雑 感 (その5 終わり)
今次金融危機が最悪の金融恐慌に発展する可能性は少し遠のいたような気もしますが、他にも想定しておくべき「危機」はいろいろあると思います。
雑 感 (その5 終わり)
金融危機と並んで心配しなくちゃならないこと
金融危機は先進諸国を中心に日銀が数年前までやっていた大量の流動性供給を一斉にやり始めたおかげで、LIBOR に代表される取引金利が目に見えて下がり始めた。株式市場は実体経済の悪化を懸念して依然不安定だが、9月のリーマン破綻に始まったプルーデンス危機は少し遠のいた感じである。
長い冬は始まったばかりで 「迎春」 までには未だ紆余曲折が予想されるが、「雑感」 シリーズの最後は、こうした危機克服への努力の腰を折り、台無しにしかねない経済外の危機のリスクを考えてみたい。筆者は思いつくだけで3つあると思う。
N5H1 型鳥インフルエンザの“pandemic” (爆発的流行)
第一は、かねて恐れられている N5H1 型鳥インフルエンザ・ウィルスがヒト→ヒトの感染能力を獲得、初期封じ込めも奏功せず、次の冬の間に “pandemic” (爆発的流行) が発生することだ。
なにせ致死率が50%を超え、日本だけで60万人以上の死者 (総人口の0.5%、神戸大震災死者の100倍オーダーですよ!) を出す恐れのある恐ろしい疾患だ。その意味で 「重めの風邪」 みたいなニュアンスの 「インフルエンザ」 という名前は甚だ “misleading” であり、世界史に遺る 「現代のペスト」 と考えた方がよい。
2003年の SARS 騒動は3ヶ月で終熄してくれたせいで事なきを得たが、あと3ヶ月続いていたら、東アジアはどえらいことになっていた。さらに鳥インフル “pandemic” がもたらす災厄のマグニチュードはその比ではない、病の流行それ自体は半年も経てば終熄するかもしれないが、その間、世の往来、経済活動が大幅低下し、その後にも深刻な 「後遺症」 を遺す。
こういう事態が起きたとき、「マーケット」 はそれをどのように 「織り込む」 のだろうか。商談ができなくなる、物流機能が深刻に低下する、くらいの話では済まない。世界銀行が2006年に行った推計によると、「最初の1年間で世界全体で4兆ドル (世界GDPの3.1%に相当) の経済損失が生じ、さらに死亡率が1%増加するごとに1.8兆ドルの損失が加わる」 由だが、そもそも、株式市場やらは開けるのか (開くべきなのか)、企業は行員の出勤していない銀行支店でどうやって融資をしてもらうのか、手形は落とせるのか・・・
関東大震災の直後、政府は債務到来期限のモラトリアムを発布したと聞いたことがあるが、“pandemic” が襲来したら、経済についても、決済面を含めて特大級の危機管理総合対策を講じないと、経済・社会に文字どおり破壊的な悪影響が及ぶ恐れがある。
いま、世の関心は 「百年に一度」 の金融危機とそれがもたらす不況にばかり向いているが、今後数ヶ月のうちに、それに重ねてもう一つの 「百年に一度」 が来ないという保証はないのである。
「9.11」級大規模テロの再発
オバマ大統領が誕生した。彼の治世がどうなるのか今はよく分からないが、「マケイン大統領」 を望んでいたアル・カィーダは選挙の結果に落胆しているという。
アル・カィーダがマケインを望んだ理由は、彼の方がブッシュ政権の “legacy” (負の遺産) をよく引き継いでくれそうだから。融和的・協調的で、欧州だけでなく中東ですら人気があるオバマだと 「仕事がやり辛くなる」 らしい。
こんな物騒なことを書くとお叱りをうけるかもしれないが、私がオサマ・ビンラーディンの立場だったら、今こそ 「9.11」 の再来と言える規模のテロを画策する。それが再び大都市に対する無差別大量殺人・破壊の形を取るのか、それとも別の形かは別として、未曾有の金融危機で 「イスラムの敵、米国」 が弱って喘ぐ今の時期は 「聖戦」 を仕掛ける上でまたとない好機だからだ。
「鳥インフル」 に比べるとマグニチュードが数段落ちるが、これまた金融危機に苦しむ世界にとって、堪えがたい痛打になることは疑いなしだ。
朝鮮半島有事
グローバル危機と言える上記2つのリスクに比べて、こちらはリージョナルな危機でしかないが、かねて懸念されてきた 「首領様」 の健康がいよいよいけなくなり (或いはそれを隠蔽し続けられなくなり)、彼の国でカオスが発生したらどうなるか。
筆者は朝鮮半島問題に暗いのでよく分からないが、仮に権力の承継がうまくいかずに、食糧事情を筆頭に混乱、大規模な難民が発生したりしたら、今でも金融危機で苦境にある韓国はどうなるか、米・中両国 (あるいは中国だけ?) は北鮮軍の暴発・混乱や核兵器の紛失を防ぐために保障占領みたいな挙に出るのではないか。
なにせ、日本海を一跨ぎした目と鼻の先で起こる事態である。日本だけでなく北東アジア全域の経済・社会が深刻な打撃を被るだろう。今次金融危機では比較的軽傷で済んでいると言われる北東アジアが、である。
危機に遭遇しても挫けずに頑張れる人間はたくさんいる。しかし、そこに思いもかけない別の危機が重なると、人間は 「ポッキリ折れ」 てしまいがちだ。とくに先行する危機の 「底が見えてきた」 と希望を持ち始めたときに、そうなりがち・・・
それを防ぐために大事なことは何か。答えは 「予め想定しておく」 ことである。中国人のよく使う諺に 「居安思危」 (安きにありて危うきを思う) というのがあるが、これはさしづめ派生型、 「居危思別的危」 (危うきにありて別の危うきを思う)というところか。
平成20年11月8日 記
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