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ブログ 津上俊哉
有害食品・製品騒動に思う

いつの間にかアクセス数 50 万を超えたのに、また、長いブランクを空けてしまいました。話題もはなはだ遅まきでスミマセン。


                      有害食品・製品騒動に思う


  中国では少し前まで、外国人 ( 「外賓」 と言った) と遭遇すると、緊張して 「固まって」 しまう人が多かった。外国人相手の仕事は特殊な仕事と見なされ、スパイ防止や言論統制など特別の管理が行われたものだ (以前本ブログで取り上げた 「統一口径」参照)。
  ビジネスでも何から何までウチ/ソト別仕立ての二元体制が敷かれて、外国が「ウチ」に直に接触しないようになっていた。例えば輸出入に従事できる中国企業は限られていたし (貿易権の制限)、政府でも外資受け入れから輸出入貿易まで 「対外経済貿易合作部」 という海外向けの一元窓口が設けられていた。輸出商品には独自の規格基準があり、これまた 「輸出入商品検験局」 という別仕立ての役所が認証を担当していた。
  そういう二元体制で外国との接触面を限定した背後には、情報管理やコトバの問題だけでなく、喩えて言えば 「外国人にみすぼらしい 『お勝手』 は見せたくない」 という感覚もあった。また、海外事情に暗い中国企業をみだりに表 (海外) に出すのはみっともないし、外国に迷惑をかけてしまうという慮りもあったと思われる。

  たしかに、90 年代前半までの中国企業は品質、納期、商慣行への理解などあらゆる面でレベルが低かった。海外市場で通用する製品を中国で生産・販売するためには、外資が中国に子会社を設立し、親会社が直轄で指導することが定石だった。だから 2000 年頃だったか、ユニクロ衣料製品の中に、直営工場以外に中国地場の協力工場で製造したものもあると聞いて驚いたのを覚えている。もちろん技術指導は行うにしても、”buy & sell” だけの関係で、これだけの商品が供給できるようになったと知ってビックリしたのだ。
  それから 10 余年、中国人も海外慣れして、外国人と接触しても 「固まら」なくなった。ビジネス面でも海外市場で通用する商品を作れる企業の範囲は外資企業から次第に地場 (内資) 企業に、それも最初はユニクロ協力企業のように海外からの技術指導を期待できる企業に限られていたのが、技術水準の向上に伴って、さらにフツーの会社にまで拡大しつつある。グローバリゼーションの波は中国のウチ深くにまで達したのだ。

  有毒な食品やおもちゃ、医薬原料などの問題はそういう状況の中で起きた。争議を引き起こした一連の中国企業達に外国に対する積極的な害意があったとは思わない、おそらくは金儲けに走り、後先のことも考えずにやったという類だろう。
  明白な悪意・故意がなかったにしては、一連の騒動は世界を震撼させた。中国による知財権侵害や規格不合格くらいなら免疫ができている世界中が今回の事件ではショックを受けた。とくに生命・健康に害の及ぶ行為に対しては、「まともな人間のすることではない」 といった視線が向けられるようになった。
  この結果、中国が被った損失は甚大だ。いまや中国の年間輸出総額は 1 兆ドルを超えているが、世界中で中国製品の買い控えが起きている。向こう数年間にかけて、経済損失は兆円の規模に及ぶだろう。経済を超えた国全体の信任失墜という無形の損失も大きい。世界中の報道論調に目を通していると、その感を強くする。
  中国側には 「なんでごく少数の不心得者の所業を中国全部がそうだという式に騒ぐのか」 という不満が鬱積している。確かに、調達する外国側の指導を受けて、日本でも十分普及していない HACCP (ハサップ:米国由来の食品安全衛生管理認証制度) 基準に適合している中国生産者・企業も多いし、世界的な流通資本は 「企業の社会的責任」 を全うするために調達先企業が児童労働や劣悪な労働環境を強いていないかといった点まで目を光らせている。確かに中国製品を一刀両断、全て危険と断ずるかのような論調はヒステリーの誹りを免れないと思うが、中国にも考えてもらいたいことがある。

  今回の騒動を契機に調べてみると、ニセ薬やら有毒食品による人命・健康被害は中国国内ではそれほど珍しい事件ではないらしい。そこで指摘されているのは、被害を引き起こした企業はいっとき操業停止を命じられてもやがて操業を再開する式で、責任者が刑務所に入れられることも稀れ…つまり、規制はあっても執行がゆるく、「儲けるためには何でもアリ、儲けたヤツが勝ち」 という拝金主義とモラル逸脱の風潮を根絶できないという現象である。
  これまた中国でお馴染みの旧い問題 (老問題)、知財権侵害と同根な訳であるが、人の生命・健康に関わるだけにたちが悪い。
  そうしてみると、今回の騒動は、改革開放や経済融合の進展によりウチ・ソト別仕立ての二元体制が解消、いわば 「垣根」 が低くなるに伴って、とても外国人には見せられない、お恥ずかしい 「お勝手」 の内幕が海外で暴露してしまったのだと解釈できる。

   しかし、だからと言って 「外国向け」 食品・製品の安全確保といった 「二元体制回帰型」対策で用が足りるだろうか。答は否、国民の意識を含めた 「垣根」 を元の高さに戻すことは不可能だ。自国民の健康も危険に晒されているのだから、いま本当に必要なのはウチ・ソトを問わずに、国全体の意識、取り組みを強化することのはずだ。
  それには時間がかかる ・・・ 「窓を開ければ蠅が入ってくる」 とは中国のことわざだったか ・・・ グローバリゼーションはやっかいな副産物ももたらすものだということを改めて痛感させられる。
  中国国民の健康がこの種の危険に晒される心配をしなくて済むようになるまでの間、中国調達を行う外国企業は、信用のおける第三者による規格適合の証明や生産状況の直接監視など、安全な中国産品を選び出す体制を整えて身を守る他はなさそうだ。

付記 今回の事件では中国批判があふれたが、公平を期し、自省の念を忘れないために、日本の食品産業のモラルについても一言。
  常々慨嘆させられるのは、原産地やブランド表示、保証期限などを巡る日本国内の嘘・不正の横行だ。やれコシヒカリ、備長炭などなどと、まるで 「嘘偽りを語るのがこの業界の商慣行」 と言わんばかりだ。安全性や品質は、これから国産食品が最も 「売り」 にすべき美点のはずなのに、その信頼を自らぶち壊す真似をして顧みない。
  この種の嘘・不正は人命や健康被害に及ぶような話ではないから、もとより中国の問題と次元が違うとはいえ、大手企業を巻き込むこの業界の不正続発は日本のモラルもおかしくなっていると懸念させるに十分だ。中国の低いモラルや拝金主義に批判を加えることは必要だが、同時に自分の足許も点検する冷静な姿勢で臨みたい。
平成19年10月4日 記




 

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