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「グーグル中国撤退?」 に思うこと (2)

2回連載の予定を変更し、3回にします。今回は中間としてフォローアップ。


「グーグル中国撤退?」 に思うこと (2)
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  当地中国から 「グーグル中国撤退?」 ニュースのフォローアップをする。まず、中国のメディアサイトの幾つかに大きな特設ページが立った。

  コメント欄やチャット欄には書き込みが殺到している。「困る」、「寂しい」 とする意見、「中国のインターネットは石器時代に戻ってしまう」 と心配する意見の一方、「去りたいなら去ればいい」、「百度があるから困らない」 とする意見もある。グーグルの勇気を称え、政府の言論統制を罵る意見もあれば、グーグルのやり方を 「威嚇的」 と見て強く反発する意見もある。甲論乙駁、喧々諤々状態だが、有望な中国市場から撤退する (かも) という発表に愕然としている点は共通だ。よって、グーグルの真意を忖度する意見も多く 「業績不振だからとは言えないので、カッコつけたのだ」、「最後は政府と妥協するだろう」 といった見方もある (注1)。

  もう一つ注意を惹くことは、一部で報道されたとおり、あの発表以降、グーグルが閲覧禁止語彙は表示しないという政府の規定に逆らって 「天安○事件」 とか 「法輪○」 といった忌み言葉の検索結果を“Google.cn” の検索サイトで表示し始めたことだ。(筆者が当地中国で試した 「天安○事件」 の検索結果を下に示す)

  多くの 「中国網民 (ネットユーザー)」 がこの不思議な光景を見ているはずだ。グーグルが中国ユーザーに送る一つのメッセージなのだろう。(但し、これが完全な公開ではないことも分かった。表示されるのは中国国内のウェブに限定されており、繁体字で 「法輪○」 と入力しても香港のサイトは表示されない。出てくるのは全て 「公式」 の見解に沿ったサイトだということだ。)
  ただ、この規制解除は明らかな 「規定違反」 であり、権力に対する公然たる挑戦と受け取られてもおかしくない。中国政府はこの問題についても落とし前をつけることを求められている (この操作は米国本社で行ったはずで、グーグル中国の社員が処罰されることはないと思うが、事情聴取で連行くらいはされるかもしれない)。

  さて、注目される中国政府の動きだが、現時点 (15日夜現地午後8時時点) までで言うと、外交部スポークスウーマンが昨14日の会見で、質問に答えて当たり障りのない回答をしただけで、未だ面と向かった反応は示していない。朝日新聞には 「共産党筋は 『将来ある中国市場からの撤退はきわめて意外で、党上層部も対応を決めかねている』 と明か」 したという記事 (asahi.com) もあった。政府にとっても、共産党中央にとっても、ニュースはある意味ショックだったのだろう。たしかに、態度表明に時間がかかりすぎている。おそらく最上層部まで判断を求めているのだ。これはそれくらいのマグニチュードの問題ではある。或いは、グーグルと政府の交渉が既に始まっているのかもしれない。

  しかし、話し合いが既に行われているとしても、それは恐らく 「検索からは撤退するが、グーグル携帯 (Android) 業務は残留させられないか」、或いは 「グーグルが強いと言われるネット広告業務 (Ads by Google) を何とか存続させる方法はないか」 など、撤退に伴う条件交渉でしかないだろう (注2)。中国政府がグーグルの言い分を受け容れて 「言論の自由が勝利する」 劇的な結末が期待できるかといえば、筆者は依然、その可能性はゼロだと思う。
  そう考える理由として、筆者は前回のポストで 「米国も同じことをやっている、お互い様だ」 論を披露した。一晩かけてあれこれ中国ネット情報をあさるうちに、中国政府がグーグルの言い分を認めて折れる訳にはいかない理由をさらに見つけた。

  それは、いま中国という国が海外との主張や利害の対立をどのように調整するかを巡って大きな迷いと争論のまっただ中にあるということだ。それはポスト世界金融危機時代における中国と世界の関係如何という点に直接関わる問題でもある。もともと本ポストの第2回目には (多国籍企業が) 「中国市場を諦める勇気?」 と題して、この問題を論ずるつもりだったが、経済だけの問題では済まないことを悟ったので、もう少し考えてこの週末にポストさせていただく。
平成22年1月15日 記


≪追記≫ @当地時間 午後8:55
「グーグル中国、正式に解散へ」

  たった今、上記をポストし終えた後で、もう一度 「環球時報」 のサイトを覗いたら、「グーグル中国、正式解散」 という報道に接した (通信産業網(ネット)からの引用)。今日午前、グーグル中国の CEO が従業員を集めて 「中国政府との交渉が失敗に終わったので、会社は解散する」 と通知したそうだ。授業員は半年分の年俸と有給相当の報酬を得るとのことで、昼はお別れ会を開催した由。この報道は同時に消息通の情報として 「国務院は今晩会議を開き、グーグルに対する処罰を決定する」 とのこと。中国政府が本件で折れることはぜったいあるまいと思いつつも、心のどこかでなお 「大どんでん返し!」 を期待していたのだが、やはりそういう結末になったか・・・。本文中に “Google.cn” の検索サイト をリンクしたが、これが見られるのもあとわずかの間だ。ラスト・ランを撮る鉄道ファンじゃないが、記念写真でも撮っておいてください・・・

≪追記の追記≫ @20日 午前12:00


  何時まで待っても正式の発表がない。ネットの上では、AFP通信の問いに答えてグーグル中国が 「社員は正常な勤務に復帰した」 と答えたという報道もあった。いったいどうなっているのか ?? … おそらく問題を 「政治化」 してしまったせいで中米両国政府の介入を招き、自分だけでは身動きできなくなりつつあるんでしょうね。さあ、そうなると振り上げた拳の降ろしどころが見物ですなぁ(笑)


注1:グーグルの 「業績不振」 には注釈が要るだろう。ネット検索市場で百度の半分とはいえ1/3のマーケットシェアを誇るグーグルを単純に 「業績不振」 と断ずることはできない。しかし、過去1年グーグルは中国で様々な問題にぶつかった。猥褻サイトの検索に利用され、世界中を紛議に巻き込んだ例の書籍データベース化事業でも、無断アップロードを著作権者から訴えられたり等々だ。シェアの1/3を占めるにしても、純益ベースでは決して満足できる状況ではなかったと言われる。

注2:中国がグーグル広告業務の残留に注意を払うかも知れない理由は、いま中国の名だたるブロガーの少なからぬ人がグーグルの“Ads by Google”などから収入を得ており、そこの処理を誤ると、世論に大きな影響力を持つブロガー達を敵に回す、或いは恨みを買う恐れがあるからだ。




 

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