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中国の7月統計数字公表

更新サボって済みません。7月の統計数字にショートコメントです。


中国の7月統計数字公表
ショートコメント



  最近、「感慨にふける」を通り越して筆者がやや呆れているのは、中国の統計や株式市況が世界金融マーケットの上げ下げを左右していることだ。
【例】
ロイター7月29日付 NY株主要指数は下落、中国の銀行貸出抑制めぐる懸念が圧迫(中国の銀行が貸し出しを抑制する可能性があり、これが世界経済の回復に水を差すとの懸念が高まった。)
ロイター8月12日(今日)付 NY外為市場 円が幅広い通貨に対し上昇、リスク回避の買い(一連の中国の経済指標が予想を下回ったことによりリスク回避姿勢が高まった)

  こんな現象は10年前には考えられなかった、だけではない。中国が台頭した今日でもチト度が過ぎていると思う。とくに、対外開放されていない国内A株の上げ下げを参照し過ぎるのは如何なものか。統計についても数字の上げ下げにばかり反応し、その背景や持つ意味が十分吟味されていない印象を受ける (マーケットは “volatility” ネタがないと商売あがったりだから、こんな講釈たれても詮無いかも知れないが)。
  最近仕事の関係で筆者の好きな牛のヨダレ式長文を書いている暇がないので、以下はショートコメント。

  昨11日、中国が発表した7月の統計数字で最も目を惹いたのは6月単月に1兆5300億元も増加した金融貸出が、7月は前月の1/4以下、3559億元の伸びしかなかったことだ。これを見て流動性引き締めを警戒した株式市場が3%下落(上海総合指数)、これが世界中で 「リスク回避」 の動きを誘ったという。
  7月の金融貸出増加額が減少することはとうに 「織り込み済み」 だった。もともと先月は上半期末、銀行が貸出を増やす月に当たっていたから翌月の貸出は反動で落ちるのが通例。また、銀行は当局ご指導を待つまでもなく、上半期の貸出狂奔の後、行内リスク管理上もヤバさを感じて次々と下半期の融資計画を引き締める計画を発表していたし、上半期に野放図に出た手形貸出も償還期を迎えつつある。
  7月の企業向け貸出 (残高) は総額1193億元の低い伸びにとどまったが、悪い話ではない。問題視されてきた手形貸出は1982億元減少、短期貸出も581億元減少、代わりに中長期貸出が4509億元増加した。個人向け貸出も2365億元の増加、そのうち中長期貸出が住宅ローン急増を受けて1887億元増加した。総体として貸出タームが長期化していることはカネが実体経済に回り始める兆しと受け取れる。
  このように、統計数字の前後の文脈や中身を点検すると、金融貸出の伸びが急減したことだけを見て反応するのは早計だ。むしろ、いま中国経済最大のリスクはジャブジャブ金融政策が資産バブルやインフレなどの副作用をもたらす可能性だから、7月も貸出のブレーキがかかっていなければそちらの方がよほど問題だった。統計発表直後、株価が3%も急落したのは事実だが、実体経済の 「裏付け」 が乏しく、マネーだけはジャブジャブといった相場で起きがちな現象だ。

  当面の中国経済については1ヶ月前にした前回ポストの見通しを大きく変える必要を感じない (なんて、更新サボって済みません)。大胆な景気刺激策は奏功し、いまや通年GDPは8%台の後半に行くとの予想が強まっているがなかなか後が続かない、民需に点火しないのだ。当局は先行きへの警戒を緩めず財政金融動員体制を堅持する構えだが、金融緩和は資産バブルとの間を綱渡りする状況、前途は依然多難だ。メディアで報じられた点を中心に7月の統計数字に追加ショートコメントをすれば;

○ 固定資産投資の伸びが市場予想を下回ったとされる点:対前年同期比32.9%(1?7月)の伸びであり前月(1?6月)は33.6%だったから取り立てて 「下回った」 と言うほどではない。4兆元対策の公共投資発注が端境期に来たが、下半期にはなお発注もあるという。ただ、問題は財政刺激の効果が来年にかけてピークアウトしていくことだ。温家宝総理もこの点に言及している。
○ 不動産投資の動向:2Q以降 「厳冬から一気に夏が来た」 と評された不動産業界だが1?7月期、住宅販売は37.1%と急増したものの、投資は11.6%増、市場回復はまだ投資の数字に表れるに至っていないが、マンション在庫の整理には役立った。
○ 消費は15.2%の伸びで 「好調」 と受け止められているが、消費振興対策の重点になった住宅、自動車、家電の 「御三家」 が好調なぶん、他の領域はたいしたことないということでもある。雇用情勢が依然厳しく、庶民の所得の伸びも思わしくない。更なる消費振興のためには医療・福祉・教育・老後など国民の財布の紐を固くさせている支出を軽減すべく制度改革を行う必要が引き続き叫ばれている。
○ 輸出:当局発表は 「対前月比で5ヶ月連続の改善」 を強調しているが、対前年同期比では相変わらず20%以上のマイナスが続いている。依然として世界経済恢復頼み、バブルの兆しと並んでマクロ当局のもう一つの悩みのタネだ。
○ 物価:CPI (▼1.8%) とPPI (▼8.2%) のダブルマイナスは依然続いているが、前年同期の2008年上半期は物価上昇率がピークを打った時期だった。3Q以降は上昇率が目に見えて落ちていったから、対前年同期比のマイナスも終わりが近いはずだ。PPIが二桁近いマイナスなのはデフレ懸念を誘うが、これも1年前の資源高騰を想起すれば頷ける話、企業のコスト減・増益要因になる側面もある (これは日本経済も同じ)。

  最近、月刊 「東亜」 誌に定例の寄稿をした。刊行前なので転載できないが、そこで筆者が一番言いたかったことは、今後の景気浮揚策はこれ以上金融緩和に頼るのを止めて更なる財政出動で、という点にある。4兆元対策の結果、中国の国債発行残高がGDPに占める割合は20%を超えるが、先進諸国に比べればはるかに健全だ。その程度の赤字や国債発行を大ごとだと憂える中国は 「健全財政」 バイアスが強すぎる。建国60周年を控えて成長率を落とす訳に行かないというなら、財政の負担を増やすべきだろう。
平成21年8月12日 記




 

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