1) 中国政府はマクロ経済の調節のために貨幣発行のほか、土地供給という独特のバルブを持っている。土地が国有であるためだ。景気を拡大したいとき、政府は財政出動や貨幣供給の増加と並んで、土地供給 (払下げや譲渡認可) を増加させ、景気を引き締めたいときには払下げや認可を凍結したりできる。
効き目は大きいのだが、問題は地方政府の許認可に基礎を置くこの方法は短期の経済調節に使えないどころか、かえって混乱を招いてしまうということだ。例えば、97年に1年間土地供給を凍結したことが、当時タイト気味だった金融政策と相まって 98~99 年のデフレを招いたし、逆に 99年から5年間にわたって大量の土地を供給したことが、2004年以降の経済過熱を引き起こす基になった。おまけに、04年急に土地の供給を引き締めた結果、05年から理の当然の如く全国で住宅価格の急上昇が発生、これが別の大問題になっている。
中国の土地制度は依然として計画経済時代の旧体制のままである。都市化や工業化を健全に進め、土地の移転を巡る政府対人民、人民対人民、政府対政府の分配矛盾を解決する上でも、土地を巡る私権の明確化、土地の健全な商品化を進めることこそが急務である。
2) 04年江蘇省常州で中央認可をかいくぐって大私営製鉄所を建設しようとした企業オーナーが逮捕され、地元政府指導者も解任される 「鉄本」 事件が起きた。筆者は事件の主人公、戴国芳オーナーにインタビューする機会を得たが、結果は設備過剰がなぜ発生するかについて貴重な啓示を与えてくれた。
戴国芳は、驚いたことに、元来設備過剰気味な製鉄業で大がかりな投資を目論んだ動機を 「業界内に生産性の低い企業が大量に存在するからだ」 と話した。長い業界歴を持つ経営者ゆえ、設備が過剰気味なことは百も承知であるが、過当競争下の優勝劣敗の過程で淘汰されるのは生産性の低い競合企業の方だと確信して投資に踏み切るのだという。
この逸話を元に整理してみると、確かに当たっている。 イ) 電力や石油など国有企業が独占していて政府が価格を決定できる業種では、一般に設備過剰問題は発生しない、むしろ、設備投資が足りない場合が多い。 ロ) レストランや商店など、ほとんどが民営・私営企業で占められ、退出入も自由、価格も自由化されている業種もまた、設備過剰問題は稀である。 ハ) 過剰設備問題が深刻なのは、国有や私営など多様な所有制企業が入り乱れ、政府の干渉がしばしば行われる業種である。こういう業種では投資の失敗による負担を企業が負わない (国有企業は負債償還が大目に見られたりするせいで倒産を免れる) 、企業買収が簡単ではないために後発者が既存設備買収によって参入することが難しい等の事情により、過剰設備問題がいよいよ深刻化する。
発展改革委などは生産設備の技術レベルに着眼して、劣った設備を淘汰する政策を年来続けているが、設備の技術レベルと企業の競争力は同じではない。そうして競争力の劣った企業が温存される様を見ては、再び参入を試みる企業が生まれ、過剰投資が延々と繰り返されるのである。