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ブログ 津上俊哉
今後の国際通貨体制、中国はどう出るか

「なるほどガッテン」 シリーズの2回目として、中国の話をします。


                     国際通貨体制のこれから(その2)
                       今後、中国はどう出るか


   「危機の震源地なのに “Seniority” の特権を失わないせいで、米ドルがユーロを始め大多数の通貨に対して増価している」 という一橋大学小川教授の解説に納得した話の続きを中国にこと寄せてしたい。

 中国、当分は 「ドル基軸」 支持、対米協調

  つい先日北京で、学術色が強いのに企業経営者などアカデミア以外も参加、という珍しい日中間の経済会議に参加する機会があった。当然、世界金融危機が主要な issue として討議されたのだが、席上で中国のある大国有コングロマリットのトップが 「米国の過剰消費が今日の危機を生んだと非難する向きが多いが、話はそう簡単ではないと思う。米国の過剰消費が危機を生んだというならば、米国の過剰消費を可能にした中国の過剰貯蓄も問題とされるだろう。二つはコインの表と裏だ」 と発言したことに感銘を受けた。
  このヒトは国家指導者とも行き来がある要人だ。もちろん、上の認識は 「耳 (目?)学問」 で得たものだろうけど、中国で高位にある人が 「そこまで分かって」 いて、かつ、中国が置かれた微妙な立場を外国人の前で率直に認めることにちょっと驚いた。
  今後の基軸通貨体制のあり方について、この要人は語らなかったが、筆者の憶測を結論から言うと、「当分の間米国との協調体制を重視し、欧州が画策するような大きな変革を性急に求める動きには乗らない」 と思う。先般のG20金融サミットにおける麻生・胡錦涛会談で、両国が 「ドル基軸体制維持」 で意見が合致したことはその現れだ。

 米中マクロ経済の 「双子」 関係は簡単に変えられない

  そう考える理由の第一は、要人が言うとおり中米両国のマクロ経済構造がコインの表裏に喩えられるような深い関係にあり、これを一朝一夕には変えられないことだ。米国債やファニメ・フレディなどGSE債の持ち高が大きすぎてドル暴落で膨大な差損を生じてしまうことは過去に起因する問題だが、中国は今後も当分の間はドル建て債券を購入し続けざるを得ない。
  それがイヤなら直ちに日々の外為市場介入を縮小・停止して人民元レートの上昇を放任することになるが、中国経済はそんな方針転換を直ちに受け入れる準備はないし、それが発表になった日にドルは間違いなく暴落する(中国が最後の大口買い手なんだから)。中国は内外両面から当分の間 「ドル基軸体制」 に随走する他はないのである。それは中国人の嫌う 「被動(受け身)」 な境遇だが、実は悪いことばかりでもない。

  「ドル基軸体制」 維持協力は中国の対米 「カード」 になる

   「ドル基軸体制」 維持に協力することで、中国は米国に対して強い発言権、カードを持つことになる( 「カード」 という言葉は浅薄で好きではないが、敢えて使う)。中国が当面 「ドル基軸体制維持」 を選ぶであろう理由の第二はこれだ。
  しかし、漫然とドル建て債券を買い続けても 「カード」 にはならない。ほんとうに対米 「カード」 を持ちたいなら、人民元レート形成メカニズムの改革(市場化)、介入なしで外為需給が均衡するところまで人民元レートを引き上げていく努力を続ける必要がある。そして 「中米経済戦略対話」 か何かの場で、 「改革を継続・加速し、市場介入規模を順次縮小していく」 ことを米国に伝えるのだ。米国が 「もっと買ってほしい」 と言うなら、見返り要求を出せばよい。
  この対米 「カード」 は去る8?9月のファニメ・フレディ救済劇の折り、既に一度行使されている。「米国がGSE債とドル価値の保全に責任ある行動を取らなければ、手持ちのドル建て債を売りに出す」 という圧力を中国がかけたと言われている。

  金融再生やら景気刺激やらで、向こう何年も米国の財政赤字が激増することは確実だ。需給が悪化する間もドルは 「唯一の基軸通貨」 であり続けるだろうから、その信認を維持することは世界経済全体の課題であり、ドルがほんとうに暴落すれば中国も困る。しかし、 「ドル買い介入を順次削減していく」 というのは、米国に圧力をかけるためのベストのストーリィだ。
  それは中国側に 「為替管理体制改革」 という 「錦の御旗」 があるからだ。過去数年、米国の経常収支赤字がみるみる膨れあがり、誰が赤字をファイナンスしてくれるのかが深刻な問題になっていく過程でも、米国は中国に対して 「人民元レートを自由化せよ (もっと元高にせよ) 」 という説教と要求を止めなかった。それが 「米国債購入量の減少」 と同義であるのに。
  これはクルマなど産業保護派への 「アリバイ証明」 という米国内政の必要に出た挙措であり、米財務省は国内向けに 「元切り上げを強く求めている」 ポーズをとる一方、実際は米国債を買ってもらわなければ困るので、中国当局に 「努力を評価している」 と言ってきた由である。二枚舌、欺瞞の極みであり、米国はこれからその欺瞞のツケを払わされる羽目になる( 「貴国が永年要求してきたことである」 )。とくに元安を強く批判してきた民主党出身のオバマ新大統領がこの問題にどう取り組むかは見物である。

 「為替管理体制の市場化」 努力は “hard currency” への出世に不可欠

  中国が 「為替管理体制の市場化」 の努力を続ける必要がある理由はもう一つある。人民元が兌換自由の “hard currency” に出世するために必須の関門だからだ。人民元は既に香港・マカオだけでなく、「辺境貿易」 を通じて東南アジアに事実上の流通圏を形作りつつあるが、それだけでは所詮 「ローカル通貨」 だ。国際通貨のメジャーリーグ入りするためには資本取引を自由化するとともに、途方もない市場介入をせずに外為取引を維持できる体制作りが必須だ。
  中国が当面 「ドル基軸体制維持」 を選ぶであろう理由の三番目はやや逆説的だが、中長期的に人民元を極の一つとする国際通貨多極体制を実現するためには当面の 「ドル基軸」 からこのような形で移行していくのが最も現実的でやりやすいからである。

 以下、さらに次回に続く。

平成20年11月30日 記




 

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