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雑 感 (その3)

リフレ派の方、教えてください。


                          雑 感 (その3)
                      リフレ派の方、教えてください


  先週の日銀の 「遅れて来た小幅の利下げ」 に対して、いわゆるリフレ派のブロガーさん達から多くの批判が寄せられていた。
  エコノミストでない筆者にはリフレ論の当否がイマイチ分からない。一方で、マネタリーな政策が 「漢方薬みたいに」 じわじわ経済に効いてくるイメージは強く持っていて、商売に絡む中国経済ウォッチングでも、その側面が何時も気になっている。過去の日本金融政策についてリフレ派が主張したこと (例:2000年のゼロ金利解除は誤り) や一部実行されたこと (2001年?の量的緩和政策と2003年の不胎化なしの外為介入を通じたリフレ) も正しかったと思う。
  だが他方で、以下のような疑問について答えを見つけられずにいるのです・・・以下は 「誰か教えてください」 というエントリーです。


疑問1 世界経済全体に 「グローバリゼーション」 のような大規模な構造変化が起きているとき、一国単位のリフレ政策は執行しづらいのではないか

  筆者の脳裏にある 「グローバリゼーション」 イメージは2幕からなる。第一幕は、つい最近まで通用していた 「世界の工場=中国」 が象徴する時代だ。日本市場で通用する中国製品は、当初は生産代替目的の日本現法製品だけだったが、グローバリゼーションの進展と中国企業の成長によって、「ユニクロ」 に象徴されるように “buy-sell” 関係しかない中国企業の製品も日本に入るようになった。それ以降、日本経済に内外価格差を裁定する力が本格的に働き始めた ・・・ 「中国屋」 である筆者には、90年代以降に日本を覆ったデフレ圧力はバブル崩壊やその後の政策対応の拙さといった 「一国要因」 だけでもたらされたものではなく、グローバリゼーションがもたらした構造変化による面も大きかった気がしてならない。

  こういう時代、リフレ政策は執行しづらいのではないか、たとえばグリーンスパンの時代。昔なら間違いなくインフレが起きるほど拡張的な金融政策を取ったのに、実際に起きたのは資産インフレだけだった、みたいな印象がある。それはグローバリゼーションに伴う貿易財の価格下落が著しかったせい、グ氏には 「舵取り」 のサインが見えにくくなっていた ・・・ 「グ氏が犯した過ち」 に情状酌量事由があるとすれば、そこではないかという気がする。

  翻って、日本の90年代?は、バブル崩壊後の不況、そして98年以降のプルーデンス危機といった 「一国」 性デフレ要因に、アジアの経済統合がもたらす強大な内外価格差裁定が重なった (しかも、かなり短期間に急激に働いた)。プルーデンス対策的なリフレ策だけじゃ効かないので、いわばリフレを「ダブル」で注文しないとデフレを防げなかった、みたいな難しさがあったのではないか。
  しかし、そもそも大きな 「経済統合」 が起きてデフレ傾向になるとき、国別インフレ率に準拠してそれが2% (例えば) に戻るまでベースマネーを増やし続けることは、時代の大きな流れに適ったことなのだろうか。中長期的に 「東アジア経済はもっと統合されていく」 という仮定に立つと、その政策スタンスは今から 「日本はEUまではやるが、Euro (共通通貨) は将来もやらない」 と宣言するようなものだという気もする・・・でも、ユーロ圏が域内経済の披行性でモメる様など見ると (人民元中国の沿海と内陸も同様)、通貨圏には 「適正規模」 がある気もする。ハナから 「東アジアもゆくゆくは Acu を創設しなければならない」 と決めてかかるのも性急か・・・と、これは自問自答。


  筆者のイメージするグローバリゼーション第二幕とは “Emerging Economies” の台頭→世界的な需要増大がもたらす 「物価革命」 の時代だ。今年夏まで暴騰を続けた石油、穀物など国際商品市況を前に、水野和夫氏らが唱えていた。
  「それって、この秋で終わったんじゃないの?」 たしかに金融危機発生後の急激な価格下落のせいで、いまやこの説は色褪せたかに見えるが、筆者は向こう数年 “pause” を挟むとしても中長期的に “to be continued” だと思っている (エネルギーに関して言えば、今次危機のせいで再生可能エネルギー開発や新規ガス・油田開発等が打撃を受けたせいで、 「再来」 のときは今夏よりひどい事態になる可能性も増した)。
  グローバリゼーションがもたらす世界の価格体系へのインパクト第一幕が 「先進国のデフレ圧力」 だったとすれば、「価格革命」 はグローバリゼーションのインパクト第二幕とも言えると思う。
  今後世界経済が金融危機から回復し、石油、穀物など国際市況商品の価格再上昇、つまり 「物価革命」 再開となったとき、世界規模のコストプッシュ・インフレを 「一国」 リフレ政策で抑えることは可能だろうか。インフレ率が2%を大きく上回るとき、リフレ政策はインフレ率が2%に落ちるまで金融を引き締め、総需要管理を強化し続けるのだろうか、そして、それは政策として正しいのだろうか。
  後知恵だけど、今年7月 「危機は収束した」 と早合点した米欧がずいぶん「タカ派」 になった一時期があったが (ECBは現実に利上げした、まだ4ヶ月しか経ってないけど、あの頃が懐かしいー)、その後の 「裏目」 展開を思い起こすと、世界規模の構造変化に 「一国」 で立ち向かうリフレ政策の難しさが滲み出たようにも感じられるのだ。
  「世界変化に 『一国』 で対応しようとするのが間違い、世界で対応すべし。よって今のような金融危機には 『世界協調リフレ』 で対応しよう!」 ・・・ 当面はそれでいいと思うけど、回復期に入るとたちまち披行性でバラけてしまう、Region でも難しいのに、global はなおさら難しいだろう。

  つまり、リフレ政策を効果的に執行しようにも、構造変化の激しい時代はある意味で 「ノイズ」 が大きすぎてうまくいかない可能性があるのではないか・・・


  こういう問題設定にリフレ派の人はどう答えるか教えてほしいのです(質問はまだ続きますので、まとめてヨロシクお願いできると幸甚です!)

平成20年11月4日 記




 

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