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ブログ 津上俊哉
「大恐慌」 以来の経済・金融危機? (その1)

金融危機について不吉な、しかし、当たる予言をするノリエル・ルービニ教授の名前が取りざたされることが増えてきました。証拠はないのですが、中国政府もおそらく教授の意見を参考にしていると思います。


                  「大恐慌」 以来の経済・金融危機?
                    「終末」博士の不吉な予言

  ニューヨーク大学ノリエル・ルービニ教授・・・懐かしい名前だ。メディアや金融業界から“Dr. Doom”( 「終末」 博士) とか“perma-bear”(恒久的悲観論者) といった称号を奉られる経済学者で、日本の金融不良債権とデフレスパイラル問題が深刻だった頃にも、ぞっとする不吉な予言をしていた人である (後から考えると教授の指摘は大筋で間違っていなかったが)。
  7月の Financial Times に載った記事を見て思い出し、昔閲覧していた有名なブログに行ってみた。以前は門下学生の手作りみたいなサイトだったのが、いまはプレミア購読も選択できる立派なサイト (RGE Monitor:Roubini’s Global Economic Monitor) になっていた。この1?2週間、暇を見つけてはここの投稿や記事を読んでいる。

  イラン系ユダヤ人としてトルコに生まれ、その後イラン、イスラエル、イタリアで育つという多元的な経歴で 「グローバルな遊牧民」 を自称するルービニ教授は非主流派たることを厭わないどころか楽しむ風の人だ。
  2004年、イラク戦争と国土安全 (反テロ) 対策、そして大減税のために巨額の財政赤字を計上し、同時に住宅モーゲージ・ブームの結果、家計が貯蓄をしなくなり膨大な経常収支赤字も計上し始めた米国経済の先行きに問題を感じ、警告を始めた。2006年9月に開かれたIMFの会議で 「米国の住宅バブルは遠からず崩壊し、数十年に一度の深刻な金融危機が到来する」 と警告したときは笑った聴衆もいた由であるが、それから1年後の夏にサブプライム危機が発生した。いまや教授は今日の危機を予言した人として、メディアへの登場だけでなく政策当局への助言にも忙しい毎日を送っているという。

  一昨日の20日付けで、教授が過去半年の主張を総括する投稿をしている  (以下は筆者の抜粋・要約)。

             「大恐慌」 以来の、数十年に一度の経済・金融危機
○ 金融損失は1兆ドルを優に上回り2兆ドルに迫る。金融危機の収束には何年もかかり、深刻な流動性不足と貸し渋りを招く。焦げ付きはサブプライム、プライムローンに限らず、この数年規律の弛んだ貸付を続けてきたカード金融、学生ローン、自動車ローン、ハイレバレッジのLBO、はては商業不動産など企業金融にも10%程度の焦げ付きが発生、CDO (クレジットデフォールトスワップ) 市場も機能不全に陥る (CDOだけでなく、多くの商品市場が既に「消滅」している)。
○ この危機により不動産貸出の多い数百の地方中小金融機関が破綻に追い込まれ、数十のリージョナル・全国銀行 (インディマック級) が債務超過になる、マネーセンター・バンクと呼ばれる大手銀行も債務超過に近い状態。証券業界でもベア・スターンズは既に逝ったが、ビジネスモデルを同じくする残る大手4社も破綻するか救済合併される運命にある。これら機関の救済に要する連邦金融公社 (FDIC) の負担は莫大だ。インディマック一行の救済だけで財源の15%を費消してしまい、慌てて保険料率の引き上げを申請しているが、“too late too little”である。
○ ファニーメイ、フレディマックの両社は、いまやそれ自体が住宅抵当借入の引受・証券化のできる唯一の“THE mortgage market”と化しているが、明らかな債務超過状態にあり、市場の生命維持のために両社への公的資金注入が不可避であることは疑いがない。
○ 破綻・債務超過状態にあるあまたの米国金融機関に資本増強を施す必要は明らかだが、誰がそれを引き受けるのか。「もう一度中国や産油国のSWF (国家投資基金) に頼む」 という甘い考えは通用しない。彼らが前回引き受けた増資は既に30?50%の損失を生じている、今度引受を依頼すれば無議決権株ではなく支配権や役員派遣を要求するだろう。しかし、それは米国内の金融保護主義が許さない。つまり政府が財政で金融機関を (直接または間接に) 国有化するしか途はないのである。
○ 米国のリセッションは2008年第一四半期に既に始まっている。これが根拠のない世上の「コンセンサス」が言うように 「6ヶ月程度でV字型回復」 することはありえず、最低12ヶ月おそらくは18ヶ月かかるU字型になるだろう。この過程で株価はピークから40%程度の下落が避けられない、つまり現状の株価下落はまだ 「途半ば」 に過ぎない。
○ 金融商品の下落と需要の低迷は既に世界中で起きており、危機と不況が世界中に拡がっている。G7主要国は既にリセッション入り、アジア諸国その他も 「カップル」 される。
○ 中国や東南アジア諸国、湾岸産油国などは変動相場制を標榜しながら輸出を増進するために、事実上ドルにペッグ (または巨額の市場介入を) して自国通貨と国内金利を低く維持する為替政策を採ってきた。その結果、輸出の増進、莫大な外貨準備がもたらす流動性供給による経済の高成長という成功をもたらし、多くの国がこれに倣っている。米国はこれらの国から貿易財を買うと同時にファイナンスも受ける 「ベンダー・ファイナンス」 方式により、稼ぎ以上の消費を続けて繁栄を維持してきた・・・両者はコインの裏表の関係に立つ仕組みだった (教授はこれを“Breton Woods 2 regime”(ブレトン・ウッズ?体制」と呼ぶ)。しかし、これら諸国の成功は反面、国内消費抑制・低金利と過度の流動性供給・資産バブルに始まりやがて全面的なインフレに繋がりかねない状態を招いている。各国は早急にペッグ政策を止めて自国通貨を上昇させることによりマクロ (金利調節) 政策を自国の手に取り戻すとともに国内消費を喚起する政策を採らなければならない。つまり、米国の繁栄を維持してきたBW2体制も終焉を迎えるということだ。

  これだけ 「終末」 的予告を読まされると、「常識感覚」 の持主は 「そこまでひどくはなるまい」 と考えたくなる。米国の景気指標も株価もそこまで落ち込む兆しはないではないか等々・・・筆者もそう考えたいが、教授が 「財務省、連銀、SECなど米政策当局は、利下げによる金融機関の利ザヤ確保や市場のテコ入れ措置による商品価格維持のための措置を講じているだけでなく、金融機関の粉飾操作を半ばそそのかしている」 と指摘しているのを読んで、ぎくりとさせられた。
  教授は操作の手口について (「業界内部の関係者によると」として)、経営トップから下りてきた損失処理 (予定) 額に合わせる形で不良債権分類を“ad-hoc”に操作する、取得価格に近い値段でヘッジファンド等に不良資産を買い取らせる代わりに、有利な条件で金融を付ける (これは「飛ばし」そのものではないか!) 等々だという。
  「すべては金融メルトダウンを防止するため」 ということらしいが、ほんの数年前まで金融不良債権問題で長く辛い思いをしてきた我々日本人は、このやり方がワークしないことを知っている。と言うより 「先延ばしすれば更なる深刻化を招くだけだ」 という忠告・批判を日本にいちばんしていたのは米国ではなかったかという思いを禁じ得ない。誰しも 「言うは易く・・・」 ということなのか。

  今週の米国金融市場では、大手金融機関の損失拡大につながるニュースが悪材料とされて株価や米ドルが下落した。さらに悪い材料の筆頭として、ファニーメイ、フレディマック両社の公的救済の実行に市場の関心が集中しつつある。両社は9月末までに合計2230億ドル (≒約24兆円!) の負債借換を必要としており、金利のスプレッドを拡げて債券の買手を募っているが、従来最大口の買い手だったアジアの入札シェアが低下し始めているという。先日決まった (はずの) 公的救済は権限付与に過ぎず、実際に救済が発動された訳ではない。ポールソン財務長官が企図した 「見せ金」 方式では市場が納得しなくなりつつあるのだ。

  ルービニ教授の 「終末」 的予告は一歩、また一歩と現実のものになりつつある。世界経済はどこへ行こうとしているのか。おまけに、考えなければならないことは経済だけに留まりそうもないのだ。

(この項次号に続く)

平成20年8月22日 記




 

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