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小沢代表 「第7艦隊でじゅうぶん」 発言に思う

小沢代表が 「日米関係」 絡みで唐突な発言をするのは最近二度目、ウラに何があるのか考えていて、半年前に書いたことを思い出しました。


小沢代表 「第7艦隊でじゅうぶん」 発言に思う
「自分のことは自分で考えるしかない」 話



  2月24日民主党小沢代表が遊説先の奈良でした 「(米国の極東におけるプレゼンスは)第7艦隊でじゅうぶんだ」 という発言が物議をかもしている。自民党はここぞとばかり 「暴言」 を攻撃、社民党は 「軍拡」 の匂いを嗅ぎとって反発、メディアも 「安全保障の観点から論外」 とするものが多いようだ。
  例によって前後の文脈や背景が分からない 「ぶっきらぼう」 発言、福田内閣時代の 「大連立」 騒ぎみたいに 「機関決定」 をすっ飛ばした独走発言の色合いも濃い。おまけに釈明のつもりか、27日に 「私はまだ政府側ではない。具体的なことは政権をとって米国から聞いてみないと分からない」 と述べた (「小沢氏、火消しに躍起」(2月27日msn産経news) のはいただけない。そんなぁ・・・それじゃ総選挙が近いのに 「安全保障はマニフェスト無し」 も同然になってしまう。
  小沢代表は今月17日ヒラリー米国務長官会談のときも 「日米関係は対等であるべき」 と唐突に聞こえる発言をしている(小沢・ヒラリー会談 「日米関係は対等であるべき」 17日付けロイター)。「対等であるべき」 ことに異論はないがしっくりこない。「対等であるべき」 は自分の肝に銘じておくべき原則、後はこの原則に則って個々の問題に如何に対処するかこそ語るべきこと、「対等」 は自分から切り出して相手に言う話ではないと感じた。
  日米関係について小沢代表が訝しい発言をするのは二度目、なんで立て続けにこんな発言をするのか引っかかる・・・背後に何か我々の知らない事情があるのではないか。

  半年前リーマン・ショックが世界を襲う直前に、このブログで 「今後不良債権処理やイラク戦後処理で米国の財政赤字が急増し、世界公共財の供給能力が低下するのではないか」 と書いた。その一例として 「手許不如意につき、在日米軍は撤退させたい」 と言われたら日本はどうするのか?とも
  最近訪米した麻生総理は 「米国債を買って欲しいという話は出なかったのか」 と記者の問いかけに対して、バネ仕掛けのように 「ありませんでした」 と答えた。しかし、クリントン長官は少なくとも中国では米国債購入問題について能弁に話している(“Clinton Urges China to Keep Buying Treasuries”Bloomberg.com 2月22日付け、この項、田中宇氏の 「国際ニュース解説」 2月24日付けのご教示による)。
  いま日本は中国のように米国債を大量購入できる/せざるを得ない立場にないし、介入の必要あるなしに関わらず (しかも為替レートが90円台のいま) 米国債を買うのは当局として呑める話ではないだろうから、対日要請玉としてはちと無理筋だ。
  しかし、安全保障や軍費負担問題は格好の対日要請玉ではないか、なにせ麻生総理が小沢発言を批判して言うとおり 「極東において核を実験したという国があり、ノドンという搬送手段を持った国が隣にある・・・という状況に我々は置かれている」 のだから。

  小沢発言に対する批判の中には米海軍 (第7艦隊) だけでなく海兵隊も空軍も必要だという軍事的見地からの批判に加えて 「防衛予算を3倍から5倍にでもしようというのか」 という声もあった。しかし、後者の批判に問いたいのは 「米軍のプレゼンスは必要、かつ、それを日本自前でやれば3?5倍かかる」 と言うのなら、「それじゃ日本はもっと払ってくれ」 と言われたときに何と答えるつもりかだ。今後どう考えてみても米国 (米軍) に現状の極東プレゼンスを維持する財政的余裕はない。今後もっとカネを払ってでも米軍にお願いするのか、カネを払うくらいなら自前でやるのか、そこを考えたことはあるのか?に注意を喚起した点で小沢発言には傾聴すべきものもある。

  もう一つ。上述の田中宇氏のブログではケイトー研究所のダグ・バンドウ研究員の 「日本は貿易大国なのに軍隊が矮小だ。日本の国是について米国が干渉すべきではないものの、米国が今後もずっと日本の本土と太平洋の航路を防衛し続けるわけではないことを、日本政府に伝えるべきだ・・・北朝鮮 拉致) 題などで、日本人の不満は高まっているが、日本がこの不満を解消するには、アジアの安定についてもっと貢献できることを示さねばならない」 という意見が紹介されている。
  今日2日の日経新聞にはジョン・ハムレ米戦略国際問題研究所 (CSIS) 所長の次の発言が載っている。「米国は日本が米国の思い通りに行動すればいいなどとは思っていない。日米関係はもっとダイナミックに一体化が進んでいる。かつては長兄と末弟のような関係だったとも思うが、これからはそうではない・・・日本がこのパートナーシップ(同盟)を維持したくないと思うのなら、防衛費の増大を考慮しなければならない。国民総生産(GNP)の三、四%を考えないといけないのではないか。米国との同盟関係を後退させるのなら、この地域の安保上の課題と真剣に向き合わなければならない
  筆者は 「日本が同盟を維持したいと望みさえすれば防衛費の増大は考慮しなくてもよい」 とオバマ政権が言ってくれるとは考えないが、さてこの二つの意見、どこか底流に共通のニュアンスを感じないだろうか?昨今中国の台頭、米国の対中重視が高まるにつれて日本の米国スクール (役人・政治家・研究者・ジャーナリストを問わず) が 「米国は最近中国の方ばかり向いている」 とか 「日本は“passing”されるのか?」 といった愚痴をよくこぼし、付き合わされる米国側が辟易しているといった記事を読んだ記憶がある。男女関係に喩えて言うのは品がないかもしれないけど、この種の愚痴は典型的な 「フラれ」 パターン、言えば言うほど相手に煩わしがられる。
  上掲二発言の行間には 「日本はもっと自立して考えたらどうか」 という苛立ちが感じられる。バンドウ発言にも見えるように 「在日米軍縮小」 は米国ではごく普通どころか前政権ではかなり明確な潮流でもあったと聞く。昨今の財政状況を考えたらその流れはさらに強まって当然だ。並行して 「日本が国としてもっと国際的に認められ、大きな役割を担いたいと願うのは自然なことだ」 との認識も米国ではしごく一般的だと聞く。
  それをタブーの如く扱って 「日米安保基軸」 の建前の下で思考停止してきたのは日本の側だ。そう書くと、なにかエラく右翼・タカ派に聞こえるかもしれないが、米国の疲弊、中国の台頭、北朝鮮のああいう路線、そして火の車の日本財政・・・諸々の要因を踏まえてどのような安全保障戦略を描けるのか模索していくのは国が国である以上、当たり前のことではないか。
  小沢発言を 「軍拡路線」 だと批判する声もあった (ご本人がキチンと説明しない以上、批判する隙はある)。しかし、国民はこういう何十年も前の紋切りセリフみたいな論議に飽き飽きしていると思う。安全保障コストを自前で負担しなきゃいけない、でも日本だって財政は火の車、そうなりゃ 「自立的」 な安全保障戦略の要は、まず地域の緊張を根っこから下げる外交努力に決まっている。そういうことをパッケージで考え抜いているようには見えない日本の無責任、他力本願な言動・振る舞いこそ、米国をして辟易させ、中国をして日本を 「属国」 と軽侮させる所以だと思う。

  さて、小沢代表が日米関係について立て続けに唐突な発言した裏は何かという話だった。委細はまったく分からないがオバマ政権も正式に発足したいま、日米間で新たなバードン・シェアリング、平たく言えば日本に 「もっとコストを負担するか、さもなくば役割を代わってくれ」 という交渉がこれから始まるのだと思う。米国側は例えば日本が 「コスト増は困る」 と言えば 「それじゃ従前のサービスの質・量 (例えば在日米軍) は削減せざるを得ない」 と伝える準備をしていると思う (相手に用意のない隙を衝くのが交渉の定石、筆者なら必ずそうする)。
  そう言えば小沢代表だけでなく、麻生総理も最近ワシントンポスト紙インタビューで 「ブッシュ政権の後期には、検証可能な査察の問題をあいまいな言い回しにしたまま、対話を行おうとする傾向があった」 とかなり直裁な前政権批判をしたのが目を引いた(「麻生首相、北朝鮮問題でブッシュ前政権批判 米紙と会見」 asahi.com 26日付け)。これも安保を巡る水面下の 「前哨戦」 なのかも。
  半年前に書いたことをもう一度思い出させてくれただけでも小沢発言は筆者にとって意味があったが、それにしてもこのヒトのこのコミュニケーション力、何とかならないものか・・・
平成21年3月2日 記

追記
  本題から逸れるが、今夜の米国株式市場は激下がりだ。AM1:30現在でダウが6850、S&Pが710に迫っている。理由は銀行の健全性に不安が拡がったからの由。2週間前のポストでルービニ教授の “Plan N” (国有化) に触れたが、今日は財務長官、国務長官を歴任したジェームス・ベーカー氏がFT紙で同じ主張をしている。曰く 「いまの “peacemeal” 式の救済を続けていれば米国も日本の 『失われた十年』 の過ちを繰り返す」 (というより正確には “・・・ the US may be repeating Japan’s mistake” と言っている)。
  まったく同感、ポールソンの末期からそうなると思ってた。それをやらないと底は見えてこない。けど、そうすると株価はどこまで行くのか・・・。「100年に1度」 とはどういうものか、次第に我々の前にその姿が現れつつある感じだ。




 

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