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習近平主席のダヴォス演説
G2路線を放棄、統一戦線に転換か

「国際貿易」誌に投稿した原稿に少し書き足しをしました。先走りすぎた見方かも知れませんが、習近平さんは、これをトランプ大統領と対峙する二期目の新外交ドクトリンにするつもりじゃないでしょうか。


習近平主席のダヴォス演説
G2路線を放棄、統一戦線に転換か


 1月17日、習近平主席がスイスのダヴォスで開催された世界経済フォーラムに出席して「時代の責任を共に担って世界の発展を共に促そう」という演説を行った。
 このニュースを聞いた時は不思議に感じた。ダヴォス会議は総理や国家副主席の出番だったはず、しかも間近に迫った春節だけでなく、秋の党大会も控えて超多忙のはずなのに、と。
 だが、演説を見て、疑問はハハンと氷解した。大略以下のような内容だった。

? グローバリゼーションを敵視するのは誤りだ。プラス効果がもっと全世界に行き渡るように工夫して、適応していかなくてはならない

? 世界経済が直面する問題を解決するために、イノベーション型成長モデルを重視し、自由貿易にコミットし、保護主義に反対し、己の都合でルールを曲げないようにし、もっと多くの人が平等に裨益できる開発モデルを探求し、併せて「パリ合意」や「持続可能な開発のための2030年アジェンダ」を実現して持続可能な開発を目指していくことが大切だ

? 中国は過去世界経済から受益してきたが、そこには中国人民の勤勉な努力もあった。同時に近年は世界の経済成長の30%分以上を中国が担う貢献もしている。昨年も6.7%成長を達成した。いまは困難にも直面しているが、前向きで適切な改革により克服可能であり、成長と発展の余地は極めて大きい

? 中国はこれからも開放的で透明、ウィンウィンな地域取り決めを目指して、FTAAPやRCEPを推進していく。人民元の切り下げで為替安競争をする考えもない

? 「一帯一路」構想は多くの国の賛同を得た。本年5月には更なる国際協力に向けた「一帯一路」フォーラムを北京で開催する


勝負手を放つ

 ぼうっと見ると、「きれい事を並べたな」と感じるかも知れないが、頭の中で何本か「補助線を引いて」見返すと、これは外交的にかなり重要な出来事だ。
 第一は、誰でも気付くことだが、トランプ米国新大統領の主張に対するアンチテーゼを意識的に打ち出していることだ。「グローバリゼーションを敵視するのは誤りだ」「己の都合でルールを曲げるな」「環境保護を重視すべきだ」等々、平たく言うと「当てこすっている」のに近い。対米関係は「当分様子見するのだろう」と思っていたが、こと経済に関するかぎり、はやばやトランプ政権に「立ち向かう」姿勢に転じたということだ。
 第二は、そうすると、これまで米国に対して提唱してきた「新型大国関係」は今後どうするのだろう?という疑問だ。トランプ大統領の様子を見て、「撤回」はせずとも、内心「断念・放棄」に近い判断をしたのではないか。
 第三は、これが世界の経済エリートに対して発せられたメッセージだということだ。これまでグローバリゼーションによって最も裨益し、貿易投資の自由化の信奉者でもある彼らは、いまブレグジットやトランプ大統領の登場を見て、今後の世界の行方に強い不安を感じている。習主席のこの演説は彼らを勇気づけたであろう。
 その点を捉えて「グローバル・リーダーの席を自分が占めようとする動きでは?」と見る西側メディアもあったが、それは買い被りすぎだ。

「統一戦線」戦術?

 西側は、中国の言論締め上げなどを見て、「中国は経済を超えた理念・価値までは共有していない」という違和感が消せない。その制約は習主席も感じていて、演説の中で「国情の違いを尊重すべき」ことを強調している。
 中国メディアには「政治体制の違いで西側の認知を得るのは難しいが、いま世界は価値観などより緊迫した問題が山積している、ここで中国が責任を果たしていけば、西側の見る目も次第に変わるだろう」と説くものもあった。
 それらを読んで、ハタと思い当たった。これは「小異を措いて大同に就く」伝統的な「統一戦線」の再来ではないかと。中国共産党が強敵に遭遇したとき、外に味方を拡げるために採った戦術だ。
 トランプ大統領に遭遇して、中国は「新型大国関係」を嘯(うそぶ)く「お気楽」外交から転換し始めたのではないか。本来なら、秋の党大会を済ませてから出てくるはずの習近平政権の二期目外交ドクトリンが、「事態の緊急性に鑑み、」先に飛び出してきてしまった印象なのだ。
(以上「国際貿易」誌1月27日号掲載)


 日本国内では、この演説を知って違和感を覚える人が多いことと思います。「内心は自由貿易(市場経済)の理念なんか信じていないくせに」「オバマの後継者にでもなるつもりか、厚かましい」等々。
 考え方にも無理があるのです。法治、思想・言論の自由、民主政体といった理念の違いは「横に措いて」おける「小異」ではありません。先週たまさか訪問する機会のあったパリの会議でも、この演説のことが話題になりました。ご当地の中国や外交の専門家も「習近平が自由貿易を標榜するのを額面通り信じて良いかは疑問だ」と言っていました。
 しかし、彼らは同時にこうも言うのです。「とは言え、トランプ大統領のことを考えると、不安にもなる」と…。
 たしかに。トランプ大統領は彼なりに民主や人権、American Value を信奉していると思いますが、問題は彼がそういう価値観を外国と「共有」することには関心がなさそうなことです。やれやれ。

 演説でも触れているとおり、中国は今年5月に北京で「一帯一路」の大国際会議を開催する予定だそうです。「一帯一路」は、中国国内では「戻ってこないカネを国外にばらまいて」とかなり不評を買っており、執行機関も世間のそんな厳しい視線を感じ取って、案件選定に慎重になっている感がありましたが、これも「トランプの米国に立ち向かうために、味方作りが必要なんだ!」と、上から改めて発破がかかりそうです。
 中国は、そうして「一帯一路・北京国際会議」をトランプの保護主義に反対する国際陣営の連帯を米国に見せつける場にすべく、向こう数ヶ月世界中で参加者を募るために駆けずり回るでしょう。各国は半信半疑の中で、トランプ大統領の顔色も窺いつつ、ヘッジのさじ加減を思案することになりそうです。
(平成29年1月31日 記 転載は固くお断りします。)



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