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の批判:1.18という出生率は過少という点について

「東大丸川知雄教授の批判に応える」の第3回目です




  拙著「終焉」ではたしかに、2012年夏に公表された2010年人口センサスから算出された1.18という特殊合計出生率(TFR)を用いて、将来人口の推計を行った。ただ、その後2年間の中国での議論を振り返ると、本問題について信頼の置ける学者(注1)の間でも「1.18という出生率は、さすがに低すぎる」という見方が主流のようである。
  よって、近著「巨龍の苦闘」では2010年センサスをベースにしつつも、学者らの推計に従って「出生率は現状1.4」と仮定、さらに三中全会改革決定に基づいて2014年から実施された「事実上の二人っ子政策」の結果、2015年以降は年間出生が100万人増加する(注2)と仮定して、改めて推計を行った。

  この推計により、「二人っ子政策」を導入して出生率が1.4から1.49に上昇しても、その効果は総人口のピークアウトが2022年から1年後倒しになり、ピーク人口も13.94億人から14.02億人に増加する程度と、微々たるものに止まるという結果が得られた。人口動態を変えるというのはやはり容易なことではないのである。

  さらに経済成長に大きく影響する労働力人口について推計を行うと、図のようになる。まず「二人っ子政策」の導入は扶養人口比率の上昇を招くので、労働力人口比率をかえって押し下げる結果になる。また、特徴的なことは、2020年代前半には労働力人口や比率がやや回復するように見えるが、2020年代後半に至ると、減少が改めて加速することである。
労働人口の推移

  前半に見える「回復」の原因は後述(注3)するが、この2020年代の労働力人口変化のパターン及び今後中国でも年金改革が進むと予想されることを踏まえて、私は最近「少子高齢化による成長制約が顕在化するのは、いまから約10年後の2020年代後半だ」と主張しており、近著「巨龍の苦闘」でもそう書いている。

  さて、丸川教授は「津上の人口予測を採用した場合に、経済成長率はどれだけ下がるのだろうか」 「2011−2020年の就業者数の減少は年率マイナス0.1%、2021−2030年は年率マイナス0.6%と予想される」と書いている。
  しかし、出生率を上方修正した私の新しい人口予測を用いた場合、前述の2020年代の労働力人口変化のパターンにより、2022〜2026年の4年間の労働力人口の年平均減少率はわずか-0.06%に止まるのに対して、2027〜2030年の3年間ではこれが一気に-0.99%と加速するという結果になる。

  日本の労働力人口は、女性の労働参加についての中位ケースを採った場合、2012-2020年にかけて年平均-0.4%、2020〜2030年にかけては-0.6%と推計される(労働政策研究・研修機構「平成 25 年度 労働力需給の推計」の推計値による計算)が、中国の2020年代末の労働力人口の減少はいまの日本の倍以上、2020〜2030年の日本推計値の1.5倍の勢いで進むというのが現在の津上の人口予測である。

注1:中国で計画生育政策見直し論の先頭に立ってきて、全人代常務委員にも就任した社会科学院人口問題研究所長蔡ファン氏ら
注2:政策改訂による出生増について、担当の衛生・計画生育委は、当初年間200万人という見込みを発表したが、研究者からは高々数十万人増に止まるとの見通しが聞かれるので、中を取って100万人増とした(この場合、出生率は1.4から1.49に増大する計算になる)。
2014年の二人目出生の申請者は約100万人だったこと(衛生・計画生育委発表)に照らすと、今後の出生増は100万人に達しない可能性もある。
  ちなみに、丸川教授は本書12頁で「国連WPP(世界人口見通し)」に言及しているが、最新版であるWPP2012年版は、相も変わらず2015-2020年について1.69と非常に高い出生率を仮定し、しかも2020-2025年は1.72、2025-2030年には1.74と、さらに出生率が上昇し続けるという見通しに立っている。
  WPP2010年版は2008年版が2032年としてきた総人口ピークアウト時期を急に2026年と前倒ししたが、2012年版では再びこれを2030年前後と後倒ししている。一人っ子政策の全面撤廃すら遅々として進まない現状を考えるとき、非現実的としか言いようがない推計である。WPPはかねて旧計生委との密接な関係が取り沙汰されてきた。これ以上中国経済の将来イメージを誤導するのは止めてほしいものだ。
注3:労働力人口・比率が2020年代半ばのいっときに微増するのは、1959年に毛沢東が指導して、挙げ句の果てに3000万人以上の餓死という大惨事を生んだ「大躍進」の結果、同年以降の数年間、出生人口が落ち込んだ世代が65歳に達してくることが原因である。つまり、生産年齢人口の塊から退出する人口がいっとき特異的に減少するために、このような現象が観察されるわけで、別に生産年齢人口が回復するわけではない。





 

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