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ブログ 津上俊哉
雑 感 (その2)

円高になると、平常心を失い、後でほぞ噛むようなバカをやる・・・プラザ合意、ルーブル合意の反省を今回の金融危機対策で活かさないといけません。


                         雑 感 (その2)
                  これは 「助言」 か、それとも 「懇願」 か

  
  10月25日北京で閉幕したASEM首脳会合の共同記者会見に出たサルコジ仏大統領は、11月15日の金融サミットでは為替問題も焦点になるとの見通しを表明、「円相場の急騰が議論の範囲に入ると認識している」 と語ったそうだ。西欧諸国に 「円高」 の心配をしてもらえるとは、かつてなかったこと、「感激の至り」 だ。
  二日後のFT紙社説(“Yen is caught in carry-trade turmoil”)。 冒頭、先進国の協調利下げと “risk-appetite” の減退により、円を舞台とするキャリー・トレードの巻き戻しが猛烈な勢いで起きていること、FT紙は以前からキャリー・トレードの危険性を指摘してきたことを述べたうえで、エディター氏はのたまう。
Money is pouring back into Japan, raising the value of its currency. The speed at which the steamroller (筆者注:the unwinding move)approached surprised many. Not everyone will manage to scramble out of the way in time.
One casualty will be the Japanese economy, arguably already in recession. Besides weakening global demand, an overvalued yen is a further blow to Japan’s all-important export industry. Deflation may make an unwelcome comeback.


    そんなにご心配いただいて・・・でも、ウチの病状、そんなに重くないですから
    (いまの90円台くらいなら平気)。それに円高も悪いことばかりじゃないし・・・

    エディター氏は続ける。
Given the current pressure on the yen, additional measures may be needed. Japan could print yen and use them to buy foreign currencies, putting a floor under the yen and preventing deflation. While this would slow a correction of global imbalances, highly disruptive jumps in currencies due to speculative flows are the greater of two evils.


  あの、それって円のジャブジャブ供給をして外貨 (米国債とか) を買えとのお勧めですかね・・・ 「そうすれば円高に歯止めがかかり、デフレも防げる」 と・・・はぁはぁ・・・でも、米国債でもポンド債でもユーロ債でも、みなさんこれから金融機関の公的資金注入やら何やら大量発行の予定で、需給が悪化しそうだし・・・それに、エディターさん自身が冒頭で警告していたキャリー・トレードと同じくらい危なくありません? おっと、もとい!! 円ショートする点は同じでもヘッジのロングを持たないのだから、キャリー・トレードよりもっと危ない、ですよね。

    エディター氏の最後の〆はこうだ。
In spite of the extraordinary volatility over recent weeks, exchange rates between major currencies other than the yen do not appear too out of sync with developments in the global economy. For now, unilateral interventions to boost or depress these currencies would be undesirable and counterproductive.
In contrast, the yen’s surge does not reflect economic realities. The G7 should be bolder and attempt to slow the steamroller through concerted action.


  要するに、主要通貨の為替レートの中で円の急騰だけが経済実態を反映しない異常値なので、(日本が上述ジャブジャブ・リフレ策+外貨買い介入の要求に応ずるなら) G7は協調介入してもよいのでは、ということか・・・
  しかし、従来の円レートはキャリー・トレードのせいで円安に振られてきた。“economic reality” を反映していないのは急騰後の今のレートか、それともこれまでのレートか。円キャリー・トレードのせいで世界に過剰流動性がばらまかれたと指摘する人も多い。日本はこれからもキャリー・トレードで世界に流動性を供給していくべきなのか。供給すべきだとしたら、それは如何なる“terms and conditions” の下で?


  どうせ、そのうち来るだろうとは思っていたが、米国でなく英国から、しかもこれほどあけすけに 言われるとは思わなかった。
  ふと思い立って為替を見てみると・・・なるほど。この社説が出た27日、ポンドは対円で140円の大安値をつけている。同じ日のユーロ/円は114円割れの安値、何ヶ月か為替ボードを見る機会のなかった人が見れば、きっと、ポンドがユーロ、ユーロがドルだと見間違うだろう。
  自国通貨がこんなに安いとは、「円高に喘ぎ、資金の流入に苦しむ」 日本から見ると、「羨ましいかぎり」 ですなぁ!

  英国も含めた欧州の金融機関が自国や東欧圏で火が付いただけでなく、金融危機で hard hit されている世界中の新興国にたんまり exposure を抱えていて、米金融機関以上に危ないことは、本職の金融ブロガーさん達がかねがね指摘してきたことだ。ここへ来ての通貨安、ドルより一足先に尻に火が付いたか・・・それでいて 「円高でお困りでしょう」 とはね・・・

  でも、筆者はこういう社説を読んでも 「欧米の陰謀」 とは思わない。なぜなら、日本が自分で 「円高でたいへんだ!」 と騒ぐから、この種の 「つけ込み」 を招いているだけのこと、だからだ。
  もう一度、円高の 「功と罪」 は日本にとって、あるいは他国にとって何なのかを洗い直し、それを 「是正」 することの “cost”、“ benefit” そして “risk” は誰が分担すべきなのかをはっきりさせないと、後で 「日本ってアホちゃう?」 と嗤われるような仕儀を招くのではないか。

  おまけに、こういう局面になると 「世界と日本の経済の安定のために国際貢献を!」 といった論を唱える御仁が現れる。根っからのお人好しなのか、それとも (どっかの国の) 「エージェント」 気取りなのかは別として。
  米国も欧州も危機に直面するなら世界で対策を打たなくてはならない。それは国際社会の一員として当然のことだと思う。しかし、上述のような論に決定的に欠けているのは、この種のことは国際場裡でそれぞれの国益を闘わせる討議を経て、合議で決めなければならないという視点だ。

  最後に、IMFを舞台とした金融改革について欧米で議論が始まった由、IMFは新たな国際金融制度・規制の舞台になるだけでなく、今後の欧米財政 “Bailout” 対策を話し合う場にもなるだろう。欧米が牛耳るIMFを舞台とするということは、金融危機後の金融制度・政策も欧米が主導権を握り続けるという意図の表明だ、カネは “Asian” に出させることにして。
  悔しいが、いまの日本や中国の実力では、これを蹴っ飛ばす代案が出せない。「ゲームの親」 は依然取れないハンディの下で、後はカネを出す側の合議、共闘を如何にやるか (それとIMFから 「遠い」 アジア諸国の危機管理を如何に地域の枠組みで担保するか) だが、本来よく相談すべき相手の中国も既報した如く、「自国の経済成長を維持するだけで手一杯」、危機対策を巡る貢献も危機後の国際秩序構築にも手が伸びそうにない雰囲気だ。

  という訳で不安と憂鬱にかられた連休であった。
平成20年11月3日 記




 

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