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ブログ 津上俊哉
他山の石 ? 某社製エレベータ事故騒動の教訓

いやはや、スイス某社は実にお粗末な対応ぶりですが、日本企業の中国ビジネスにとっても 「他人事」 ではない気がします。


                       他山の石
                 某社製エレベータ事故騒動の教訓


  スイス某社製エレベータで起きた死亡事故が連日メディアで取り上げられる大騒動になっている。事故の原因や製品瑕疵の有無といった問題は今後明らかにされるだろうが、既に誰の目にも明らかなことは、事故が起きて以来の同社の対応の拙さだ。
  押し寄せるメディアの会見要求や行政からの資料提出の求めに対して 「逃げ隠れ」 した印象を与え、「当社のエレベータは世界100カ国以上で使われる、世界第二位のエレベータ」 云々、さらに 「事故の責任は保守点検を担当していた 『サードパーティ』 にある」 と言わんばかりの声明で要らぬ反感を買った・・・危機管理マニュアルにある 「してはいけないこと」 のオンパレードだ。
  容易に想像がつくことは、スイスの本社が現地の情況をよく理解しないまま、日本支社にあれこれと指示を出し (あるいは必要な指示を出さずに)、この事態を招いたのではないかということだ。「ローカル」 の日本人社員の中には、世論の激しい批判に遭って涙する女性社員やら、学校で自分の子供が苛められないか心配しているお父さん社員もいるはずだ。

  在中日系企業もこれを 「他山の石」 としたい。周知のように、中国では日系企業の製品やサービスの欠陥がよく槍玉に挙がる。T社のパソコン、M社の四駆、N社のフライト客接遇、T社の広告、最近ではS社のデジカメなどもターゲットになった。
  断っておくが、これらの事例が某社エレベータのように欠陥が疑われる、とか、対応が拙くて某社のように袋だたきに遭ってしまったとか言いたい訳ではない。中国の日本企業・製品批判は誤解や誹謗中傷が少なくないし、いったんは槍玉に挙げられてしまっても、難局を乗り切った事例も多いからだ。

  ところで、日本企業・製品が中国でバッシングに遭うのは、 例の 「反日」 政策のせいだろうか。いま中国では 「反日は売れる!」 というマーケティング政策を奉ずる商業メディア (含むポータルサイト) が少なくない。また、首相の靖国参拝など中日関係の 「事件」 が起きる度に、お決まりの 「抵制日貨 (日貨排斥)!」スローガンが叫ばれたりするので、日系企業はその都度ヒヤヒヤしている。中国に流れる反日感情のせいで日本が標的になりやすいことは事実だ。
  しかし、日貨排斥スローガンの効き目の無さは、いつも笑い話になっている。また、政府・共産党も昨春の反日デモ事件以来、対日世論の 「可燃性」 に懲りて、この種の動静には神経質なほど監視の目を光らせている。日本企業・製品がターゲットになりやすいからと言って、それを 「政府の差し金」 とか 「政策」 とまで見るのは、日本側に根強い 「中共陰謀論」 の所産であろう。

  日本ではあまり知られていないが、槍玉に挙げられるのは決して日本企業・製品だけではない。最近数年を数えても、米M社のファストフード(フライドポテト)のアレルギー物質含有の疑い、米国D社の樹脂加工鍋の発癌性の疑い、独B社のコンタクト洗浄液の有害成分問題、仏C社スーパーの調理食品の品質問題、米M社粉ミルクの有害成分含有の疑い、スイスC社の風邪薬の有害成分含有の疑い等々、枚挙に暇がない。中資企業と比べたことはないが、どうも日本に限らず外資企業・製品は中国で槍玉に挙がりやすい。
  中国人に根強い 「舶来品」 崇拝の気持ちが裏切られると、 「可愛さ余って憎さ百倍」 ならぬ 「憧れ余って、批判百倍」 みたいになりやすいから、とか、中国でも最近はアブナイ 「排外意識」 が高まっているから、といった原因も考えられる。しかし、もっと見え易い問題は、 親・子会社関係、 しかも遠隔の外国での話ということで、ガバナンスや危機管理が働きにくいという会社の構造上の問題だ。

  在外子会社や製品が中国世論の批判に遭ったときの危機管理として、日頃から対応手順 (マニュアル) を明確化したり、プレス対応を訓練したりする必要は言うまでもないが、それを日本人幹部社員だけがやっていたのでは 「仏作って魂入れず」だ。本社から現地会社へ、駐在日本人幹部から現地社員への権限委譲なしに危機への的確な対応は図りがたいというのが本稿の本題だ。
  本社の権限が強すぎて何事もお伺いを立てなければならない子会社とか、現地社員の声や意見が日本人の駐在幹部に届かない、あるいは 「どうせ聞く耳を持たないだろう」 と現地社員に思わせているような子会社が一番危ない。初動段階で 「時間との勝負」 に負けるからである。スイス某社はそういう会社の典型ではないかと思われたので、取り上げた次第だ。

  日系でも意識の高い大企業は、既に外部に委託して中国メディアでの自社・製品の取り上げられ方を日々モニターし、中国メディアとの日頃の付き合いも怠りなくやっているが、経営の現地化、権限委譲を進めれば、現地法人の五感と運動神経をさらに発達させることができるだろう。

  御社は大丈夫だろうか? これを機に社内点検をしてみるのも一計だと思う。
(平成18年6月16日記)




 

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