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ブログ 津上俊哉
中国の 「58兆円内需拡大策」

正直、不意をつかれました。「中国通」って言っててもまだ修行が足りないです・・・反省


                     中国の 「58兆円内需拡大策」
                           ヤラレた・・・


  ヤラレた・・・それも二重、三重の意味で。今晩 (9日)、「国務院が内需拡大策10項目を決定し、2010年末までに4兆元 (=約58兆円) の投資を計画」 というニュースが入ってきた。以下はとるものもとりあえずのコメントです。

  詳しい内容は未だつまびらかでないのだが、新華社電によると5日に開かれた国務院常務会議で 「複雑で急変する国際経済情勢に対応するため、積極財政と適度に緩和された金融政策を実行し、さらに内需拡大に資する施策を打ち出す必要がある」 と決まり、低所得者や農民向け住宅建設促進、農村インフラ建設、鉄道・道路・空港などの基幹インフラ建設、衛生・教育・環境面の支出・投資拡大、増値税減税など10項目の措置が挙がっている。
  先日来、景気が急減速しているわりには打ち出される刺激策が物足りないと感じていたのだが、中国もついに 「物価・景気の両睨み」 路線を止めて、景気刺激に全面転換するハラが固まったように見える。

  二重、三重の意味で 「ヤラレた」 と思うのは次のような点。

第1:発表のタイミング

  先週から増値税の減税 (減価償却する固定資産を購入してもその全額について増値税が課せられる現状を改める由) とか、鉄道・道路等のインフラ投資追加とかの予告的なニュースは流れ始めていたのだが、今晩の発表には正直、不意を突かれた。北京ではきっと噂がいっぱい流れて、メディアは週末返上で取材に駆け回っていたのだろう。こういうときはやはり東京にいるハンディを痛感する。

第2:胡錦涛主席訪米の手土産だった

  タイミングが今なのは、15日から開かれる金融サミット出席のため、胡錦涛主席が訪米するからだ。これも今晩知ったが、昨8日、胡錦涛主席はオバマ次期大統領(ブッシュではなく)と電話会談もして 「金融危機克服に向けた協力」 を確認し合っていた由だ。
  ・・・なるほど、胡主席はこの内需拡大策をひっさげてワシントンに乗り込む訳だ・・・やはり外交上手ですね。「金融サミットには胡主席が出席」 と聞いて、やや意外に感じたのだが、「中国通」 を自認するなら、そこで 「それまでに景気刺激策が出てくるはず」 と読めなくちゃいけない、反省・・・。

第3:日本はエライ差をつけられてしまった・・・

  それにしても、これで日本はエライ差をつけられてしまった。こちとらの景気刺激策はマグニチュードで遠く中国に及ばないだけでなく、中身も 「迷走」 中・・・これが第3の 「ヤラレタ」 だ。
  でも、日中のその 「対照」 は他の国にとっては、それほど意外には映っていないと思う。イヤなことを言うようだが、やはり 「日本は経済面でも既に中国に抜かれている」 のです。そう思っていないのは我々日本人だけ。


今後の注目ポイント

  今回の発表はまだ詳細が明らかでないのだが、自分の備忘の意味も込めて、今後の注目ポイントを二、三書きたい。

(1) 投資支出の中身

   「投資額4兆元」 とは大見得を切った数字だが、全てが純増分ではないだろう。執行中の11次五カ年計画との差引が必要だが、「今年第4半期に中央投資を1000億元増加、震災復興基金の来年分を200億元前倒し手配、地方や民間投資分も併せて4000億元分とする」 との文言も見えるから、「一度出した料理の暖め直し」 だけでもないようだ。
  発表になったのは未だ項目だけで数字の割り振りがないが、関連報道として、鉄道・道路・空港など交通インフラに2兆元以上の投資が行われるというのもあった。中国には、まだまだ投資の値打ち・必要性の高いインフラ計画がたくさんある。この数年の景気過熱のせいで、それらの投資はむしろ抑制されていたくらいだ。アクセル全開となれば、「待ってました!」 だろう。
  ほかに、農業関連の言及が多いのも特徴だ。これには先月の共産党第17期三中全会で打ち出された 「農村改革発展の重大問題に関する決定」 も関わっているはずで、政府部内ではこれとの絡みで、より詳細な項目付け、箇所付けも進行していると思う。「大規模農業水利事業」 なんていうのは注目銘柄だ。

(2) 金融緩和の中身

  今回の内需拡大策の実効性を左右するもう一つのカギは金融緩和の中身だ。これなしに財政出動だけしても、既に大きく “nose dive” し始めている経済マインドを上向かせることはできない。
  10項目の最後には 「金融の経済成長支援の力の入れ具合を高める」 として、「商業銀行の貸出規模に対する制限を取り消し、合理的に貸出規模を拡大する」 とある。貸出制限の手段は、個別行向けの 「窓口指導」 と預金準備金比率の引き上げだったが、窓口指導は廃止ないし緩和されるのだろう。そのための原資が足りなければ先月0.5%引き下げられた準備金比率の再引き下げも行われるだろう。
  しかし、カギは他にもある。景気急落のせいで不良債権が増加することを恐れて、銀行自身の貸出意欲も急減退しているのだ。制限を撤廃するだけでは貸出が増えない可能性があり、そのときの当局の対応が 「見物」 だ。


最後に麻生首相へのお願い

  麻生首相は 「自分が先に言い出した」 金融サミット 「共同議長国」 のタイトルにご執心だと聞きました。でも、暴走気味の某国大統領が主導するEUのサミット準備は、そんなうわべでなく、はるかに中身先行型で、そのための根回しも活発と報じられています。その 「インナー」 に入れているようには見えない日本が肩書きだけに執心する意味はあるのでしょうか。
  今晩の中国の発表で、麻生首相は 「焦る」 でしょう。きっと 「対抗策を打ち出せ」 とか言うのではないでしょうか。でも、上述したとおり、日中の「対照」 は他の国にとってはもはや自然なことなのです。財政がママならぬ日本にできることは限られているのですから、無理に張り合おうとしないでください。そんなことを考えていると、それこそ財政出動の代わりに円をジャブジャブにして減価必至な欧米の国債を無制限に買い入れる 「国際ヘリコプター・マネー政策」 でも約束させられかねないです。
  以下は憶測ですが、ひょっとすると中国は今日の発表の陰で、この種の 「ヘリコプター」 式政策は要請があっても拒否する方針を固めたのかもしれません。「そんなことをするくらいなら、本気で内需と輸入を拡大する。それが中国の 『国際貢献』 だ」 (海外に需要を提供する、その代わり資金収支の黒字は減る、米国債の買入額も減るかも・・・)」 そんな中国と無理に張り合おうとすると、それこそ日本には欧米からの外債買い込み要求が二ヶ国分回ってきかねませんよ。
平成20年11月9日 記




 

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