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中国の7月統計数字公表 その2

3日前のショートコメントにショートコメントします。


中国の7月統計数字公表 その2
ショートコメントの続き



  前回、7月の統計数字発表にショートコメントし、その中で金融貸出の伸びが大幅減速したこと、それを見て発表当日 (12日) のA株市場が3%急落したことに触れたが、この株価が昨14日さらに下落、3000の大台割れに接近した。月初には3500に迫る勢いだったから、半月で12%下落した勘定だ。
  前後の事情をネットサーフィンしていたら幾つか感想が浮かんだので、今日はショートコメントのフォローをします。

市場は 「今後の金融は微調整 (やや引き締め)」 の見方に軍配

  今週起きた株価の急激な調整の裏には機関投資家が一斉にポジション調整 (利食い、手じまいなど) に動いたことがあったようだ。実体経済の裏付けに乏しくマネーだけがジャブジャブな 「虚」 の相場で起きがちな現象だが、これだけはっきりした調整が起きたということは市場の大勢が 「上げ局面は調整期入りした」 と判断しているということだ。
  調整の発端となった 「金融政策の微調整」 問題は、7月以来党中央・国務院が 「積極財政政策と適度に緩やかな貨幣政策を確固不動として継続実施しなければならない」 という 「総論」 (現状維持) を強調する一方、金融当局は資産バブルの芽を摘むための 「各論」 対策を実施 (微調整) するという玉虫色になったため、今後の政策運営の重心が 「総論」 側に置かれるのか 「各論」 側に置かれるのか揣摩憶測が飛び交っていた。
  前後の報道を眺めてみると、たしかに関係部署間にはっきりした温度差が見て取れる。景気の維持・浮揚重視側に立つのは国務院や発展改革委で、物価 (資産価格) 安定重視に立つのは人民銀行 (銀行監督管理委) などの金融当局や全人大財政金融委といった構図だ。分かりやすい色付けをすれば、後者が 「通貨の番人」 的なエキスパート、学究的色彩を帯びるのに対して、前者は権力の中枢に近いぶんポリティカルだ。
  前者の視野には既に2012年に来るポスト胡錦濤問題が入っているだろう。胡錦濤体制第2期も来春には折り返し点を迎える。そこで景気が 「腰折れ」 して権力継承過程が波立つことは避けねばならぬといった想いだ。
  しかし何はともあれ、今週起きた大幅な株価調整は、市場がこの問題で 「各論」 側に軍配を上げたことを意味している。

政策というよりも企業行動ドリブンに進む金融微調整

  中国の国情を考えれば国務院の一部門に過ぎぬ金融当局が高度な政治判断に立つ党中央・国務院の意向に逆らえるはずはない。それだけに、市場が早々と 「各論」 側に軍配を上げたことは意外だ。
  その理由を考えているうちに、ハタと思い当たった。前回ポストしたように、銀行は当局ご指導を待つまでもなく、上半期の貸出狂奔の後、行内リスク管理上もヤバさを感じて次々と下半期の融資計画を引き締める計画を発表していた。同時に上半期の貸出競争のせいで低下してしまった自己資本比率を修復するため、増資や劣後債発行の動きも急だ。貸出引き締めは政策や指導の結果というより企業の自律行動として起きたという面があるということだ。言い換えれば、「意思決定の重心は国務院でなく金融当局にあるのか?」 という問題設定がそもそも間違っている、正しくは 「重心は政府でなく市場 (個別企業の自律行動) にあった」 と見るべきなのではないかということだ。
  今回、金融当局もクレバーな選択をした。比喩的に言えば、金融緩和現状維持の願望を濃厚に滲ませる党中央・国務院の前に 「立ち塞がって」 政治的風圧を浴びる愚を避け、代わりに銀行に 「お宅の不良債権管理や自己資本は大丈夫か?」 とソッとささやいたのだ。劣後債発行というイージーな自己資本増強は認めないというアナウンスをしたりして、「隠微に」 銀行を締め上げた。

中共も 「泣く子と市場には勝てぬ」 ・・・それが市場経済化

  前回ポストでは固定資産投資の伸びが予想を下回ったことにも触れた。筆者は 「伸び悩みと言ってもたいしたことはない」 趣旨のことを書いたが、あちこちサーフィンしていると、「地方政府の財源難のせいで公共投資が思うように進まない」 現象はかなり普遍的に起きているという。4兆元対策にイヤマークされた事業は何とか進めているが、その裏で在来事業が財源を喰われて割を食っているといった話だ。
  銀行が急に貸出を絞り始めたことがそこに大きく影響していることも書かれている。そのせいで4兆元対策を主導する発展改革委などには 「金融微調整」 を標榜する金融当局に対するフラストレーションが高まっていると書いてあった。
  しかし、銀行や金融当局にとって、償還財源の裏付けに乏しい地方政府への貸出は容易に不良債権に化ける最も警戒すべき取引、過去それでどれだけ泣かされてきたことか ・・・ つまりいま銀行で起きていることは 「アブナイ相手には貸せない」 という意味での 「貸し渋り」 だ。読んでいてなんだか、銀行に 「中小企業貸出を増やせ」 と脅したりすかしたり指導するのに、いっこうに言うことを聞かないので苦り切る日本の金融庁を思い起こした。
  発展改革委が憂慮するように、目下景気浮揚の頼みの綱である公共投資が銀行の貸し渋りで失速したりすればゆゆしきことだ。しかし、別の面から眺めてみると、それこそ中国が年来模索してきた 「市場経済化」 が佳境に入ったということではないのか。
  銀行が地方政府や政府の事業部門の言うことを鵜呑みに聞かなくなった背景には株式上場がある。いまや中国の4大銀行トップも株価が下がれば強いプレッシャーを受ける。不良債権が増えたり、「自己資本に不安あり」 と見られたりすることは自らのクビに関わるのだ。
  相変わらず国が過半の株を保有する前提の下での上場にどれだけガバナンス改善効果が期待できるのか?という懐疑は永く言われてきたが、どうも中国の個人投資家 (の集合体としての 「世論」) は日本よりずっと 「アクティビスト」 なせいで、この体制的欠陥がやや相殺されている。
  目先の景気対策が停滞したらゆゆしき問題だが、一方で 「政企分離 (政府と企業の分離)」 のスローガン、30年前から 「耳タコ」 になるくらい強調してきましたよね。「泣く子と市場には勝てぬ」・・・ 温家宝総理、それを市場経済化と言うんでしょ (笑)
平成21年8月15日 記




 

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