中国の過剰投資のことなど (雑感)
最近増えてきた関連報道を見て、ツイッターでは収まらない雑感をupします。
中国の過剰投資のことなど (雑感)
最近新聞紙面で、中国製造業の過剰投資が国際市況に及ぼす影響を憂慮する声が増えてきた。昨21日には「JFE、経常益9割減 中国勢の過剰生産響く 4〜9月」という記事が、本22日も「中国リスクの行方 供給過剰の解消見えず」として三菱ケミカルH社長 小林喜光氏のインタビュー記事を見た(いずれも日経)。
今月初め、ちょうどそんなテーマで、連載ページをもらっている投融資情報財団の機関誌に載せるためのグラフを作ったので、ご参考までに掲載する。
鉄鋼・非鉄はこの1年で15%前後の価格下落、化学や窯業に至っては2〜3割の下落もザラ、ひどいものだ。重厚長大・装置型産業で怖いのは、需要を読み間違えて設備過剰を招くことだが、中国はまさにこのパターンに嵌ったと見える。
事が中国国内に収まっていれば「対岸の火事」なのだが、中国の市況下落、供給過剰は、やがては玉突き式に他のアジア市場、そして国内へと波及してくる。「中国急減速」と聞いて、日本の同業界ではそうした懸念が高まっているようだ。
もう一つ、グラフを見て直ぐ分かることは、価格の急落はちょうど1年前、昨年秋には始まっていたということだ。その頃はちょうど金融引き締めがいっこう緩まらず、浙江省で企業経営者の夜逃げ・自殺や民間高利貸の焦げ付きが発生、景況感が一気に悪化した時期でもある(拙稿「米欧の次は中国経済『失速』」(FACTA誌8月号)ご参照)。実需の現場「鋼貿市場」などの関係者には、不動産も公共投資もカネ詰まりで需要が急減する近未来が見えたのだろう。しかし、中国のエコノミストは、当時はもとより今年春に至っても、なお強気の見方を変えなかった人が多い。「アンタら、いったい何を見ていたのか」と言いたいw。
中国にとって、とりわけ悔やまれるのは、金融危機前は年来の持病「重複(過剰)投資」問題も一服感があったのに、「4兆元対策」の号令を聞くや、各業界で設備競争が猛然と再燃してしまったことだ。中国は既に金融危機前に、ざっと5%前後の中成長軌道に入っていたと見るべきだが、「4兆元対策」のせいで「高成長が戻った」という錯覚が生まれた。
統計によると、昨2011年中国の「固定資産投資」は総額30兆元に達した。日本円にすると約375兆円という空恐ろしい数字だ。その1/3が製造業で約10兆元、その少なからぬ部分が大型国有企業による素材産業の投資だろう。「高成長が持続」の前提で設備を増強したら、景気が急落、製品単価は激下がり、稼働率は落ち、損益分岐点が急上昇し…という装置産業お馴染みのパターンである。いま関連業界では、減産と在庫調整に懸命だが、価格が下げ止まっても、上向く保証はない。季節に喩えれば「厳冬」の到来である。これらの中国製造業は、この厳冬をくぐるのに、優に数年は要するのではないか。
「その様は、ちょうど昭和47(1972)年、石油ショックに襲われた日本に似ている」と書きたいところだが、考えてみれば「なるほど、そっくりだ」と言ってくださる読者は、恐らく筆者より年配の方に限られるだろうと気付いた。
当時、私はまだ高校生で当事者ではなかったのだが、死んだ父親が化学メーカーのプラント屋だったせいで、その頃の匂いを少し嗅いだのである。「新設の大型エチレン・プラントが操業したばかりだが高成長は続いている、次は自分が建設の主任として取り組むのだ」と意気込んでいるところに(第一次)石油ショックはやって来た。親父の仕事は次期プラントの増設ではなく、リストラ(当時は「産業合理化」とか言った)みたいな話ばかりになって、眠れない夜を過ごしたらしいのである。化学だけでなく多くの業種が同じ憂き目を見た。
それも40年も前の話だ。人はこうして老いて退場していくが、そういう経験はたいてい継承されないものだ。それが一概に悪いことだとは言えないけれど、最近の尖閣を巡る世相を見ていて、その思いを強くする。
(平成24年10月22日記)
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