Tsugami Toshiya's Blog
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ブログ 津上俊哉
経済成長に役立つ農業予算投入を

3冊目の本を執筆していたため、永らくブログ更新をサボっていましたが、再開いたします。ちなみに、新著「中国台頭の終焉」は日経プレミアシリーズ(新書)として1月24日発売予定です。是非お目通しいただけますようお願いいたします<(_ _)>。




  政府が行おうとしている緊急経済対策では即効性のある公共事業が積み上げられるそうだ。私は、潜在成長率を高める努力なしに、目先の金融を緩和したり財政出動をしたりしても、いっときの需要を押し上げるだけで、デフレを脱却することはできない、後には更に積み上がった国債債務残高が残るだけ、という意見に賛成である。いやしくも建設国債を財源とする以上、そのときかぎりの需要拡大だけでなく、後々まで投資効果のあがる、つまり成長戦略に役立つ中味にしてほしいものだ。

 農業への予算投入はどのような役に立つのか

  その点で以前から気になっているのが、農業関係、とくに公共事業だ。自民党は総選挙前に公表した政権公約で、「政権交代後大幅に削減された農林水産予算を復活させます。(規模拡大のための取り組み、農業農村基盤整備事業、農業用施設機械整備、森林整備、漁港・水産関連施設整備予算など)」(自民党政権公約「自民党政策バンク」農林水産業)と謳った。

  今回の緊急経済対策は、まだ予算案が固まっておらず、各省の予算要求も「25年度予算入替え要求」という素人には分かりにくい形になっているが、おそらくこの資料(平成25年度農林水産予算入替要求の重点事項〜攻めの農林水産業の展開〜)の3頁め

農業農村整備事業<公共> 2,997億円(2,129億円)
老朽化した農業水利施設の長寿命化・耐震化対策や担い手への農地集積の加速化、農業の高付加価値化等のための水田の大区画化・汎用化、畑地かんがい等の整備を推進

というあたりが自民党の政権公約に呼応する「目玉」なのだろう。「農業の高付加価値化等のための水田の大区画化」と言うが、要は昔から農林族国会議員と農林技官の鉄の結束を誇った「構造改善」事業のことだろう。

  これをあたまから「不要・無価値」と決めつけることが本稿の狙いではないが、いまの農政の延長線上で、こういう事業を復活・増額することで、日本の農業、そして日本経済に何か明るい展望が開ける気がするか、と問われれば、全然しない。

 「農業=成長分野」という逆説

  実は、私は以前から「成長分野」として農業に期待している。というより、日本の農業にも優れた分野はいまでもいろいろあり、野菜、果実などは競争が活発で、マーケティングに長けて年収数千万円を稼ぎ出す農家も多数など、いまでも産業としてのパフォーマンスはけっこう高いのである(「日本の農業が必ず復活する45の理由」浅川芳裕著 参照)。

  ただ、「計画経済」に律されている「コメ」(及び似たようなことをやっているご同類)が特異的にダメである。高米価を守るための減反政策によって、いまある田んぼの4割が休耕田として活用されていない。製造業なら工場稼働率が6割では、間違いなく潰れてしまう。いまあるストックの4割が活用されていないというのは、なかなか成長することができない日本経済にとって、壮大な無駄である。保護に保護を重ねて、それで既得権者がうまい汁を吸っている訳でもなく、逆に衰退する一方という「愚かの極み」状態なのが「聖域コメ農業」だ。

  「農業は経済や産業だけで論じ得ない」ことは承知であるが、見方を変えれば、コメほどパフォーマンスが悪いセクターになると、逆に改善の余地が大きいという逆説が成り立つ気がする。中山間地に手厚く農家の所得補償を施せば、営農を継続することは可能である。その前提で米価を下げれば需要は増大する。人口が減少する国内では多くを望めないが、海外には「日本のおいしくて安全な米」に対する需要は増加しうる。そうすれば4割の田んぼを休耕にする必要もないし、農業雇用も増大するだろう。

 いまや日本より高い米が売られている中国市場

  「空理空論」と言うなかれ。今日、試しにいま中国のコメ小売価格を調べてみた。庶民が口にするコメの代表例として、ネットで検索できる外資系スーパー「カルフール(家楽富)」を見ると、5kg換算で30〜40元(1元=14円で換算して420〜560円)だ。ちなみに、日本のイトーヨーカドーでは普通のお米が5kg当たり2500円前後とあるから、価格差は5倍前後とそうとう大きい。

  しかし、良くも悪くも「格差社会」なのが中国である。中国最大のBtoCサイト、「タオバオ(淘宝)」で高級米を検索すると、東北地方産の「有機米」と称するコメなど、あるわあるわ。5kg換算で3200円前後、6000円前後、最高価格では26000円近い(!)ものまであった。参考に日本国内で三越のウェブを見たが、5kg当たり4000〜7000円が中心で、10000円以上のものは見つからなかった。

  ちなみに、卸売価格でも、日本では主要銘柄米60kg当たり16000円前後なのに対して、中国では高級米と言われる相場は500g当たり5元(70円)つまり、約半値強までは来ているのである。まして有機など特別栽培を謳った最高級のコメなら価格差はもっと縮まるだろう。

  香港や台湾にも日本に似た短粒米需要は一定程度あるだろう。そして大陸でも東北産の短粒米需要は北方に限らずかなりある。上記の大陸価格格差を考えれば、やはり日本のコメを中華圏に輸出することは、いまや決して夢ではないのである。

  こう言うと、「銘柄米以外は安い輸入米に圧倒される」といった反論があるかもしれない。たしかにコメが自由化されれば、輸入米も増えるだろう。恐らくコメ需要は高級と廉価に二極分化する気がする。先日も某和食系ファストフード大手がワンコイン(500円玉)でお釣りの来る「ロースカツ定食」の業態を新規展開し始めたのを知って、「価格破壊もそこまで来たか」と思ったが、こういう市場セグメントは、必ずや輸入米にシフトするだろう。

  しかし、コメの値段が下がれば、高級米の輸出だけでなく、国内のコメ消費も増えると思う。どだい、外食やスーパーにおける「ご飯」が高すぎること(一食分の「ご飯」だけで200円近くする)がコメの需要をどんどん減少させているのである。「外食」や「お弁当」がどんどん需要を伸ばす生活スタイルの変化の中で、これではパンやパスタ系に圧されるのも無理はない。

 今後の国際コメ価格は上昇?

  ちなみに、コメは小麦に比べて生産量に対して貿易量が小さいドメスティックな穀物だ。国連食糧農業機関(FAO)の統計によると、2005年から2010年まで、世界の輸出量/生産量の比率は、小麦が19〜22%(2010年の輸出量1億4516万トン/生産量6億5365万トン)なのに対して、コメは4〜5%なのである(2010年の輸出量3277万トン/生産量6億9632万トン)。まして、世界的に見れば長粒米が主流で短粒米はマイナー、しかも日本人の口に合う高級品種となると、さらに量が限られる。

  また、中国の2012年コメ輸入は260万トンと前年の57.5万トンから一挙に3.5倍増した。別に不作だった訳ではない。農家・農民を重視する政府の最低買取価格が近年大幅に上昇していることから、東南アジア産米との逆ザヤが生じたためと言われている(しかし、市場での小売価格は逆に東南アジア産米の方が高いと言われている)。

  エネルギーと並んで食糧の長期的な供給は、かねてから逼迫が予想されている。今後の世界の人口増や気象状況からすれば、コメの国際価格相場は中長期的に上昇するだろう。高級短粒米のセグメントはとくにそうだ。貿易がもっと自由化されれば、既に半値にまで縮まっている内外価格差はさらに縮まると思う。

 農業予算投入にも国民経済上の効用を証明する責任あり

  成長戦略の話に戻る。政権公約によると、自民党も民主党が大幅に削減した農業関係の公共事業を復活させるだけでなく、これまで「民主党のバラマキ」と批判してきた「戸別所得補償制度」も「農業の多面的機能を踏まえた直接支払」に改名して継続するらしい。

  それをあたまから「不要・無価値」と決めつけるつもりはないが、日本の財政状況は1990年代とはまったく様相を異にしている。もはや「農業関係者以外は口を出すな」が通用する時代ではない。こういう事業を強化するのであれば、それが今後の農業、そして日本経済にどのような貢献ができるかを示す責任がある。日本全体の成長戦略にとって、雇用や輸出の増加や新規の付加価値増大といった意義、効果がどのようにあるのかを説明してほしい。

  というより、こういう予算投入がそういうかたちで活かされる新しい農政ビジョンを描いてほしい。とくにその核心となるのは、全国の田んぼの4割と言われる休耕田の活用である。

  田んぼの稼働率を上げるためには外需を掴まなくてはならない。そのために必要なことは、値段を下げることであり、いまの60kg換算で2万円という法外な禁止的関税を大幅に下げることである。100%相当まで下げれば、新しい均衡点が生まれるだろう。おそらく高級品は現状維持(下手すると外需に引っ張られていまより上昇する)、非高級米の価格も半分まで下がることはないと思う。

  そうした結果、農家の手取りが下がるなら、競争力強化に役立つようなかたちで「戸別所得補償制度」を拡充すればよい(改名するのもけっこうである)。輸出競争力強化のために必要なら、さらに農業公共事業費を投入すればよい。休耕田の活用と輸出増大を目指して新しいかたちでの予算投入が行われることが明らかになれば、新規参入も増え、農業生産法人での就業といったかたちでの雇用増大も見込める。

 「コメ=聖域」をやめよう

  「関税を下げ、米価を下げる」とは、要するにTPPや東アジアRCEP(地域包括的経済連携協定)のような自由貿易協定参加に当たって、「コメ=聖域」論を引っ込めて自由化せよということである。

  農業界は民主党政権下で「戸別所得補償」制度を手に入れても、なおTPPに反対している。政権の座に就いた自民党がお経のように唱える「聖域なき関税撤廃を前提とするTPPには参加しない」というのも、コメを念頭に置いてのことであろう。東アジアFTAも含め、「コメは例外」が絶対条件だと政治家も口を揃える。

  私は逆で、コメ(及びご同類)だけはTPPを機に自由化しないとダメだと思う。コメにも「自由化が避けられない」という危機感、「黒船到来」の意識が芽生えれば、生産者も農協も生き残りを賭けて必死に考え、努力するだろう。ほかの産業界ではそれが業界を強くしたのに、「コメ」だけは安住の世界に留まっている。それで幸せかというと、衰退する一方なのである。

  危機感を以て努力すれば新しい道が拓ける。輸出産業になって休耕田を減らすことも可能である。「付加価値を創出し雇用を増やす」ことこそ、「成長戦略」の王道だ。コメ農業以外の日本経済にしてみても、TPP/FTAへの参加の道が拓ける、主食の価格も安くなる。以上のようなメリットがあるなら、農業土木もけっこうだ。それだけでなく戸別所得補償費が2兆円かかっても引き合うと思う。要は日本経済全体にメリットをもたらすような農業予算投入をし、農政をしてほしいということだ。




 

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