Tsugami Toshiya's Blog
トップ サイトポリシー サイトマップ お問合せ 中国語版
ブログ 津上俊哉
「公け」ということ

また長期間、新作アップをさぼってしまいました。窮した揚げ句、ちと舌禍っぽいヤツを言上!


                      「公け」ということ


 2年前、24年勤めた経産省を辞めて人生の諸先輩に挨拶したときに返ってきた反応が記憶に残っている。役所では「よく決断した」と言う方がけっこう多かったが、民間では「残念だ」と言う方が多かったことだ。

 最初のうちは「論ずべき業績を挙げずに辞めた私にまでそう言ってくださって・・・」と勝手に感激していたが、どうも違う。その感想は自発的意志で役所を離れる人が増える傾向から来ているように思えてきた。つまり、「役所に見切りをつける役人が増える昨今の風潮」を憂えているのである。

 むかし「官僚たちの夏」という小説があった(城山三郎著 新潮社刊)。昭和30年代の通産省をモデルに、国家を熱く語り産業振興に邁進する役人を描いた小説だ。刊行されたのが30年前、舞台となったのは半世紀近く前の日本だが、上記の経験から、そういう時代へのノスタルジーは未だに生きているのだと感じた。

 好意で言ってくださった方々に楯突くようなことを言うと罰が当たるが、そのノスタルジーと訣別できるかどうかが、今後の日本の命運を左右するカギの一つだと思う。「役人が国家を語らなくなった、政治家は相変わらず、では誰が日本という国の将来を考えるのだ!?」 答は「民間にある皆さん方一人一人です」ということだ。もちろん間接民主制や現代行政過程の現実を無視した暴論だが、「気構え」の問題である。

 日本では役人を「前例に捕らわれ」、「省益にのみかまけ」、「保身にいそしむ」者として批判する議論に未だに人気がある。どの批判も当たっているのだが、「野に下って」分かったことは、なに、民間も同じだということだ。つまり人間と人間が作る大組織の性なのだ。

 それを「アンタらも私らと変わらないねぇ」と見ないのは「役人はそうであってはならない」という前提があるからだ(ノブレス・オブリージ)。これまで「高級官僚」はエラぶって権力もふるってきた。「ノブレスぶるなら、公僕のオブリージをちゃんと果たせ」 ・・・30年前ならそのとおり、しかし前提に狂いが生じている。役人はいまや昔ほどノブレスではないのだ。

 世の中が大きく変わったのに、未だに「オブリージであるべき官がそうしていない」と批判する式の議論は、どこかしらノブレスではない民間という「塹壕」から官を撃つ嫌みが漂う。批判するご当人は「在野精神」のつもりだが、それって、実は卑屈な「お上vs下々」意識からそう遠くない。

 成熟した日本が必要とするのは「公けごと」を官任せにしない「民間の公共精神」だ。財界の偉いさんがもっと公職に進出しろというのではない。中には本当に立派な人が三顧の礼を受けて公職に余生を捧げる例もあるが、数の上では「功成り名遂げたエライさん」が「オレもそろそろ」式に勲章と公職を求めるように見える例も多いからだ。それでは「成り金」ならぬ「成り官」だ。そこに参画しない「下々」から見れば「あいつら」の新種になってしまう。

 むしろ「身分」の高低に関わらず、民間が持ち場、持ち場で「公共のあり方」を考えることが必要だ。舞台は町内会でも地方議会でもNPOでもいいから。その気風が少し強まるだけでも日本の将来はずいぶん明るくなると思う。その点で、私の年齢(昭和32年生まれ)だとまだ仕事が残っているが、(と言うとオチが見えてしまうが、)これから大量に引退していく団塊世代のその後の「民間公共精神」に期待している。

 「世代論」はいつも自分を棚に上げての議論になると承知の上だが言わせてもらうと、私は自分の上の団塊世代に対する評点が辛い。全共闘の騒擾は何を残したのか分からない、高度成長の立役者は団塊の上司だった世代だ。社会の骨幹の地位に上った時期は 「失われた十年」 となった。しかし、生まれた国と後生のために貢献できるチャンスは未だ残っている。「老後」ばかりでなく「公け」のために「自分らしさ」を発揮して欲しい。こっちも10年経ったら後を追いかけますから。
平成18年3月14日記




 

TOP PAGE
 ブログ文章リスト

New Topics

2期目習近平政権の発足

松尾文夫氏の著作を読んで

トランプ政権1周年

中韓THAAD合意

中国「IT社会」考(その...

中国「IT社会」考(その...

中国バブルはなぜつぶれな...

暑い夏 − 五年に一度の...

対中外交の行方

1月31日付けのポストに...

Recent Entries

All Categories
 津上のブログ
Others

Links

All Links
Others
我的収蔵

Syndicate this site (XML)
RSS (utf8)
RSS (euc)
RSS (sjis)

[ POST ][ AddLink ][ CtlPanel ]
 
Copyright © 2005 津上工作室版権所有