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ブログ 津上俊哉
文化改革と言論統制

今週18日火曜日に発表された中国共産党六中全会の決定について、以前から感じていたことを書きます。


文化改革と言論統制
六中全会「文改」決定に思うこと



  10月15日から開催されていた中国共産党の 「六中全会」 が今週閉幕し、「文化体制改革及び社会主義文化の大発展大繁栄に関する若干の重大問題に関する決定」 が採択された。

  この 「決定」 をどのように理解したらよいのか勉強中だが、まず背景として、大国として復活を成し遂げ、そのことに中国人が自信を深めつつある中国だが、こと文化的な影響力といった面では西側との懸隔が依然甚だしく、これからはもっと 「文化強国」 にならなければ…という認識がある。

 六中全会 「文化改革」 決定は文化産業振興政策なの?

  この決定に関する評論をあれこれ読んでいると、公(益)的な 「文化事業」 と商業的な 「文化産業」 をもっと区別し、後者は重要産業として育成発展させようという狙いが指摘されている。これに沿うように数年前から国有メディア・出版社の企業改造なども進められてきた、とも。当事者でもあるメディアも 「事業と産業の区分け明確化」 を明るいニュースとして歓迎している風がある。ふーん、そうなのか…。

  言わば、中国版 「文化産業振興、文化産業政策」 みたいな経済政策の色合いがあるのかなと思うが、今ひとつしっくり来ない。その原因を考えてみると、やはり今の中国で顕著な問題 「言論統制」 がどうなるのかがよく見えないからだ。

  元来、公益的な 「文化事業」 と商業的な 「文化産業」 の区分、役割分担がはっきりしなかったのは、思想や言論といった 「敏感」 領域が強い統制の対象であり続け、「産業」 側も常に当局の顔色を窺わざるを得なかったためだろう。「今後、文化産業を振興する」 のはよいが、そこでの思想、言論の取り扱いはどうするのか。「思想・言論は公益事業の領域、産業は娯楽だけ扱っておれ」 というのでは 「文化強国」 の途は拓けてこないだろう。という訳で、この 「決定」 が持つ本当の狙いや実際の効果については、いま暫く勉強を続けたい。

 言論統制が中国ソフトパワーの純資産を大きく減殺している

  今日このポストをしたくなったのは、決定の中に 「国家の文化ソフトパワー (軟実力)を高める」 というくだりがあったからだ。「文化強国になる」 の別表現だとも解せるが、筆者は近著 「岐路に立つ中国」 でも触れたテーマなので、「ソフトパワー」 の語に反応してしまった。

  最近は中国でも 「国のソフトパワーを高めることが重要だ」 と言われるようになったが、一国のソフトパワーを考えるときは、「資産」 と 「負債」 の両面を考慮する必要がある。喩えて言えば 「ソフトパワー勘定」 だ。「中国文明」 や 「改革開放で達成した驚異的経済成長」 は中国の大きな 「資産」 だが、同時に 「言論を統制し、人権を弾圧する」 中国共産党と政府の 「悪漢」 イメージは最大の 「負債」 項目であり、世界における中国ソフトパワーの 「純資産」 を大きく減殺している。

 通信監視のお手本は米国にあり

  中国が本当にソフトパワーの伸張を目指すのなら、資産の部の拡充だけでなく、負債の部を減らすことを考えたらどうか。近著でも述べたことだが、その点で筆者がぜひ検討してもらいたいのは、言論統制のやり方の刷新だ。政府や党の立場・意見に対する異見・批判を、その場で情報遮断し、直ちに人を逮捕・拘束するのでなく、事後取り締まり (真に危険と認められる段階での逮捕・拘束) に留めるかだ。中国と米国の治安対策の決定的な違いは、そこだと思う。

  米国は自由と人権の守護者を自認する国だが、とくに911以降、テロ対策が強調されるようになり、ずいぶん違った顔を見せる国になってきた。

  米国は、海外での通信 (電話、メール等) に対しては、以前から大々的な盗聴活動を行ってきたが、国内、国民間の通信の盗聴は、憲法が保障する通信の自由との兼ね合いで少なくともおおっぴらにはされてこなかった。それが911以降は、大がかりに、しかも裁判所の令状もなしで行われるようになったようなのである。

  もちろん、実態が公表されることは稀だが、少しググれば、NSA (National Security Agency 予算も活動もほとんど公開されない謎の連邦機関) による通信の秘密侵害を告発する民間サイトが米国にたくさんあることが分かる。人気TVドラマ 「24」 で描かれたハイテク駆使の盗聴・捜査活動は、あながち荒唐無稽ではないのである。メールに 「アッラー」 と書き込めば、盗聴システムにヒットし、怪しければFBIが送信者の周辺を洗い、必要と判断されれば本格的な内偵・尾行が始まる…という意味では、米国でも言論は監視され、ときに取り締まられているのである。

  ただ、中国との違いは、あくまで言論の静かな監視が中心、それがテロ等の暴力に発展しないかどうかを見張っているということであり、中国のように言論自体を遮断、発言者を逮捕・拘束してしまうといった 「粗放的」 な取り締まりはしないことだ。

  中国でもネットの発達に対応するため、先端的なIT技術を駆使した言論統制手段が急速な進展をみせている。公安関係の情報セキュリティ対策 「グレート・ファイアウォール」 (長城防火壁) がこれに当たり、当局が基幹通信回線(バックボーン) に対して、キーワードを基にしたフィルタリング規制 (規制対象の語彙を含むウェブや通信を割り出して接続を規制・遮断する等) を行っているほか、ポータルやブログサイトの運営業者 (既成マスコミを含む) による自己検閲も義務化されている。この結果、伝統的な媒体だけでなく、インターネット上のニュースサイト、ポータル、ブログ、掲示板などはみな規制を受けており、「不適切な」 内容は遮断されるか、削除される運命にある。

  技術とシステム整備のレベルはさらに高度化し、ネットカフェからの送信でも直ちに発信者を割り出したり、追跡したりできるインフラを備えたと言われる。身分証の呈示やクレジットカードの利用からターゲットの所在を即座に割り出せるようなシステムの連携も進んでいると言われる。

 中国も 「事後取り締まり」 中心に転換せよ

  しかし、実のところ、このような仕組みは米国NSAの盗聴システムをお手本として整備されたものである。それが 「米国に追い付いてきた」 ということだ。そうであれば、いっそのこと、中国も遮断する情報の範囲を順次でいいから縮小して、事後の取り締まりを中心にするよう改めることはできないのか。

  近著でも述べたが、ポイントは運用基準の明確化と自制だ。テロリストや暴力・騒擾の煽動者など、社会に切迫した危険をもたらす者を追跡・拘束することは何処の国でもすることだ。上には米国の例を取り上げたが、米国以外の 「西側先進国」 もテロ対策の観点から、盗聴監視といった領域に既にずいぶん踏み込んでいるはずである。「棲みにくい世の中」 になったものだが、社会の脅威が国と国の戦争から国のかたちをとらないテロ集団みたいなものに重心を移しつつあることは否定のしようがない。善し悪しを別に、「西側」 社会も我々が自分達で思っているほど、自由で規制のない社会、な訳ではないのである。

  しかし、言論を遮断したり、切迫した危険のない知識人まで逮捕・拘束したりすることは、中国の 「異質性」 を世界で際立たせ、ソフトパワーの負債を増大させる。情報は努めて遮断しないようにする、逮捕・拘束の運用基準も 「体制を批判したかどうか」 ではなく、「それが暴動や混乱を引き起こす現実の危険があるか」 に改めるべきだ。

  以上のような漸進的、微温的な提案は、中国の人権問題を追及する人達から 「甘い」 「宥和的」 だと批判されそうだ。情報遮断や即時逮捕が影を潜めても、いつ公安に拘束されるか分からない不安の下では、自由闊達な言論も文化産業の発達も見込めないと言われれば、そのとおりだ。

  しかし、社会も人の意識もどんどん現代化するいまの中国で、言論統制だけが旧態依然という現状は、どうみてもサステナブルではない。中国は既にその動静、行く末が世界中に多大な影響を与える重要な存在だ。その中国が始終 「いまのような政治体制や言論統制のままでは早晩、大問題が起きるのではないか」 という不安を世界に撒き散らすのは困るのである。

  どこかから変えなければならない。とすれば、まずここらへんから始めてほしいと思うのだ。そこらへんを改善することは、中国自身にとっても文化産業の振興や中国のソフトパワーの負債減らしに役に立つはずである。
(平成23年10月22日記)




 

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