の方はさっぱりだ。ちょうど運動器官と循環系が調和しない体のようなもので、それが東アジア経済の大きな弱点になっている気がする。
 無理な固定相場制は有害だが、通貨はやはり安定していた方が良い。その急変動がいかに経済主体の予測可能性を害し、経済厚生を歪めるか、日本人は痛いほど知っている。 結びつきが強まるアジアの域内だけでも安定に向けた努力をすべきではないだろうか。
 その中にあって頑なにドルペッグを続ける中国の存在は、最大の「困ったチャン」だ。ドルに対して「安定」していると言ったって、東アジア域内で見れば他のアジア通貨が多かれ少なかれドルに対して上がっているときに、中国だけアジア向けに切り下げをやっているのと同じではないか、ものを見るアングルを変えてくれと言いたくなる。
 でも、上述のようなビジョンを共有する、そのための頭の体操を一緒にやることも、中国が無理で不合理なドルペッグと訣別するために必要な、「欠けてるジグソーピース」の一つではないかという気がしている。中国はきっと「元高のデメリット」が怖いだけでなく、ドルペッグを止めて「はぐれイカダ」になるのも怖いのだ。「ドルから離れろ」と言うだけでなく、「代わりにこっちに来たら?」という新しい結わえ先を提案してやるのも必要なことではないか。
(平成17年6月9日記)




 

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