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ブログ 津上俊哉
国際通貨体制のこれから (その4)

いよいよ、日本はどうするか?です。「今回が最終回」 と言いましたが、文章が長くなりすぎるので、さらに二回に分けることをお許しください。


                     国際通貨体制のこれから (その4)
                       今後、日本はどうするか


  前号まで述べてきたところを前提として、日本はどうすべきかを考えるが、まず導入部として中国と日本とに関わる二つのことを指摘したい。
  第一は、今後の国際通貨体制を論ずる中国人のアタマにあるのは 「ドル、ユーロ、人民元の3極体制」 であり、「日本円」 は既に眼中にないという面白くない現実だ。「膨大な市場介入も止められず、資本取引自由化の目処もない段階で 『3極体制』 など笑止千万!」 なのだが、G20金融サミットでも 「IMF1000億ドル増資」 の土産以外は日本の影が薄かったことを思い起こすと、この見方は通貨問題に無知な中国だけの傾向ではない。
  第二は、「いまは輸出で稼いで大きな経常余剰を抱えているが、早晩高齢化によってその余剰が消える運命にある」 点で、日本と中国の国情がよく似ていることだ。前号では 「よって、中国が “semi” にせよ “seniority” 特権を手にして超大国への道を歩みたいのなら、残された時間はあまりない」 と筆者は書いたが、では日本はどうする?

 「円の国際化」のチャンスに恵まれなかった日本

  日本はいっとき 「円の国際化」 を夢想したが、遂に果たせなかった。チャンスがあったとすれば1980年代後半のいっときだが、二つの理由から 「チャンスが来たのに見送ってしまった」 というより 「チャンスが巡ってこなかった」 のだと思う。
  理由の一は、1980年代はまだ冷戦さなかで 「西側」 の結束が重要だったことだ。その 「冷戦」 文脈の中で日本はプラザ・ルーブル両合意を受け容れ、バブルとその崩壊へ向かっていった。  その後 「債権大国」 にはなったが、米国債の受動的な買い手として対米資金環流を担う 「裏方」 のまま今日に至っている。
  理由の二は当時の日本には相棒がいなかったことだ。1980年代の日本は “Japan as Number one” で輝いていたが、円はしょせん単独で基軸通貨を目指せる 「分際」 ではなかったし(マルクやフランも同様)、当時の東アジアには独にとっての仏のような相棒も存在しなかった。やはり 「日本にはもともとチャンスが巡ってこなかった」 のだ。
  このまま漫然と時を過ごせば、日本は世界金融危機の中で米国債を買い続けて (あるいはIMFに増資して?) 暫しの間、米国や世界の経済危機恢復に 「貢献」 するが、そうするうちに貯蓄の減少 → 経常収支余剰も縮小する時期に入り、最後の取り柄である 「債権大国」 の座も降りて、国際通貨の檜木舞台から退場していく運命を辿ると思う。この国のいまの混迷と自立思考の欠如を思うとき、筆者は9割以上の確率でそうなるだろうという諦観がある。

 日中の通貨協定を考えてみる

  それでも、残る数%の可能性を考えたい。通貨協定やアジア共通通貨などを目指した日中通貨協力だ。「日中」 がドギツすぎると言うなら 「東アジア」 と言ってもよい。インドや中東まで含めるとなると訳が違うが、「東アジア提携」 なら 「日中提携」 とさして違わない。東アジアで日中が手を結べば他の東アジアは全員随いてくると言っても過言でないからだ。

  上述したところから察せられるように、日中 (又は東アジア) 通貨協力の第一のメリットは、高齢化が迫る日中両国がその前に “seniority” 特権を手にする道行きの第一歩になることだ。日中がそのために協力しても期待できるのはたかだか 「多極的」 基軸通貨体制の一角をなす “semi-seniority” くらいでたいした特権は得られないかもしれないが、経常収支が縮小 → 赤字に転落する国にとって、これが無いと有るとでは、将来の過ごしやすさがずいぶん違ってくるだろう。それに、特権が大きすぎても良くないことは今回米国の窮状が示すとおりだ。

  日中通貨協力の第二のメリットは、域内貿易増大により経済が一体化しつつある東アジアで通貨の相互安定を図れることだ(アカデミックにはこちらのメリットが本筋)。日中間で通貨交換レートを固定する、或いは何らかのフォーミュラやバスケットで関連づけする通貨協定を結んで、域内の企業と経済の発展に必要な通貨の安定に努めるのだ。
  このような通貨協定の意義・効用は、大海に浮かぶ丸太同士が互いに縄で結わえ合ってイカダ作りをすることに喩えて理解することができる。

                   通貨協定のメリットは何か
                   「イカダ」 の“metaphor”

○ 丸太が結わえ合ってイカダが大きくなる分、(為替変動の) 波に翻弄されにくくなる。日本と中国はいずれも 「大丸太」 なので、結わえ合えばかなり大船のイカダになる。大丸太の日中イカダができれば、東アジアの他の小さな丸太が寄ってくるだろう。一緒になれば、投機の動きに対して 「うちのイカダに手を出すな」 と牽制できる。
○ 他のイカダ (ドルやユーロ) との位置関係 (為替レート) は依然変動するかもしれないが、イカダの上 (東アジア域内) では以前ほど波 (為替変動) に揺れない生活環境が生まれる (為替変動を小さくできることは域内企業に安定的な経営環境を提供し、予測困難な為替差損も小さくできる)。
○ イカダを強固にするには為替レートを合意し合うだけではダメであり、イカダを壊そうとする (投機の) 外力に抗するために縄の結わえ目を固めるニカワが必要だ。このニカワになるのは 「チェンマイ・イニシアティブ」 などの通貨スワップ協定であり、東アジアでは既に初歩的ながら稼働している。
○ イカダを壊す力は外力だけとは限らない。それぞれの丸太 (各国経済) の揺れ周期 (好・不況のバイオリズム) の違いが往々にして結わえ目をほどく原因になるので、乗組員は周期や振動の状況を互いに見張ること(経済状況の相互サーベイランス)、自分勝手に他の丸太と違う動きをしないという共通の決まり(マクロ経済運営の共同規律)の遵守を求められる。
○ いろいろ策を講じても、(投機の) 大波が来れば縄は切れてしまうかもしれないが、そしたらまた結わえ直すだけ、だ。

  以上 「イカダ」 作りに喩えた営みは、米国がドル金本位制を捨てて変動相場制に移行した1971年以降、「規律の欠けたドル基軸体制はモラルハザードを生む」 と読んだ欧州がずっと続けた努力だ (ECスネーク、EMS(欧州通貨制度))。途中で為替投機に何度も負けて危機を迎えたが、欧州は諦めずに30年近く努力を続け、最後はユーロ誕生に結実させた。(『ヨーロッパ通貨統合』(山下英次著)を読む参照)
次号に続く。
平成20年12月 2日記




 

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