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俄か「売れっ子」 だった先週思ったこと

尖閣問題のせいで、先週末は「売れっ子」でした。


俄か「売れっ子」 だった先週思ったこと


  先週29日(土曜)は、朝日新聞オピニオン欄にコメントが載り、夜はNHKBSのグローバルディベートウィズダム「経済大国中国〜世界はどう向き合うか 」(生放送)にも出演、と俄か「売れっ子」だった。尖閣みたいな諍いで出番が増えるのは心中複雑だ。

  時期が時期だけに、生放送のディベート番組は緊張した。「尖閣国有化」を批判されたり、「日本の対中経済権益は大きな打撃を被るぞ」と威嚇されたりしたら、どう反論するか、とか事前に考えてしまった。ところが、番組が始まると拍子抜け、第一部に登場した北京大学の査道炯教授は「日中経済関係は全体としては正常だ」と述べ、暴力行為は少数都市で起きた局部現象だと言いたげだった。

  この数日、中国のウェブを見たり、昨晩のディベート番組の中国参加者の口ぶりを思い起こしたりして感ずることは、先々週末の中国各地での暴力行為は日本を震撼させただけでなく、中国の知識層、良識人達にも甚大なショックを与えたらしいということだ。当方からあの暴力に言及されるのを苦にしているのがありありだ。別に、「日本の投資が減る」のが辛い訳じゃない、世界から「暴力を許容する中国」と見なされるのが堪らないという感じなのだ。薄煕来事件に続き、尖閣デモでも毛沢東の肖像が掲げられたことに、「暗黒の文革への回帰か?」と改めて彼ら自身がゾッとしている側面もあるのだろう。

  尖閣後第二週目に当たる先週はもっと悪い展開を想像していた。あらゆる非軍事手段を動員して対日圧力をかける観点から、例えば「日貨不買」運動の肯定・奨励、日本企業に対する様々な許認可上のハラスメント等々が続発するのではないかと。しかし、週末に日本の役所に訊いたところ、メディアで報じられた税関通関の遅延についても、全国各地で一斉に滞り始めたといった情報はなく、上部から組織的な指令が発せられた形跡もない、とのことであった。

  北京の書店から「日本」関係の書籍が一斉に消えた、出版社に「日本」関連の書籍の発行を暫時見合わせるように指示が出たとの報道もあったが、これもその後、書籍が戻りつつあるという。先々週末の各地での暴力行為についても、公安が監視カメラの記録画像を公開して、「犯人の自首」を促す等の動きが見られる。だからと言って、尖閣問題が終熄に向かうという楽観はまったく禁物なのだが、総じて見ると17日からの週に見られたような、激情に駆られた反応がやや揺り戻している印象がある。そこだけを取り出すと、2005年の反日デモの際にも見られたパターンではある(2005年6月4日記拙ブログ「一党独裁のパラドックス(下)」)。

  ただ、今回の反日運動が2005年の反日デモと異なる点は、進行中の政権交代を巡る「権力闘争」が絡んだ匂いが強くすることだ。現執行部である胡・温政権に対する突き上げ、(対抗勢力からする)示威、ハラスメントの色彩が露わだった。一部のデモ隊が明らかに事前に用意された毛沢東の肖像を掲げたことなどは、その象徴だろう。

  これを見て、筆者などはいっとき「尖閣の騒ぎで、日本は中国の抵抗勢力(恐らく左派・保守派)にとんでもない『塩を送っ』てしまったのではないか」と不安に思ったものだ。そういう見方は中国にもあったようで、18日香港で会った中国人ビジネスマンに「釣魚島騒ぎのせいで、北京はナショナリズム・保守強硬派のムード一色だ。こんな雰囲気の下で、焦眉の急である経済改革がリスタートできるはずがない。日本はたいへんなことをしてくれた」と恨み言を言われた。

  ところが、29日金曜日、3月に失脚して以来、永らく「権力闘争」のアイコン的存在であった薄煕来に対する厳しい処分が公表された。最近まで夫人や部下の起訴・公判の中で薄本人の連座を示唆する発表が一切無かったせいで、「薄の刑事訴追は恐らくない、党籍も維持するのではないか」等々の憶測が流されていたにも拘わらず、発表された罪状には規律違反、職権濫用、収賄、淫乱ばかりか「その他の犯罪に関わった疑い」まで含まれていて、中国では「王立軍(懲役15年)より罪状表現が遙かに重い、20年以下ということはあるまい」と言う人がいる。63歳の薄にとっては事実上の“life in prison”になるのだろう。

  これは突き上げを受けた胡・温政権が当初の劣勢を挽回し、むしろピンチをチャンスに代えて逆転・撃退したことを意味するのだろうか? 毛沢東の肖像を掲げるデモを見て暗澹とした気分になった中国の改革派にとっては、薄煕来処分のニュースは朗報に聞こえただろう、たとえそれが「権力闘争」の所産だったにしても。しかし、29日同日、18回党大会が事前予想されていた10月ではなく、11月8日にずれ込むことも併せて発表された。首脳陣の人事が最後どうなるか、未知数の時間はなお1ヶ月以上続くことになった。9月上旬までは各種中国情報を見ていて、「9割方固まったのかな」という印象があったが、そこにも「尖閣要素」が新たに反映されるのか、最後の結果を見ないと何とも言えない。

  こんなことを言うと「夜郎自大」と嗤われるかもしれないが、日本という国は、ときに中国に大きな影響を与える国なのだと思う。その意味では、依然「他と違う特別な国」であり続けていることを尖閣問題で改めて感じた。プラスの影響を与えることもあるのだが、そういうときは「ちょっとイイ話」程度、それがマイナスの影響となると「影響甚大」という不対称な姿なのが悲しい。
(平成24年9月30日 記)




 

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