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「対米従属」 という習慣

6月初めに書いた「百年に一度」 の経済危機が中国にもたらすもの (その5)の見出しに「これだけ長々(5回連載)書いても、まだ書き足らない」と書きましたが、それは今日書く日米関係のことです。


「対米従属」 という習慣
もういい加減、再点検しませんか 「日米関係」



  6月初めのポストでこう書いた。
・・・ この20年で東アジアを巡る情勢は激変した。東西冷戦は終わり、アジア経済は大きく成長し、域内取引が急増した。そして何より、中国が思いもかけない速さと規模で台頭した。いまや日本の最大の経済パートナーは米国ではなくて中国だ。東西冷戦下、しかもアメリカ経済に強く依存していた1980年代に比べて対米 “band wagon” をやることの必要と意義は大きく変化してきている・・・にも関わらず (というか 「中国の台頭ゆえに」) 政治・安保面では1980年代以上に米国への依存を深めている。

  「米国べったり」 のスタンスが筆者にとって滑稽に感じられるのは、米中関係が日本人の考えるよりはるかに付き合いが深く、共有する利益も大きい関係になっているからだ。米国からも 「これからの世界はG2 (米中) で決めていこう」 といった声が出る始末・・・。そういう視点から見た今後の日本の立ち位置は、東西冷戦時代共に相容れない米ソ両国に挟まれて難渋したフィンランドというより、日中という両大国に挟まれながらも 「埋もれてなるまじ」 と 「日中韓」 の枠組みの提唱などで独自性、存在感を発揮しようと懸命な韓国に似ていると思う。常識的に考えれば日本が取るべき途も独自性、存在感の発揮にあると思うのだが、そうならずに米国にばかり依存する。「価値観の共有」 とか言ってしがみつかれる米国も当惑するところがあるだろう (笑)。
  これだけ大きな環境変化に取り囲まれているのに、「五十年一日」 の如く 「日米基軸」 と唱え続け、外交方針や国益の再定義、とまで言わなくても再点検すらしようともしないのは 「日米関係」 が習慣ないし惰性と化しているからと評するのが適当だろう。なぜ習慣化、惰性化するのかと言えば怠慢のせいというだけではなく、日本で 「日米関係」 の運営に携わる人々がそうすることに利益を感じているからだというのが筆者の見立てだ。

「日米関係」 はガバナンス強化が必要
  世上こういうメンタリティは 「対米従属」 と評されるが、筆者はこの言葉の持つ 「他人のせいにする」 情緒的な語感が嫌いだ。日本が未だにこのメンタリティを保つのは米国が 「属国のままでいろ」 と強制するからか? 否。日本が自ら選び取っているのだ。第二、「対米従属」 と百万遍呪っても何の解決ももたらさない。どうすればこの性癖を直せるか?のハウツーにつながる議論をすべきだ。
  そういう視点から言うと、この 「対米従属」 シンドロームは日米関係という日本の政治・行政領域にガバナンス (あるいは外部チェック) が十分働いていないせいで起きているという仮説を立ててみるのはどうだろう。
  ガバナンスが働かない理由は二つあると思う。一つは役所の縦割り・秘密主義だ。年金とか公共事業とか農政とか、最近在野のチェックのメスが入り始めた行政領域が増えてきたが、日米関係は (国際金融も) 何十年も前から変わっておらず、未だに情報独占、密室決定をやっている感がある。
  もう一つの理由は、本来政治や行政をチェックすべき立場の立法府やメディアもこの領域ではさっぱりチェック機能を発揮しないことだ。役人も与野党の政治家もジャーナリストも日米関係に深く関わる人はみな同じ相手、米国の 「知日派」 と付き合う 「サークル」 仲間だからだ。彼らがこれまで構築してきた 「日米関係」 が今後も続けば、リタイア後のかれこれ含めてみんなハッピー。
  しかしそうして運営されていく日米関係をサークルの外、或いは上から監督、チェックする人がいない。言わば 「日米族」 共同体だ。外部ガバナンスという緊張感なく 「身内のお手盛り」 をやっていると、ろくな結果にならないのは自明の理。「サークル」 の狭い価値観と私的利益が十分なチェックも受けないまま国の進路を左右する怖ろしい事態になる。

「日米関係」 をデューデリすると?
  ではどうすれば事態を改善できるのか。永年続いた弊習だから変革を拒む慣性力は巨大だろうが、ガバナンスの一歩目は情報の開示にある。そして 「国民に説明できないようなことはできない、やらない」 という当たり前を総理から事務方まで徹底させることだ。情報開示というと、すぐ 「外交機密」 の理屈が持ち出されるだろう。しかし、その隠れ蓑あるが故に歪みが生まれ、隠れ蓑が最も強固な部分が最も歪むのだ。国会が国政調査権を使い、必要ならば調査に関わる議員に厳重な守秘義務を課せばよい (法曹出身者がいい)。米国では日常茶飯のように行われていることだ。
  本来、クライアント (国民) はエージェント (政治・行政) に委任しているのだが、比喩的に言えばエージェントの善良管理・忠実義務にもう信任が置けなくなってきた、信任を恢復するためには一度デューデリジェンス (投資家による監査) をした方がよい。
  デューデリジェンスの結果? 安全保障絡みについてはおおかた想像がつく。核兵器持ち込み協議問題などはこれまで政府がしてきた説明が米国外交文書公開などでとっくの昔に破綻したのに政府は未だに旧来の説明を固守している (注)。「隠れ蓑が最も強固な部分が最も歪む」 典型だ。
  自衛隊と米軍との共同運用なども、国会も国民も知らされないまま現場で憲法や日米安保条約上も想像の埒外の既成事実が積み上げられていると聞く。普天間基地グァム移転に絡む 「思いやり予算」 なども悲惨な内実になっていると思うし、今後で言うと次期戦闘機F22問題などもアヤシい限りだ。生産継続に伴う財政負担を巡って産軍複合体 (地元雇用などなど) を背負った米議会と財政赤字を縮小したいオバマ政権の間で意見が割れているが、放っておけば 「調整のつかない予算のツケは買いたがっている日本に回せ」 となるに決まっている。生産体制維持の名目でいったどれだけの血税が米国にトランスファーされるのか ・・・ 本来、そこで 「そんなに高い買い物ならできない」 と頑張る日本側がいなくてはいけないが、実際にそこで控えているのは最初から 「導入」 の結論を決めている 「サークル」 の面々だ。

「日米関係」 運行体制はオーバーホールすべき時期
  米国側だって「米国は最近中国の方ばかり向いているのではないか」 などとみっともない愚痴をこぼすような日本の 「サークル」 を腹の底では嗤っているのではないか。日本側がやれ 「価値観の共有」 だ 「自由と繁栄の弧」 云々と言ってみても、彼らは 「中国の国益に立脚して」 米国と付き合う中国人をこそ尊敬するだろう。
  安全保障や通貨問題に限らず、いまの日米関係のあり方については、「局部利益」 で強化された惰性のせいで 「日本の国益とは何ぞや?」 という基本的な問いがあまりにもないがしろにされていると感ずる。傍らで見ている多くの第三国も(中国も東南アジアも) 日本のこの様子に呆れ、歯痒さを感じている。日本のソフトパワーを貶める最大の要因だとすら言える。健全な日米パートナーシップを維持するためにも、いまの運行体制は 「マジで」 オーバーホールすべき時期に来ているのではないか。
平成21年6月29日 記

注:核持ち込み問題に対する政府の伝統的なスタンスは 「米政府からの事前協議がない以上、日本政府として核持ち込みがないことには疑いを持っていない」 というものだが、米国の外交文書公開により、このロジックの虚構がバレバレになってしまった。それだけでなく、最近共同通信が外務次官OBへの取材で引き出した驚くべき証言を次々と配信している。
1?1 核持ち込み密約、外務次官ら管理 首相、外相の一部に伝達 (5月31日付け)
1?2 次官経験者の証言要旨 核持ち込み日米密約 (同上)
2?1 核通過優先で5海峡の領海制限 元外務次官証言 (6月21日付け)
2?2 領海幅3カイリ制限/元外務次官の証言要旨
(お断り:本来これも共同通信のウェブで検索できるはずだが、なぜか出てこない。仕方なく共同電を載せた6月22日付けの東奥日報で読んだ。同紙の過去記事はリンクできなさそうなので、お許しは得ていないが以下転載する)。
  米軍の核持ち込みと5海峡の領海幅制限に関する外務事務次官経験者の証言要旨は次の通り。
 ▽A氏
 一、津軽海峡を全部、日本の領海にしたら 「米軍艦は核を積んで絶対に通らないんだな」 と質問された場合、「(核持ち込みを規制する) 事前協議の対象なので積んでいない」 と答えなければならない。しかしいくら何でも、それはあまりにもうそだ。
 一、五つの海峡はあまりにも重要すぎる。うそをつかないために(5海峡の領海幅を) 3カイリとし、真ん中に領海で覆われていない水域があるから、(米核搭載艦船が) そこを通っていることについては 「日本は別に何の関心もない」 と国会答弁できるようにした。
 一、(核艦船の5海峡の自由航行を保証することが3カイリにとどめた) 恐らく唯一の理由だろう。だから自分は日本というのは恥ずかしい国、勇気のない国、だらしのない国だと思った。
 一、みんな以前のうそに金縛りになっていた。(核艦船の領海通過は) 事前協議の対象だといううそに。(政策決定者の) 頭の中には米国の船のことしかなかった。自分は、おかしなことをするなと思っていた。

 ▽B氏
 一、(領海幅を12カイリにして) ゴタゴタするより、(公海として) いっそ空けたままにして従来通りという方が楽だという考えがあった。
 一、とにかく事なかれ主義、一番楽な解決 (方法) だ。
 一、米国から見れば、核を積んでいたって (日本の) 領海を通り抜けるのは全く問題ないから、何も日本に相談も通告もしないでいいという立場だった。そこを突っつき始めて米国と交渉をすると、やばいことになるという配慮があった。
 一、(密約のために米核艦船の領海通過継続が予想され、厄介な問題が生じるので公海部分を残したのかとの質問に対して) はい。

※ 以上の共同通信配信記事は、駐レバノン大使だった天木直人氏ブログのご教示で知りました。

  ところで、上記東奥日報22日付け転載中 「日本というのは恥ずかしい国、勇気のない国、だらしのない国だと思った」 とのA氏の発言を読んで、暫し唖然とした。晩年を迎えてこういう証言をする次官OBの胸中にはいろいろな思いがあるのだとは思うが、アナタ、曲がりなりにも外交当局のトップだった人でしょう? こんな傍観者みたいな物言いをして ・・・ せめて 「こういう外交では国民に申し訳ないと感じた」 と言ってほしかった。
  しかし同時に、発言の目線の問題はあるにしても次官OB (しかも複数) がこういう発言をすることはこれまでの霞ヶ関の常識では考えられないことだ。「何かが壊れつつある」 という印象だ。「創造的破壊」 ならいいけど・・・
  ちなみに、この問題は外務省の大臣記者会見でも 「一応」 取り上げられたらしい。「・・・我が国としては、海洋国家であり、そして先進工業国として、国際交通の要衝たる海峡における商船、大型タンカー等が自由に航行できるということが大事」 なので5海峡の領海を3海里に設定したということらしい(外務大臣会見記録 (6月22日付)。商船や大型タンカーの日本領海内通航が自由ではないとは初めて知った (笑)。もう少しマシな答弁が用意できないのだろうか ・・・ そして、小学生でも分かる詭弁にツッコミの二の矢を入れないクラブ記者たち。やはり 「サークル」、こっちも壊さないといけません。


本題と全然関係ない追記
  27日付けのFT紙にゾッとすることが書いてあった。“Questions about Iran dominate G8 discussions” イタリアで開催されたG8外相会合で、イランの核開発問題が強い危機感 (“time is running out”) を以て話し合われたという。え?何が?
  “David Miliband, UK foreign secretary, conveyed a strong sense of urgency in the talks in Trieste, the diplomats said. Although Israel was not directly mentioned, the diplomats said there was an unspoken understanding of a danger that Israel might take military action against Iran’s nuclear sites if the international community did not make progress on the diplomatic front.”
  イスラエルは2007年にもシリアの核施設 (シリアは否認) を空爆したと噂されているが、相手がアハマディネジャド大統領再選直後の産油国イランとなると ・・・ 前から取り沙汰されてきた話題ではあるが、G8外相会合がこれだけ深刻に話し合ったとなると、こっちの受け取り方も違ってくる ・・・ これまた声を失うような話ですな。




 

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