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「大恐慌」フォロー第六回目

「金融危機」は1987年のブラックマンデーを抜いて、「戦後最悪の危機」に昇進しましたが、「大恐慌」に並ぶ心配をしなくてはならなくなり始めているのかも知れません・・・神様!


                    「大恐慌」フォロー第六回目
                       ブラック・マンデー?


  日本も米国も明13日は祝日でマーケットがお休みだが、今し方、週末の英米主要紙を斜め読みしたところでは、明日が 「ブラック・マンデー」 になる、つまり最悪の事態に向かっているのではないか、という胸騒ぎがしてならない。

  読んだのは、日本時間の今朝ポストされたFT紙記事 “Pressure grows for details of stabilisation plan”と、米国時間で11日付け(だが多分日本の今朝だろう)のNYT紙 “White House Overhauling Rescue Plan” だ。

  前者のFT紙からは、10日のG7で決まったアクションプラン (27行というヤツ) に対する欧州の強い不満、不安が伝わってくる。「こんな抽象的な作文では月曜日のマーケットが越せない!」という感じだ。欧州主要国首脳会議が日曜日に急遽パリで開かれる(ちょうど今頃やっている?)のも、せめて欧州だけでももっと具体的なアクションを発表しなければならないという切羽詰まった動機に基づく由だ。
  FT紙によると、ドイツが3000?4000億ユーロの公的資本注入を早急に実施することがアナウンスされるという(メルケル首相は「保証します、皆さんをがっかりさせませんから、極めて具体的なものになります」と述べた由 (この項Bloombergによる) 。また、英国もロンドン市場が開くまでに資本注入の詳細計画を発表、その中には資本注入を受けた銀行が新たに借り入れる債務には政府保証が付くことも含まれるという。
  欧州から具体的な計画が出てくるのは非常に “encouraging” だが、問題は欧州側に 「もはやグズの米国頼むに足らず」 というような “sentiment” が見え隠れすることだ (サルコジ大統領はこの首脳会議の目的を “put meat and muscles on the bones of that skeleton” と表した由、裏返せばG7のアクションプランについては 「こんな骨、スケルトンだけでどうなるというのだ!?」 と聞こえる)。

  翻ってNYT紙。こちらは民主党からも提案 (要求) のあった公的資本注入案に対して、ポールソン長官はじめ財務省が先週まで如何に頑強に抵抗し、かつ、突如豹変したかを叙述し、財務省はこの数週間の法案審議で時間を浪費したのではないか、銀行の国有化に対する財務省の “deep philosophical aversion” が 「あらゆる対策」 を検討することの妨げになったのではないか、リーマンの救済を拒否して破綻させたことが危機を世界に転移させたのではないか、公的資本注入は救済法案の規模 (7000億ドル) を上回るのではないか等々の疑念・批判が生まれていると書いてある。そして成立した金融安定化法に対するコロンビア大学ミシュキン教授のコメントとして “Even if it was adequate before, it’s not adequate now” とも (連銀の前理事ですよ!) 。
  記事の後半には、救済法案が不良資産買取で予定するリバース・オークションは、MBS資産の中身が seniority も格付けも支払条件も異なる多数の “tranche” から構成され、あまりに込み入りすぎているため、容易に実行できないと述べている、「そんなこと、最初から分かっていたはずじゃないか!?」 と言いたいところだが、ポールソン長官や財務省は 「事態の悪化がこれほど急速に進むとは予想していなかった」 のだろう。突如宗旨替えして公的資本注入を売り始めたのもおそらく同じ理由からだ。

  間違いに気が付いて 「君子豹変」 したなら朗報だが、問題は、豹変ぶりがなお不足している (と外部から受け止められている) ことだ。
  米国の公的資本注入案が具体性を欠く最大の理由は 「馬を水辺に連れて行くことはできるが、いやがる馬に水を飲ませることはできない」 ということだ。要は役員報酬の制限やら政府 (株による) 銀行管理に対する業界の抵抗があり、「相手がある話」 なので、これから説得しないといけないのだという (ますます 「日本とそっくり」 だ)。
  そのために、これから資本注入を受けるとどういうことになるかを示す 「標準プラン」 を示して業界と調整するのだそうだが、そんな悠長なことをしている暇が残されているのか。まさにこれが欧州をして 「こりゃアカンわ」 と思わせた所以ではないか。
  くわえて、NYT紙記事は末尾で、先週の法案成立時にポールソン長官がした 「取得する銀行株は無議決権株になる」 という発言等を引いて、業界寄りの長官を皮肉っている。恐らく長官はこれまでの業界との協議の積み重ねの中で表明してきた立場の積み重ね等があるせいで、「情況はいまや変わった、キミらの陳情を聞いている時間的余裕も交渉上の譲歩の余地もいまや無くなった」 と言い放つことが出来ずにいるのではないか。相撲で言うと 「体がない」 状態 ・・・ これは新たな米国内政上の火種にもなりうる問題だ。
  事態の切迫度に関する米欧間の認識の不調和といい、この期に及んでなお金融業界に厳しい物言いができないことといい、ポールソン長官の内外におけるクレディビリティには黄色信号が灯り始めているのではないか。いま、米国財務長官がクレディビリティを失ったら・・・ 真性カオスです。

  最後にFT紙に戻る。ゾッとするようなことが書いてある。ソースに確認せずに孫引きするという、クォリティ・メディアにあるまじき中身だが、「イタリアのプレスによると」 として、「最悪のシナリオの場合、政府が正しい対策を講ずるまでにあと数週間かかり、その間マーケットはさらに20%下落するだろう、そこで底打ちになる」 というIMFチーフ・エコノミストのオリビエ・ブランシャール氏の発言を報じている。
  先週末の水準からさらに20%下がれば、世界中で大企業もバタバタと逝きかねない・・・ 本当に 「大恐慌」 になる。「そういう物騒な中身を孫引きで報ずるのかよ!?」 と言いたいが、敢えてそうするところに記者の危機感が滲みだしている気もする。

  骨だけのG7アクションプラン、米欧間の不調和・・・ 「マーケット」 が劇的に破壊的な反応を示しかねない材料は事欠かない。「マーケット」 は別にデーモンでも何でもない、ただ臆病でパニクっているだけなのだが、あと十数時間の間に劇的な発表があって、明日が 「ブラック・マンデー」 にならないことを神様にお祈りしたい。ついでに、そこで稼いだ1週間以内に、ポールソン長官が本当の 「君子豹変」 をしてくれますように。
平成20年10月12日 記




 

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