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ブログ 津上俊哉
「普天間」 三題 (番外編)

今回はいつも堅い 「牛涎斎」 風からちょっと趣向を変えて、ファンタジー的なショートショートです(笑)


「普天間」 三題 (番外編)
ヘンな夢を見た


  夕べ、ヘンな夢を見た。お題は、金持ちになる話でもエロチックな話でもない、お堅い 「安全保障」 (笑)。「普天間」 以来、あちこちのネット記事やらブログやらを読み過ぎたせいに違いない。

  【場面1】 米中制服同士の協議、テーマは 「北朝鮮有事の即応体制」
         二人は5年前、ジョージタウン大留学で机を並べた間柄


米国軍人:おたくは有事にどれくらい展開できるんだ?
解放軍人:緊急展開は10万くらい。後方入れると20万。
米国軍人:何時間くらいで?四川地震のときの救援ロジスティクスが凄かったんで期待している。
解放軍人:詳細は答えられない。
米国軍人:はいはい(笑)
解放軍人:米軍はどうか?
米国軍人:在韓米軍は近いけど脚が遅いので、即応は海兵隊にやらせる。1万だな。
解放軍人:うちの、たった1/10! ありえない。そんなじゃ、現地でうちばかりが目立って、北朝鮮どころか韓国まで 「中国に侵略された」 って騒ぎ出す。
米国軍人:だから、「6ヶ国?1」 で共同声明って手筈じゃないか。国連じゃないけど、明確な 「多国間の枠組による共同管理」 なんだから大丈夫。
解放軍人:おたくは中朝2000年の歴史がまったく分かってない。ここで下手こいて中国が韓半島の怨みを買ったら、将来何百年も祟るんだぞ。
米国軍人:大丈夫。動員兵数なんて公表しないんだから、メディア・ウォーズがカギさ。ヒトが見るのはCNNに映る現場 Breaking News、そこで米・中・露・韓の共同作戦を 「演出」 すればいい。コソボと同じよ。
解放軍人:はぁ…、うちはそういうノウハウないなぁ。
米国軍人:知ってるよ、天安門の頃から進歩してないみたいだな (笑)
解放軍人:(ムッ) ……ところで、1万名って、例の沖縄にいる海兵隊か。
米国軍人:そうだ。
解放軍人:「年中留守がち」 って聞くけど、だいじょうぶか。緊急展開に遅刻したら承知しないぞ。
米国軍人:はいはい (笑)
解放軍人:ところで、日本は有事について何か言ってきているのか?
米国軍人:拉致人員の捜索・保護しか言ってこない。
解放軍人:思ったとおりの反応だ。ホント分かりやすい国だよ (笑)
米国軍人:自衛隊はこっちの検討の様子を知りたがっているが、兵員で貢献できる訳でもないし。どこまで involve したものか、迷うよ。日本の政治家に話すと、1週間以内に新聞に出るしな(笑)
解放軍人:韓国軍はどうだ?
米国軍人:…いちばん微妙だ。指揮権返還の前か後か、返還するのかという問題も絡むしな。
解放軍人:「共同行動」 は在韓米軍の指揮権問題と関係ないだろう?
米国軍人:「半島有事」 になったときの韓国人の心理は理屈じゃ割り切れんだろ…
解放軍人:そら見ろ。おまえらだって 「Peninsula はホットポテト」だと思ってる。
米国軍人:まあね (笑)、でも連中も気の毒だ。生まれた場所が東洋のバルカン半島だ、ってだけで苦労するんだからな。
解放軍人:我々中国は、その 「東洋のバルカン半島」 と隣り合わせだということを忘れないでくれ。

  【場面2】 昨秋、米中外交関係者協議(2ndトラック交流だが、出席者が高ランク)
        テーマの一つ 「日本政治の最近の気になる傾向」 について 


米国側:最近成立した日本の Hatoyama 内閣について、意見交換したい。米国としても、同盟国日本の新政権誕生を祝福しているし、停滞著しい同国の政治が各方面で break through を実現することを望んでいる。しかし、率直に言って同政権、とくにHatoyama 総理に気懸かりも感じている。

   一例を挙げると、Hatoyama 総理の安全保障観である。我々が得ている情報では、彼はその 「友愛」 的な見かけによらず、「日米安保依存からの脱却」、はては 「憲法改正」 に強い意欲を持っている。何でも、祖父から譲り受けたアジェンダなのだそうだ (笑)。しかし、これは言うまでもなく日本の全体主義、軍国主義と共に闘った我々をいささか不安にする傾向である。

   彼の理想主義を貶すつもりはないが、如何せん指導者になったばかりで、不安定な極東の安全保障情勢について、まだまだ多くを学んでもらわねばならない。こうした点でも米中両国がそれぞれ異なる場で、総理に極東が直面する現実を知ってもらえる機会を提供できるように期待している。

中国側:日中関係は頑固な小泉総理時代に停滞したが、最近は大きく好転し、「氷が融けて春を迎えた」 と評されている。鳩山総理は就任以来、首脳交流も何度か行われたが、歴史認識も我々にとって受け容れられるもののようである。しかし、貴職のいまのご提案には留意して本国にも伝えたい。

  ※ 協議終了後、中国代表と下僚の内話

 下僚:米側、うちのノリが悪いんで、不服そうでしたね。
 代表:あぁ。10年前までは、アメリカが日本の悪口を言ったら、我々はアメリカの2倍、日本を罵ったもんだ。そうすりゃアメリカ人は喜ぶ、「やっぱり 『ビンの蓋』 は必要とされている」 ってな (笑)。でも、我々も何時までアメリカ人にヨイショしてる時代じゃない。

 下僚:だいいち、日本たって、昨今の自衛隊ってそんな脅威と思わないですよ。
 代表:こっちの装備がボロボロだった10年前と比べると時代は変わりつつある。ただ慢心するなよ、古今東西、敵を甘く見ると痛い目に遭うと決まってる。

  【場面3】 米国防省内部報告 2010年3月下旬

  本日、中国大使館海軍駐在武官W少将が来訪、近く同国海軍北海艦隊が実施予定の西太平洋海域における遠洋演習について事前通報越した。内容以下のとおり。(通報された内容:略)

  小官からは、予定航路 (宮古海峡通過) が釣魚島 (Senkaku) にも近く、刺激的すぎないかとの疑問を呈したが、W少将は 「釣魚島に関しては、合衆国の累次説明により問題の sensitive さは十分理解している、宮古海峡通過にあたっては潜水艦も浮上して無害通航するし、釣魚島で日本を挑発して軍備強化の動きを誘発する等の愚を犯すつもりは全くないので安心されたい」 と繰り返した。

  なお、W少将は再三、合衆国が昨年秋に外交ルートで 「極東安全保障問題に関して両国がそれぞれ日本に 『教訓』 を与える」 ことを提案したと述べ、本演習計画はこの提案に基づいて実行されるものであると述べた。小官は 「我が国からかかる提案をした」 との事実については不知である旨答えおいたが、何らお心当たりの点あればご回報願いたい。

  また、W少将は、我が国がこの事前通告を日本側に伝えるか否か、強い関心を示したところ (その結果によって、中国からも日本に直前通報を行うものと推測される)、回答ぶりについて請訓申し上げる。

  【上記報告に対する回答】

1.合衆国から中国に 「極東安全保障問題に関して両国がそれぞれ日本に 『教訓』 を与える」 ことを外交ルートで提案した事実があるか否か、国務省に照会したが、「かかる事実は一切ない」 との回答を得た。

2.請訓の回答ぶりについては、日本防衛省に連絡しないこととした。W少将には 「日本の我が colleague は貴国艦隊が母港を出港直後から艦隊の動向を察知するであろうから、当方から通告するまでもない」 と回答されたい。

  なお、日本防衛省に事前通報を行わないのは、? Futenma Base 移設問題の現状に照らし、本演習は中国が主張するとおり、結果的にHatoyama内閣に対して多大の 『教訓』 効果を挙げることが予想され、通告をしない方がより劇的な効果を期待できること、?中国が今回合衆国に対して異例の事前通告をしてきた背景なりチャネルなりについて、日本防衛省が詮索する原因を作る必要はないとの判断に基づくものであるが、この点は貴官かぎりとし、W少将に伝達する必要はない。

  【場面4】 在北京米国大使館海軍駐在武官より国防省宛連絡 5月中旬

  訓令に従って、人民解放軍総参謀本部 (L少将) に対して、韓国海軍哨戒艇 “Ten-an” 撃沈事件への対応として、黄海海域にて米韓共同演習を行うことを通告した。

  L少将は直ちに強い調子で、「当該海域は北朝鮮の沖合であるばかりでなく、山東半島の目と鼻の先、北海艦隊基地のある青島から1000?も離れていない場所である、北朝鮮に名を借りて、かかる中国の内海に原子力空母ジョージワシントンまで繰り出して演習をやるなどというのは、中国として到底受け容れられない、アメリカは演習と称して我が国攻撃型原潜がNYやロスの沖合に出没することを受け容れられるか、まったく同じことである」 と非難した。

  L少将は続けて、「かかる演習がそもそも現下の北朝鮮情勢に対する対応として適切とは思えない。このことは外交レベルでもお伝えしていると思うが、我が国は事件の冷静な真相究明こそが肝要であり、かつ、韓国や貴国の提出した証拠は、まず我が国を含む第三国の検証が必要との立場である、だいいち、北朝鮮が原子力空母に怯えて暴発でもしたら、貴国はいったいどう責任を取るつもりか」 と小官を詰問した。

  これに対して小官からは、訓令に基づき 「実は本演習には、北朝鮮に対する見せしめ以外に別の狙いも込められている、それは 「極東安全保障問題に関して日本に 『教訓』 を与える」 ための共同行動ということである。中国は去る4月上旬、この共同行動の考えに基づいて第一列島線を越えた大遠洋演習を実施したばかりである。それが日本に対する 『教訓』 として多大な効果を与えたことは事実であり、貴国が間接的に Futenma Base 移設問題に効果的なアシストをしてくれたことは多としているが、「共同行動」 である以上、今度は米国が役をもらう番である」 旨述べた。

  L少将は果たしてこの説明にたじろいだが、なお、「米空母が黄海に来ると聞けば、北朝鮮は当然 『何故黙っているのか』 と質してくる。我々として説明がつかないし、北朝鮮がこれを 『中国にも見捨てられた』 と受け取って冒険主義的行動に出る危険性も高い」 旨主張した。

  このため小官から訓令に基づき、「北朝鮮には“Ten-an” の軽はずみな行動を痛切に反省してもらう必要があるが、他方、『本演習には別の狙いもあり』、北朝鮮として、それ以上心配する必要がないことは、貴国から北朝鮮に対して適宜説明できるのではないか」 と述べておいた。

  L少将は 「本件は何と言われようと、『了解した』 などと言える類の話ではない、大至急、国家指導者を含む上層部に報告をし、然るべき対応を取らせてもらう」 旨述べたので、「本件演習は通告であり、米国は貴国が反対しようと演習を中止する考えはない、ハイレベルの対話としては、ちょうどヒラリー国務長官が上海万博視察を兼ねて今週末から貴国を訪問する予定であり、適当な機会になるだろう、ちなみに、同訪問には統合参謀本部議長など、制服高官も随行するので、なおさら適当と考える」 旨答えて会談を了した。

  【場面5】 在北京米国大使館海軍駐在武官より国防省宛連絡 6月2日付け

  本日、人民解放軍総参謀本部L少将より火急の呼び出しを受けて往訪したところ、下記の申し入れを受けたので、取り急ぎ報告する。

  L少将は 「天安沈没事件は依然真相も解明されずに未解決のままであるが、東北アジアにおけるもう一つの不安定要素が解消されたことにホッとしている。すなわち、東北アジアにおける安全保障情勢について、拙速な改変を唱道するが如くであった日本の鳩山内閣が先日、現状を大きく改変しない辺野古移設案に同意したばかりか、本日混乱の責任をとって退陣することになったことである。

  東北アジアの安全保障情勢の実情を必ずしも踏まえずに、現状を改変しようとする鳩山総理の理想主義路線については、貴国同様、解放軍としてもいささかの不安を覚えていた。後任の菅総理はより親米的であり、かつ中国にも敬意を払ってくれる人と思う。以上を踏まえれば、両国で協議してきた 『教訓』 行動計画は、見事に目的を果たしたと言え、これ以上の刺激を与えることは、かえって不適当である。

  以上の認識に立って、中国は貴国が計画している旨通告越した原子力空母を含む米韓共同演習に断固反対する。外交ルートでお伝えするが、仮に貴国がこの警告を無視して演習を強行する場合、中国としては天安沈没問題に関する国連安保理でのいかなる提案にも反対することが決まった」 と述べた。

  小官から、そうは言ってもこのままでは、米国は 『教訓』 計画で役をもらえないまま、貴国の 「ワンマン・ショー」 (大遠洋航海演習) に終わると述べたところ、L少将は 「貴国は既に、ステルス戦闘機F22を沖縄に飛来させたではないか、貴国も既に役は演じたのであり、「ワンマン・ショー」 との指摘は当たらない」 と述べたので、「取り急ぎ国防省に報告する」 と述べて会談を了した。

  なお、見送りの廊下で 「Hatoyama 総理が辞任することについて、東アジア共同体論への共感から、或いは仮想敵米国の西太平洋におけるプレゼンスを減じてくれる貴重な指導者だといった見地から、辞任を惜しむような声は国内や解放軍内にないのか」 と尋ねたところ、L少将は 「中国にもさまざま意見・立場があるのは正常なことだ。例えば、数日前に日本を訪問した温家宝総理は 「東海ガス田共同開発問題」 について、新たな譲歩を提案した。これなどは貴官が質問されたような立場から出たものであろう。しかし、この提案には解放軍内部だけでなく庶民も含め 『何故この問題で日本に譲るのか理解できない』 という強い意見がある」 と述べた。

  L少将は続けて 「外交的な見地からは、そういう立場もありえようが、軍には軍の、軍人には軍人の立場と利害がある。鳩山総理はもう少しうまく立ち回れば、米国の西太平洋におけるプレゼンスを減じてくれたかもしれないが、そうなれば中国の国内には 「それなら敢えて空母まで建造する必要はなくなった」 とか 「国防予算を削れ」 とかいった声が出てくる。軍と軍人のそういう立場や利害は不思議と国を超えて共通するものであり、米国軍人である貴官と私が、このような形でハラを割った話し合いが出来る時代が来ようとは、10年前には想像だにしなかった。今後も信頼関係を築いていきたい」 と当方の肩を抱きながら、述べるところがあった。

  【ヘンな夢終わり】

  「夢」 なわりには、長編で会話が妙に生々しいでしょ。でも、あくまで 「夢なので」、「事実関係に誤りがある」 とか、ツッコミ入れないでください (笑)。

  真面目な話をすると、筆者は 「天安」 沈没事件や中国海軍の遠洋演習、はては悪ノリ気味のロシア艦隊の演習まで、にわかに増してきた東北アジアの「緊張」の全てが、普天間問題で日本を怖がらせるために、関係国が協調で演ずる 「でっち上げ」 だとは思わない (そこまで陰謀論タイプじゃないので(笑))。しかし、同時に、沖縄問題や鳩山総理の安保観の問題あるがゆえに、普通なら10の投入で済むはずの 「対処」 が意図的に誇張されて20投入されている、といった影響は疑いなくあると思う。

  「安全保障の現実はキビシくて、理想論だけでは事が運ばない…」 門外漢ながらそういう思いを新たにする今日この頃である。
平成22年6月10日 記




 

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