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ブログ 津上俊哉
「C」抜きBRICs論に異議あり

最近思うことの多い問題について、一言言わせてください。


                「C」抜きBRICs論に異議あり
                  ファクトを踏まえた議論を


 最近のマスメディアを見ていると、「C」抜きBRICs論とでもいった論調の流行が感じられる。「中国へ進出する時代はもう終わった、これからはインド、ブラジル、ロシアだ」とでもいうような。

 私は「中国屋」だから、この問題について立場が中立ではないし、よく言われる「卵を全部一つの籠に入れるな」というリスク分散・ポートフォリオの考え方には私も賛成だ。
 そういう論調が出現したことには理由があるとも思う。過去数年の中国投資ブームが手放しの中国経済楽観論の上に成り立っていたことはその最たるもので、いま反動が起きているように見える。「中国贔屓」の私でも「オリンピックまではこの調子が続く」とか聞くと首を傾げたものだ。
 中国でも労賃や物価が上昇してきて今やコストが一番安い国ではなくなったことも、その原因だろう。最も安い生産コストを求めて投資する企業や業種にとって「中国の時代は終わった」ということは頷ける。

 しかし、以上を断った上で言いたいことがある。「これからはインド、ブラジル、ロシアの時代だ」というのは、ファクトを踏まえた上での議論なのか、と。
 日本企業はずいぶん前から今後の対中投資の意義は「マーケットの獲得」だと考えて行動してきている。ここで日本の輸出入の相手国別数量比較を見てほしい(クリックで拡大)。

 貿易相手としては米国と「中国+香港」が他を圧している。「C」抜きBRICsは(BRICsに属さないベトナムも含めて)、輸出額でも輸入額でも「中国+香港」の数十分の一規模でしかないのだ。「これからはインド、ブラジル、ロシアの時代だ」から「C」抜きBRICsとの貿易は「C(中国)」を数倍上回るスピードで伸びると仮に仮定しても、「中国+香港」に追いつくのに何年かかるか、ちょっと考えれば分かることだ。
 今日の中国経済の隆盛は一朝一夕に生まれたものではない。多くの失敗を犯しながら、また、ときに辛い改革の痛みを堪えながら、二十余年営々と努力してきた結果だ。長距離トラック競技に喩えれば、ずいぶん周回を重ねてきた。その点は正当に評価してやらねばならない。
 翻って他のBRICs諸国について言えば、インドではインフラの未整備、投資・税制手続の問題、州によって異なる制度の問題などが指摘されている。ロシアに至っては(ベトナムも)WTOにも未加盟だ。これから中国の現状に追い付くにも多くの周回を重ねなければならないはずだ。

 日本の中国観は極端から極端に振れやすい。とくにそれが顕著なのがマスメディアだ。手放しの楽観論が盛行すると、次はまた「崩壊」論・・・。手放しの楽観の後に反動が来て、というのもマスメディアの自作自演だ。そういう振れやすい報道に対しては、現実のビジネスに携わっている経済人にも違和感を覚えている人が多いと思う。「・・・まぁ、マスコミはアレだから・・・」
 「アレ」は、売らんかなの商業主義を指すのか、それとも不勉強を指すのか、いずれにしても、そんな言われ方をされていてはいけないと思う。もっと、どっしり「定点」から観測するような報道を望みたい。
(平成17年9月3日記)




 

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