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「岐路に立つ中国」 が出版になりました

8年ぶりに書いた新作が出版されました。「まえがき」を抜粋して、内容を紹介させていただきたいと思います。


「岐路に立つ中国」 が出版されました
「超大国を待つ7つの壁」



  8年ぶりに書いた新作「岐路に立つ中国」が出版されました。「まえがき」を抜粋して、内容を紹介させていただきたいと思います。


書名:「岐路に立つ中国」
出版社: 日本経済新聞出版社 (2011/2/26)
ISBN-10: 4532354587
定価:1,995円(税込み)


「まえがき」から


  2003年、私は初めて本を書いて世に出した(「中国台頭」 日本経済新聞社)。この本は、01年頃から日本の政、官、財、メディアに澎湃と湧き起こった「中国経済脅威論」の謬論ぶりに呆れて、少数派の異議を申し立てるつもりで書いた本だったが、幸い同じ懸念を持つ方が各方面におられたおかげで、同年のサントリー学芸賞(政治経済部門)をいただく望外の栄誉に浴した。

前著執筆後の八年間に起きた変化

  前著の書名を 「中国台頭」 としたのは、「中国台頭は幻想でなく現実に起きるし、止めることもできないから、日本は台頭後の中国との付き合い方を準備せよ」 と言いたかったからだ。8年前は、中国は台頭するか?について、日本だけでなく中国でもまだ見解が分かれていた。「中国崛起(ジュエチー:台頭)」 という言葉が中国でよく使われるようになったのも2004年か05年からだったと記憶する。しかし、8年が経つ間に、中国は面目を一新する発展を遂げ、昨2010年、とうとうGDPで日本を抜き、世界第二位の経済大国に躍り出た。「中国台頭」 はいまや異論を差しはさむ余地のない現実となった。

  「中国は台頭する」 という大筋の読みは外さなかったものの、私の前著での読みは少なからぬ点で外れた。「日本はやがてGDPで中国に抜かれる」 と主張した私も、10年もかからずに抜かれるとは思っていなかった。金融危機後のいまは、日本だけでなく世界にも、この危機が世界史の主役交代につながり、やがて米国が世界の盟主の座を中国に明け渡すときが来るのではないか、といった予感さえ漂っている。

  「チャイナ・アズ・ナンバーワン」 の時代が来るのだろうか。そして、台頭する中国は今後いかなる課題を抱えて、どのような隣人に変貌していくのだろうか。今後日本も他の東アジア地域も、おのれの進路と命運に重大な影響を与えるこの問題を注視しない訳にはいかない。

中国が解決すべき 「七つの壁」

  本書では、台頭する中国の経済社会、政治、国民意識が今後解決しなければならないと思われる課題を 「7つの壁」 として整理した。私の見るところ、「中国台頭」 がどこまで続くか、さらには米国を凌駕して 「チャイナ・アズ・ナンバーワン」 になれるのかは、優れてこれらの課題を中国がどこまで上手くこなせるかにかかっている。しかし、いずれも容易には解決できない難題である。

  経済面では、人民元問題の出口は見つかるか (第1の壁)、都市と農村 「二元社会」 を解消できるか (第2の壁)、「国退民進」 から 「国進民退」 への逆行を止められるか (第3の壁)、そして、「未富先老」 (高齢化) 問題を解決できるか (第6の壁) という4つの課題を提出した。

  前著では、中国の民営企業に焦点を当てて、その成長を期待したが、その後起きたことはまったく逆の 「国有企業ルネッサンス」 であり、いまや中国経済は 「官の官による官のための経済」 の様相を呈している。また、前著で取り上げはしたが 「読み」 というほどの分析をできずに終わった農民問題や高齢化問題が、いまや誰の目にも明らかな政策課題として中国経済の前に立ちはだかるようになった。

  これらの問題を総覧するとき、中国経済がこの8年間の成長で大きく変貌したことを感じずにはいられない。一言で言えば、中国も農村余剰労働力 (出稼ぎ農民工) に依拠して 「世界の工場」 をやる時代に代わって、「完全雇用」 の時代が迫りつつある、よって今後は生産性の向上を重視して経済を運営していくことが極めて重要になる、ということである。

  前に挙げた四つの課題は、いずれもこの生産性の向上を左右する。そこをよほど上手くやらないと、今後の中国経済は物価ばかり上昇して実質の成長ができなくなる恐れがある。本書はこの視点から、あるべき解決の方向を論じているが、私はいま、状況が改善するというよりは、むしろ悪化する方向に向かっていると感じており、そういう意味で、中国経済はいま 「岐路に立って」 いると思う。

  とくに 「第6の壁」 として取り上げた 「未富先老」 (高齢化) 問題は深刻であると思う。本書は、最近在野で提起された中国人口統計に関する疑問と 「人口ボーナス」 で知られる 「成長会計」 の考え方に立って、この影響は従来考えられてきた以上に深刻、かつ、早くやってくると論じている。

  誤解のないように強調しておくと、私は高齢化問題が予想以上に深刻だとしても、「あと数年で中国経済が崩壊」 したりするとは毛頭考えない。しかし、この高齢化問題があるがゆえに中国の高度成長は2020年までにはピークアウトして成長率が低下していく、もはやこの趨勢を変える手段はなく、解決には半世紀の時間がかかるだろう、というのが私の見方だ。

  これは、中国が向こう10年、20年の間に米国を凌いで、文字どおりの 「チャイナ・アズ・ナンバーワン」 になる可能性は低いということだ。その意味するところは重大であるが、読者諸兄諸姉の叱正を待ちたい。他方 「それだけ聞けば十分だ」 式に、ここを引用されるのは本意ではない。本書は米国が世界のリーダーになるのにも半世紀を要した事実を引いて、(「七つの課題」 解決の巧拙にもよるが) 高齢化をくぐり抜ける21世紀後半、中国にも 「二回戦」 のチャンスが来るかもしれないとも述べている (そして、そのときには日本もいまの 「落ち目」 を脱しているだろうとも)。

「国際関係心理学」 的なアプローチ


  政治面については、政治体制改革は進められるか (第4の壁)、歴史トラウマと漢奸タブーを克服できるか (第5の壁)、世界に受け容れられる理念を語れるか (第7の壁) という3つの課題を提出した。

  本書には国民の 「集団意識」 や 「タブー」 といった言葉がたくさん出てくる。中国は 「西側流」 の民主国家ではないが、国民に広く共有された 「べし/べからず」 の意識は、内政面でも外交面でも、中国という国の選択と行動に強い影響を及ぼしている。そうした意識がなぜ生まれ、いかなる影響を及ぼしているのかを理解することは、中国のいまと将来を正しく分析・予測するうえで決定的に重要だと考え、本書はこの側面に努めて触れたつもりである。

  国民意識が中国の選択と行動に影響を与える問題は、対外関係において、とくに顕著に現れる。それは中国がアヘン戦争後の100年間、欧米や日本の侵略を受けて戦乱と貧困のどん底に転落したことで、中華民族が大きな心の傷(トラウマ)を負ったことに由来している。「歴史問題」 というと 「過去形」 に聞こえるが、そのトラウマはいまも中国の国民意識や国の選択と行動を制約していることから言えば、これは依然として 「現在形」 の問題なのである。厳密な用語法ではないが、中国の対外関係や外交を分析し、今後の関係を考えていくうえでは、「国際関係心理学」 的アプローチが不可欠だというのが私の確信である。

  2008年に世界金融危機が発生したことは、経済面だけでなく国民心理、対外意識といった面でも、そして良くも悪くも、「一大転機」 と言ってよいほど大きな影響を中国に及ぼしつつある。本書が政治面で取り上げた3つの課題はいずれも以上のような 「国際関係心理学」 と切っても切り離せない関係にあり、私はこの面でも中国は 「岐路に立って」 いると考えている。

今後の日本が取るべき途

  私は前著で 「日中関係は夜明け前にある」 とも主張した。それは、世界中が中国の台頭を認め、尊重するようになることで、中国国民が再び大国の自信と誇りを取り戻す…それで過去の 「トラウマ」 が癒されるのではないか、そこで起きる国民感情の変化が日中関係にも良い転機をもたらすのではないか、と考えたからだ。しかし、この希望的観測もその後の日中関係悪化のせいで見事に外れてしまった (逆に、いまや 「日中の逆転」 が日本側に 「弱国心理」 とも言うべき大きな影響を及ぼしつつある)。碁や将棋で局後に敗着の検討をやるように、本書でもこの予想がなぜ外れたか、何を見落としたか、今後はどうなのかを検討した。

  中国が向こう10年、20年の間に米国をしのいで、「チャイナ・アズ・ナンバーワン」 になる可能性は低いとした場合、日本は 「中国がどこまで強大になるか見当がつかない」 という不安からは解放される。昨今の日本の対中不安・反感は、多分にこの不安に根ざしていると思われるので、「強大化する中国も先が見えた」 ということになれば、ずいぶん 「気が楽になる」 一面はあると思われる。

  しかし、よく言われるように中国の安定には経済成長が欠かせない。「7つの壁」 への対処が当を得ずに中国経済が停滞に入ると、「中国頼み」 の日本経済が大きな影響を受けることは明らかだし、東アジアは朝鮮半島問題を筆頭に、政治・安保面で不安定になるだろう。経済の停滞は、極端な場合、中国の混乱をもたらすかもしれない。その場合、国民の眼を国内矛盾から対外矛盾に向けさせようと、中国自身が不安定の種をまく恐れもある。

  以上のように、中国が台頭を続けようと停滞に入ろうと、日本は大きな影響を受け、前途は容易ならざるものがある。これらをどう乗り越えていくべきか…本書の最後では、外交面を中心にこれからの日中関係のあり方について私見を述べた。日中関係を論ずるためには、日米関係を論じない訳にはいかない、政治外交に触れない訳にはいかない、北朝鮮問題はどう見るか…式で、話題はどんどん私の専門外へ 「領空侵犯」 していった。前著も 「中国解説本だと思って読んだら、日本のことがたくさん書いてある」 と評されたが、今回も 「日本はいかにあるべきか」 論がどんどん増えて、最後は2章に分けざるを得なくなった。専門家ではないから認識不足が多いことを恐れるが、一国民の思いとして読んで頂ければ幸いである。




本書は書店店頭のほか、下記のウェブからもご購入いただけます。面白そうだとお考えいただければ、ぜひお買い求めくださいm(_ _)m




平成23年2月4日 記

  日中友好協会機関誌「日本と中国」4月5日号で高橋茂男さんから書評をいただきました。ありがとうございます。

  BHCC 金子行宏さんから書評をいただきました。ありがとうございます。

  大和総研理事の木村浩一さんから本書へのコメントをいただきました。ありがとうございます。

  らくちんのつれづれ暮らしさんから書評をいただきました。ありがとうございます。

  日経新聞(4月10日)に書評(有料)が掲載されました。

  矢吹晋先生から書評をいただきました。ありがとうございます。

  ブロガー、elm200さん(Rails で行こう!)から書評をいただきました。ありがとうございます。

  3月27日付け毎日新聞「今週の本棚」で、政策研究大学院大学教授の白石隆先生から書評をいただきました。ありがとうございます。

  ブロガー、点額法師さんから書評をいただきました。ありがとうございます。

  ブロガー、Porcobutaさんから書評をいただきました。ありがとうございます。




 

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