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ブログ 津上俊哉
ベビー・ロンダリングの話

参照:邵氏“棄児”


最近仕事上の最大の懸案にようやくけりがつきました。2年間かかりましたが、最後のヤマ越えと終わった後の放心状態で、2ヶ月以上、このブログの更新をサボりました。済みません。これからは、もっと真面目にやります…という弁解は何度目?<(_ _)>


ベビー・ロンダリングの話
改革の遅滞が招く中国の明と暗



  新世紀週刊5月9日号カバーストーリィに衝撃的な記事 (邵氏“棄児”) が載っていた。湖南省の省都長沙市から南西に200kmほど離れた邵陽市隆回県高平鎮という農村貧困地区で、過去10年弱の間に10名以上の赤ん坊が地元計画生育部門によって親の手からさらわれ、孤児院で 「邵」 姓に改姓された後、ある子供は海外に養子として引き取られていたという話だ。


さらわれた赤ん坊は養子を求める海外に「売られて」いく

  さらわれた赤ん坊は、「超生」 の子供だけでなく、未登録の婚姻から生まれた子、拾い児など、「一人っ子政策」 を管掌する計画生育部門(鎮の計生弁)が咎めだてしうる者が多く、かつ女児が多い。

  如何に国策に反したからと言って、役所が赤ん坊を攫うのは非道すぎるが、本記事でいちばん唖然としたのは、「赤ん坊を返してくれ」 と訴える親に対して計生弁が 「返してもらいたければ」 として、ときに1万元以上の 「社会撫養費」 を払えと強要し、払えなければ (貧困地区の農民に1万元も払えるはずがない)、子供を孤児院 (「福利院」という) 経由で養子を求める海外に 「売る」 という話だ。養子を求めるのは米国を筆頭に欧米諸国の子供のない親が中心、支払う代金の名目は、孤児院の運営に当てられる 「収養費」 で、湖南省の民生庁収養中心が受け取り、大半が孤児院に支払われる。相場は3千ドルという。

  この利益動機ある故に、孤児院は 「人買い」 から 「孤児」 を 「仕入れ」 ようとする。仕入れ値は3000元前後という。そして、隆回県計生弁は、役所でありながら、その 「仕入れルート」 の一つになっていたという話だ。孤児院が 「孤児」 を養子に出すには 「親探しの公告」 手続が定められているが、手続に用いられた書面等からは、「養育困難申立書」 を提出した親の名前の書き間違えなど偽造の証拠が至る所に見つかるという。記事はこれを、攫われた赤ん坊が合法的に養子に出される 「洗白」 (ロンダリング) だとし、孤児院がロンダリングの仲介者になっていると指弾している。

  以前弊ブログ (「2012年、中国の人口危機が爆発する」!?) で、「一人っ子」 政策が中国の人口動態に与えた深刻な影響を取り上げた。そこで、今後急激な若年人口急減に見舞われる中国で今なお一人っ子政策が維持される背景に、計画生育部門の既得利益があると述べた。

  上述の 「社会撫養費」 は2002年に国務院が定めた 「社会撫養費征収管理弁法」 に根拠を持つ正規かつ強制力ある行政収費の一種であるが、細目は地方に委ねられており、湖南省の 「人口・計画生育条例」 によれば、冒頭に記した 「さらわれる赤ん坊」 はいずれもこの費用取り立ての対象だ。しかし、省の条例にすら 「費用額」 の定めはない。取り立てが始まったばかりの頃は3000元が相場だったという。いまも男の子だったりすれば、3〜5000元なのかもしれない。しかし、孤児院へのルートができてからは、とくに女児について引き取り不能な1万元といった高額支払いが強要されるようになったという。

  記事は最後に、計生弁にさらわれた娘が米国の養子に引き取られたことが分かった親の涙を誘うコメントを載せている。この問題は欧米でも関心を呼び、報道されたことも一再ならず。米国NGOも活動しており、その助けで、最近撮された娘の写真を得ることのできた父親のコメントだ。既得経済利益は罰金の取り立てでは済まず、人さらいや人買いにまで発展したということだ。中国の諺 「苛政は虎よりも猛し」 (むごい政治は人を食う虎よりも恐ろしがられる) を地でいく話だと言えよう。

「一人っ子」 政策続行の背景には地方財政問題

  ただ、記事は計画生育部門の既得利益問題だけでなく、その背景にある地方、とくに貧困農村の地方政府の財政難問題にまで焦点を当てている。こうして取り立てられた 「社会撫養費」 や孤児院への 「売上」 は、計画生育部門の懐に入っているというより、あらかたが当該地方政府の政府や党の支出に充てられているというのだ。

  この指摘が筆者に 「一人っ子政策」 の持つ本当のウラの意味を悟らせてくれた。前掲ブログで述べたように、計画生育部門は、中央から農村の 「村」 まで全国にくまなく張り巡らされたピラミッドを誇る強力な行政機関だ。しかし、如何に強力とはいえ、今日、少子・高齢化現象がかくも顕著になり、その後遺症を憂う人はますます増大しているのに、「一人っ子政策」 がなお改まらないのは、いったい何故なのか?「計画生育一家」 の抵抗というだけでは説明しきれないものを感じていたが、この記事でハッキリ分かった。つまり、これは中国が抱える 「地方財政難」 問題の別の表出病状であり、中国は地方財政改革を進めないかぎり「一人っ子政策」と訣別することができない、ということである。

  内陸の貧困農村地区が昔から貧しかったことは言うまでもない。しかし、1994年に断行された 「分税制」 改革 (注) が地方、とくに末端地方政府の財源を上級政府が吸い上げて、いっそう窮乏化させる結果を招いた。2006年に施行された善政 「農業税廃止」 で、これら農村の末端地方政府機関の財政はさらに困窮化しているとも言われる。

  そう分かって尚更やりきれないのは、いまの中国が均しく貧しいのならともかく、近年の高度成長や 「国進民退」 の風潮の中で、中央や大国有企業には 「うなるほどのカネ」 がある一方で、貧しい地方では、かくも非人道的な 「後れた」 実態が放置されている不対称を感ずるからだ。

  拙著 「岐路に立つ中国」 でも論じたのだが、いまの中国は著しい経済発展を遂げたのに、既得権益のせいで果実分配の改革がなおざりにされている結果、マクロ経済問題から社会問題まで、様々な問題が噴出している。日本も人のことをあげつらう資格があるとは思えないが、既得権益にメスを入れる困難を避けていたのでは 「和諧社会」 の看板が泣くというものだ。
平成23年5月29日記

注:拙ブログ「中国にも 「埋蔵金」 があるという話」の末尾注2参照。なお、拙著 「岐路に立つ中国」 でも第二章補論で 「中国は分税制2.0を必要としている」 (74p) として論じているので、よりご関心のある方はご参照ください。




 

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