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ブログ 津上俊哉
「経済底打ち」 の後に来るもの (ショートフォロー)

マスコミは取り上げませんが、いろいろな意味で含意の深い政策決定が4月末にありました。前回ポストで書きそびれたので、今日はこれについてショートフォローです。


「経済底打ち」 の後に来るもの
ショートフォロー



  前回ポストで一つ書きそびれたことがある。4月末の国務院常務会議で意味深な政策が決まったのだ。「固定資産投資の資本金比率調整」 である。
  中国は自己資本が小さく借入比率が高い投資を認可しない政策を採ってきた。過小資本の投資プロジェクトが不良債権を大量発生させた苦い経験があるからだ。要求される自己資本比率は30?40%と高く、事業が安全になる分、大量の資本を食う。

  今回決まった比率の調整は
? 4兆元対策の主要な中身である鉄道、道路、空港、港湾、郵政、情報産業などのインフラ (最近、鉄道・公路・基礎施設 (インフラ) の頭を取って 「鉄公基」 プロジェクトと呼び慣わしている) 及び商品住宅事業について、要求自己資本比率を引き下げ
? 炭化カルシウム、水酸化ナトリウム、鉄合金、コークス、電解アルミ、トウモロコシ深加工 (=バイオエタノール) などエネルギー消費が高い、汚染も高い、資源も高消費 (最近 「両高一資」 と呼び慣わしている) の一部産業について、要求自己資本比率を引き上げ (つまり、投資抑制ということ)
の双方向だ (具体的な調整比率は未発表)。

  インフラ事業の自己資本比率が引き下げられた理由は、ずばり4兆元対策の担い手である地方政府の資金難だ。主要財源である税収も土地収入も急減したせいで4兆元対策に必要な資本金が足りないのだ。
  これについては、4月初めの本ブログ(中国経済は外需依存型か)の第4項 (V字型恢復見通しに対する “pros & cons”) の項でも 「2000億元の地方債発行は中西部に傾斜しすぎているし、大丈夫か」 との懸念を述べたことがある。今回の決定を見て、やっぱり・・・という気持ちだ。

  インフラでも何でもない不動産 (商品住宅) 事業が加えられたことも目を惹く。値下がり・在庫圧力・資金難の苦境にある業界にとっては間違いなく朗報だ。内需拡大のためには不動産投資の回復が欠かせないと判断したのだろうが、そうなると問題は筆者がかねて唱える 「景気急落原因の半分は“home made”」 論に行き着く。つまり、ほんの1年前まで続いた強烈な不動産投資抑制政策に行き過ぎはなかったのか?ということだ。

  もともと30?40%に近い自己資本比率要求は国際水準から見ても高い印象がある。それを適当に引き下げることは合理的という気もするが、自己資本比率を下げて借入を増やせば利払いコストが嵩む。過去高い比率を定めたことにもそれなりの経緯や理由があったはずだ。
  もともと収益性が高いとは言えないインフラでプロジェクト選択が間違っていれば、即不良債権化の恐れが高くなる。マンション分譲事業の自己資本比率を下げるとは 「ハイ・レバ」 投資を許すということだ。
  この政策は今後の不良債権増加という副作用を伴うだろうが、「背に腹は代えられない」 のだろう。「確信犯」 的な金融緩和策と相まって、目下の中国経済運営は 「底打ち」 のニュースが伝えるほど容易ではないことを示唆する決定だと言える。
平成21年 5月10日 記




 

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