Tsugami Toshiya's Blog
トップ サイトポリシー サイトマップ お問合せ 中国語版
ブログ 津上俊哉
「官の官による官のための経済」 批判

“exit” 問題は今回が最後です。以前から何度か取り上げてきた問題ですが、改めて論じたいと思います。


「官の官による官のための経済」 批判
中国は世界に率先して 「有事」 型経済政策を“exit”できるか(3)



  今日、2009年の通年GDPが 「保八」 公約を達成、8.7%に達したことが発表された。当地で見ていても、これを統計数字の操作だとは感じない。全面的ではないが、景気の恢復はたしかに感じられる。
  それでは後世 「4兆元対策」 はどのような評価を受けるだろうか。いまは劇的な景気恢復が拍手喝采されているが、後世は 「功罪半ば」 の評価になると思う。
  「投資に依存する成長モデルを上塗りした」等の批判もあるが、景気急落防止のために寸刻を争っていたことを思えば、速効が期待できる投資措置を中心にしたことはやむを得なかった。
  筆者が懸念することは別にある。かねてから懸念されてきた 「官の官による官のための経済」 という中国経済の最大の問題点に4兆元対策がダメ押しをしてしまったことだ。これまで論じた 「有事型」 経済政策の “exit” は短期の金融・為替政策の転換みたいな話が中心だったが、実はこの 「後遺症」 まで手をつけないと本当の“exit” にはならないと思う。

  4兆元対策で決定的になった政府と国有企業の肥大化

  4兆元投資の主たる担い手は道路、鉄道、空港など事業インフラ系の国有企業だ。発注を受ける建設会社も鉄道、道路、大型建築などはあらかた国有系だ。素材には鉄鋼、セメントなど私営企業もいるが、大企業ほど資本集約的なので国有が強い。してみると、一次的には4兆元のあらかたが国有企業から構成されるバリューチェーンの胃袋に納まったことになる。今回の不況は2007年後半、私営企業の多い輸出産業の不振から始まったが、景気の回復はまず国有企業セクターから享受されたわけだ。
  それだけではない。4兆元対策と並行して、だいぶん前に本ブログ (「 経済へのミクロ介入はなぜうまくいかないか 」)で取り上げた 「土幣」 、すなわち土地供給のバルブも全開され、公共事業や住宅供給のために大量の土地が払い下げられた。2009年の土地払下げ収入は全国上位70都市だけでも実に1兆5千億元 (≒20兆円) に達したのである (「梶ピエールの備忘録」 梶谷準教授のご教示による。元ネタ中国報道はこれ)。対2008年比140%増、「狂乱」 と言われた2007年対比でも50%増、もちろん史上最高額である。それが地方政府の歳入に納まった。
  去る19日には2009年の商業不動産販売額が4兆4千億元 (≒60兆円) に達したとの発表もあった。うち住宅の販売額はその2/3くらいだが、いまや土地の払下げ代金と税金が住宅価格の過半を占めると言われている。オフィスでも似たようなものだろう。よって、上記の土地払下げ収入に加えて不動産取引絡みの税収まで足せば、優に2兆元(≒30兆円)以上が政府の胃袋に納まった勘定だ。
  土地払下げ収入は2008年の地方政府財源の1/4を占めた。これは全国平均、しかも収入が落ち込んだ2008年の数字だから、2009年、土地払下げ収入が歳入の過半に達した地方都市もあったのではないか。それに加えて不動産関連の税収増だ。大不況が到来したせいで、地方財政はいっとき税収がガタ落ちしたうえ4兆元対策のウラ負担で支出も急増したが、これでめでたく息を吹き返した訳だ。
  しかし、地方政府が地価の高騰で利益を得る 「利害関係人」 になっているのは問題だ。低廉で良質な住宅を手に入れたい大多数の国民と地方政府の利害が衝突しているからだ。高度成長による土地の増価益の行方は悩ましい。かつての日本のように私的な地権者が手に入れる制度は 「持つ者と持たざる者の不公平」 を激化させる。しかし、中国では代わりに 「官・民貧富格差」 が激化している感じなのだ (笑)
  かくして国有企業と政府部門の肥大化傾向は 「4兆元対策」 により、この1年間でますます顕著になったように思う。

  忘れ去られた官・民の 「棲み分け」 理念

  10年あまり前、共産党第15回党大会は 「国家安全や自然独占のような業種は残すが、競争産業からは国有資本を退出させる」 と謳った。国家の投資政策、民間との 「棲み分け」 理念が明確にされた訳で、「改革開放の本流」 を行く路線として高く評価された。しかしその背景には、実は当時の政府は 「すかんぴん」 だったというウラの事情があった。国有企業改革など経済体制転換のさなかで、物要りは多いのに税収は減る苦しい時期、政府は投資しようにもカネがなかったのである。15年前に国有企業が株主である国への配当を免除されたのも、国有企業に従業員のリストラや福利部門の切り離しなど体制転換の苦しい時期を乗り切らせるための措置だった。
  しかし、あれから既に10年以上が経つ。とくに10%以上の成長が続いたここ数年間、国有企業の内部留保は急増した。最近は一部試行的に配当が復活したとはいえ、配当性向はわずか5%前後だ(中国にも 「埋蔵金」 があるという話)。加えて大国有企業は続々株式上場して資本市場からの調達の途も確保した。この結果、昨今国有企業の復権がますます顕著になった (「国有企業ルネッサンス」)。
  そして 「すかんぴん」 だった政府や国有企業の懐にカネが入った途端、第15回党大会の 「明確な政策や理念」 はあっさり忘れ去られ、野放図な 「官」 の自己増殖が始まったように思う。
  10年前の基準に従うなら、民営化が進んだ不動産業などは 「何故国有資本を投入しなくてはならないのか」 いちばん説明がつきにくい業種のはずだが、昨年後半の土地囲い込みブームを主導したのは国有系の大型デベロッパーだった。銀行からカネをいちばん借りやすい彼らが去年の入札競争を主導して、住宅を庶民に手の届かない高値に押し上げたのだ。世間を驚かす高額入札で土地を囲う国有デベロッパー、そして彼らの払った入札代金はまた地方政府の懐に入り … 「投資理念」 は何処かへ行ってしまった。

  「見かけの成長」 にいそしむ大型国有企業

  いま国有企業と監督部門にとって大事なことは、世界市場で 「列強」 多国籍企業と渡り合える中国企業を育成することだ (名付けて 「世界500強企業」 の強迫観念!)。以前のポストで、中央直轄国有企業を 「大きくする」 ため、企業同士を紙の上で 「合併」 させる結果、中央直轄企業の数が減少し続けている笑い話のような状況を紹介した (再浮上した 「重複建設」 問題 (その3))。ちょうど10年前の橋本行革でたとえば自治省と郵政省が合併、巨大官庁総務省が誕生したのと同じ構図だ。中国の中央直轄企業も、もともとは殆どが政府省庁だった (笑)
  しかし、最近笑い話では済まない現象も起きている。不況のせいで企業価値がお値頃なため、大国有企業が余裕資金を使ってインダストリアル・チェーンの上流や周辺に位置する納入業者 (製品・部材・サービス) を買収しているのだ。
  出来のいい納入企業を買ってしまえば、売上 (他社向け) や利益を連結でき、これまたランキング上昇に有利になる … しかし、結果として起きることは調達市場における競争の減少であり、内部エージェント (国有企業幹部や 「ご一門」) による企業利益の蚕食だろう。
  国有企業による民営企業買収の事例は他にもある。外資PEファンドが一役買って大企業に成長した乳業会社 「蒙牛 (蒙牛乳業、香港上場企業)」 は例のメラミン混入事件のあおりで苦境に陥ったが、去年中央国有企業 「中糧集団」 傘下に入ることが決まったほか、山西省の民営炭鉱が安全管理に問題ありとされて強制的に国有炭鉱に買収される事例が相次いだ。

  「平家にあらずんば人に非ず?」

  グーグル撤退の背景として、同社が中国市場で苦戦していることが報じられた。ライバルの百度 (Baidu) が政府の支援を受けていることを考えると不思議なことではない。サーバーの華為 (Huawei) もしかり、伝統的な中央国有企業以外にも 「元気」 な民営企業はいるが、それらは政府の購買・調達で支援を受けたり、見えにくい形で政府のカネが入っている企業であることが多い。今回のグーグル撤退を巡るネットの書き込みの中には 「これで政府が百度 (Baidu) を買収する時期も近づいただろう」 という書き込みがあった (百度はグーグル撤退で大きな利得を得るが、海外 (Nasdaq) 上場企業であることは、一部の人から見た 「懸念材料」 だ。大電信企業などによる資本参加とかは今後ありえないことではない。)
  グーグルの苦悩は多くの外資企業、多国籍企業が共有する。とくに激増する政府調達から体よく閉め出されているような外資企業は 「中国市場は儲けさせてくれない」 という苦い想いを改めて噛み締めていることだろう。しかし、別に外資を狙い撃ちして差別している訳ではない。一般の私営企業にとっても、上述のような政府の後押しにありつくことは夢のまた夢だ。彼らも外資同様に苦い想いをしている。
  そう言えば最近、海外からの資金流入を相殺する狙いから政府が対外投資を奨励していることも手伝って、国有企業だけでなく私営企業による海外企業買収が盛んだ。そんな海外企業M&Aを経験した私営企業オーナーが体験を語ったセミナーの報道を目にした (いまは海外で (企業を) 安値買いする好機)。海外M&Aをやるかどうかは別にして、いまの私営企業経営者のフィーリングを如実に表す言葉だと感ずるのでご披露する。
   …国内の経済体制は問題だと思いますね。不確定要素が多すぎるんです。米国にはそんな不確定要素はほとんどないが、中国経済は政治の要素で動くでしょう? 経済工作会議とか党大会とかで今後の中国経済の行方が決められてしまう。だから先に発言された○○さんが言われたように、私らみたいな企業が国内でプレーするのはリスクが大きすぎる。なんと言っても今は 「大国有企業の天下」 の時代ですから。ならば我々は海外へ出ようじゃないか!と…
  要するに 「平家にあらずんば人に非ず」 ではないが、いまの中国は 「官」 及び特別な関係によって 「官」 に近しい少数の企業以外にとっては、まことに生きづらい市場なのだ。

  このままでは中国経済は行き詰まる

  最近、FT中文サイトで興味深い記事を見かけた (「国進民退は収入分配を悪化させる」)。中身はMITスローン・スクール黄亜生教授らへのインタビューだが、この中で黄教授が 「最近香港の研究者が国有企業の借りている銀行融資の利息を私営企業の水準まで引き上げたら…という試算をしたら、国有企業の利潤はほとんど消えてしまった」 と話している。あれほどの特権や市場独占に守られた国有企業が銀行利息ほどの利益も出せないでいることを物語るエピソードだと思う。
  そういう効率の低い国有企業セクターが肥大化する中国経済の先には如何なる結末が待っているか … 中学生でも分かる。次第に成長力を失って失速し始めるはずだ。10年はかからないだろう。あるいはもっと急迫した展開もあり得る。インフレ懸念が迫って大幅な利上げを余儀なくされる場合だ。この1年、国有企業は特権を活かして借金しまくった。そこにハイピッチの利上げが来れば業績に及ぼす影響は甚大だ。そういうときに 「こりゃダメだ、やはり民営化を促進しよう」 ということになるか。いまの体制では 「補助金増額、優遇策強化が必要だ」 ということになる確率が高いのではないか。
  ほかにも、上記のFT記事は国有企業の投資があらかた資本集約型産業 (鉄道、道路などインフラ系も然り) に投じられ、結果として雇用よりも投資が重視されていることを指摘して、「収入分配の不均衡是正が焦眉の急とされているが、このままではますます悪化する」 と指摘している。
  「官」 がこのまま肥大を続けると、中国経済は効率と活力を失っておかしくなる。「西側流の自由と民主主義はやらない」 でもけっこう。でも、「経済は市場経済で行く」 と決めたのではなかったか。しかし、少数者にますます経済力が集中する今の姿は市場経済のあるべき姿から離れていくようにしか見えない。

  専門化・巨大化する 「官」 既得権益の増殖を防げるか

  こんなに明白な問題が改まらないのは、コトが党・官僚機構の巨大な既得権益に関わるからだ。原因が分かれば解決できる問題ばかりなら、世の中誰も苦労はしない。日本だって、自民党政権時代に形成された旧い既得権益がもたらした弊害が指摘されて久しいが、これを是正するのに何年かかっていることか。
  節度を失って自己増殖・肥大化する党と政府の経済既得権益にメスを入れられるとしたら共産党中央の指導者しかいないのだが、指導者自ら筆を執って政策を書き下ろせる筈はないから 「知恵袋」 が要る。現に、朱熔基氏が総理を務めていた10年くらい前までは一人のエコノミスト、一つのシンクタンクが上げた政策建議がそのまま国務院の政策になることがよくあった。
  しかし、最近の中国は政府も企業もはるかに専門化・官僚組織化 (言葉本来の意味ですよ) が進み、一個人や一研究組織が担当省庁の頭越しに政策を左右できる時代ではなくなっている。それも 「官」 の自己増殖が止まらない一つの原因なのだろう。
  いま改革を怠ると、中国にとって何より大事な 「安定」 がもっと大きな形で将来に損なわれる。これ以上舵を切るのが遅れると、ますます後の事態を難しくすると案じられてならない。
平成22年1月21日 記




 

TOP PAGE
 ブログ文章リスト

New Topics

2期目習近平政権の発足

松尾文夫氏の著作を読んで

トランプ政権1周年

中韓THAAD合意

中国「IT社会」考(その...

中国「IT社会」考(その...

中国バブルはなぜつぶれな...

暑い夏 − 五年に一度の...

対中外交の行方

1月31日付けのポストに...

Recent Entries

All Categories
 津上のブログ
Others

Links

All Links
マイ・ブックマーク
我的収蔵

Syndicate this site (XML)
RSS (utf8)
RSS (sjis)
RSS (euc)

[ POST ][ AddLink ][ CtlPanel ]
 
Copyright © 2005 津上工作室版権所有