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中国の利下げ (クイック・フォローアップ その2)

利下げ措置に関するフォロー第二弾です。 ちなみに、前号の末尾に記しましたが、停止していた本ブログのコメント機能を復活させました。皆様のコメントをお待ちしております。


                 中国の利下げ (クイック・フォローアップ その2)



  利下げの発表から二日経っていろいろな論評が出てきたので、まとめてみたい。今回の措置を 「激賞」 する向きもあるが、それらはやや 「提灯持ち」 の匂いがする。大勢は今回の措置を 「成長を維持し、物価高騰を抑える」 両睨み政策の中で 「微調整」 を行ったものだとする醒めた見方だ。

  以下、論評で取り上げられていたトピックを拾いながら要約するとこんな感じだ。

○ 対前年比のCPI上昇率が低下する時期に入る (上昇開始から1年が経過する) 一方で、景気はますます軟調に向かういま、一貫してタカ派的な引き締めスタンスを堅持してきた金融政策に対しては、緩和を求める圧力が相当かかったようだ。なんの前触れもなく発表された措置だったことから、「国家指導者の鶴の一声で人民銀行が押し切られた」 のではと憶測する向きもある。真相は分からないものの、GSE、リーマンと二週連続で世界を襲った 「国際金融風暴」 が最後の一押しをした可能性は高い。
○ 預金金利を据え置いたことからも分かるように、政府部内のインフレ懸念は依然根強いものがある。いくつもの論評が 「物価上昇が落ち着いてきたと言っても、実質金利 (金利?物価上昇率) は依然マイナスのままだ」 と指摘している。
○ 準備金比率の引き下げが4大銀行+交通、郵貯の大手6行を除外したことは、今回の措置が 「微調整」 であることの何よりの証左だ。除外された6行の貸出量が全体に占めるシェアは80%に及ぶため、量的側面から言えば、準備金比率の1%引き下げは預貸全体の2割分にしか及ばないことになる (ただし、株式市場の低迷によりお金は銀行預金に大きく回帰している。本年1?7月に総預金残高が13.3%も伸びているので、除外された6行もこの増分見合いでは融資を伸ばせる。問題はいまの融資需要はそれだけでは賄えない点にある)。
○ さらに、引き下げ対象となる中小銀行 (株式制商業銀行等) は預金準備率が14.5%から17.5%へと今年4度も引き上げられたせいで、資金繰りがタイトになっていた。一部行は日々の資金繰りにも汲々としていると伝えられたほどである。今回の措置は中小行の資金繰り対策としての意味合いも強い。
○ 今回の措置が 「微調整」 の域を出ず、預金金利も据え置かれたせいで、株式市場もニュースに反応しなかった。中秋節の連休明け、昨16日の上海市場インデックスはリーマン・ショックをモロに受け、同じく連休明けだった日本の東証とさほど変わらぬ4.5%の下落を記録した (今日も続落し、2000どころか1930を割って終わった)。
○ 他方、今回の措置は意味がなかったかと言うと、そうとは言えない。実効には乏しくても、これまでタカ派一本槍だった金融政策において6年7ヶ月ぶりに 「利下げ」 や準備金比率の引き下げが発表されたことの 「アナウンスメント効果」 はそれなりにある。「世界の金融市場が深刻な危機に陥り、世界不況がいよいよ現実味を帯びる中、世間が 『金融政策は相変わらず引き締めを続けるつもりだ』 と認識すれば、マイナスの影響は大きかっただろう」 というコメントもあった。

  思わぬ副産物があったとすれば、今回の発表が海外から好感を以て迎えられたことだ。世界中のマーケットがリーマン・メリル・AIGショックにうちのめされている最中、中国の利下げは 「明るいニュース」 として受け止められ、「人民銀行はモノが分かっている」、「他の中央銀行も続いてくれればよいのに」 といった雰囲気が醸し出されていた。
  人民銀行は日米欧の中央銀行に先んじて利下げに踏み切ったが、以上述べたように、実効性は大きくなくアナウンスメント効果重視の措置だった。同行の脳裏を去来する思いは日米欧の中央銀行と同じ、つまり、大々的な金融緩和措置は危機が一段と深刻化した場合に備えて留保しておきたいということだと思う。
平成20年9月17日 記




 

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