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ブログ 津上俊哉
電子書籍の行方

10月30日にブログサイト「アゴラ」に寄稿したポストを転載します。


電子書籍の行方
あるいは 「深まる一方の外来情報インフラ依存問題」 など?


  先週、生まれて初めて外部サイトにブログ投稿をしたところ (アゴラBLOGOS)、文中で言及した 「弱国心態」 にけっこう反響があったので、3日後に拙ブログで続編ポストをした。「弱国心態」 だけでなく、TPP問題で感じていた筆者の別の思いを含めて取り上げたものである (「懸念すべき外来の脅威はTPPか −外国情報インフラ依存への不安と対策?」)。

  中味を要約すると次のとおりだが、結論の出ない 「独白」 で終わっている。

 外国情報インフラ依存への不安と対策?

  コメ (などの主食) 農業を除けば、TPPが日本の 「国のかたち」 に大きな影響を与えるとは考えられない、しかし、日本がTPPを巡る「政策選択」で大騒ぎしている一方で Google、Yahoo、Amazon、Twitter…など外国の提供するグローバルな情報インフラへの依存がどんどん深まっている。こちらは「是か非か」の政策論議などすっ飛ばして、どんどん拡大中だ。我々自身が知らず知らず日々受け容れているからである。

  しかし、便利で魅力的な 「外来」 の無料ITサービスが消費者に受け容れられて、社会の旧いインフラやサービスをどんどん置き換え、日本の情報流通や思想・言説発表の命脈を握りつつある現象をどう考えたらよいだろうか。筆者はこれらの米国大企業をどこまで信頼してよいのだろうか、という点を懸念している。日本社会に与える影響の大きさという面では、TPPよりこちらの方がよほど大きいと思う。しかし、「依存」 を怖れて 「引きこもり」 を選択すれば、もっと直截な没落が待っているだろう。

  「グローバルでフラットな時代」 は我々の生活をどんどん変えている。変化の奔流のさなかにあって、「固有の伝統や文化を守りたい、また自前の情報インフラを持ちたい / 確保しなければならない」 という欲求は自然なものだと思うが、筆者は備えをしておくべき 「懸念」 は、実はTPP以外にあると感じている。しかし手段を思いつかない。21世紀とはそういう時代なのか。

  文中では「Amazon の Kindle (電子書籍) のような外国サービスに出版の命脈を握られてよいのか?」 と懸念する日本の出版業界が、対抗して日本独自の電子書籍の規格を普及させる準備をしていることにも批判的に触れた。世界に先行した 「ガラケ」 と違って 「後追い」なうえ、在来の書籍流通システムという 「レガシー」 に足を引っ張られるので、「ガラパゴス」 をやろうとしても上手くいかないのではないか、と。

 アマゾンが出版社に提示した 「論外な」 契約案

  そうしたら、このポストをした翌々日、BLOGOSに 「「こんなの論外だ!」アマゾンの契約書に激怒する出版社員 国内130社に電子書籍化を迫る」 という興味深いポストが載った。アマゾンが日本の出版社130社に送った契約書案の内容に怒る出版社員の声を取り上げた内容だ。

  それによると、アマゾンは電子書籍の流通サービスを提供するだけなのに、売上の55%を要求している由。それだけでなく、各出版社の既刊書籍全てについてアマゾンで電子出版できるようにすることを求め、また、現在書き手が著作権を管理し、出版社は本の出版権だけを買い取る日本の在来出版慣行に拠らずに、出版社が著者から 「著作権およびその他の全ての権利」 を買い取ることが前提とされている由だ。アマゾンは日本の大手出版社数社とこの契約案を巡って交渉中だが、交渉が進まないので、中堅中小に契約案を送りつけたらしい。

  このブログを読みながら、最初は筆者もアマゾンの 「阿漕、傲慢」 に驚いた。「土管」 の分際で、「55%寄こせ」 とは不届きな!と (笑)。しかし、このやり方に憤る出版社員氏の主張を読むと、今度は 「あーあ」 という溜め息が出た。

  「出版業界は再販制度という流通制度に守られていながら、構造不況が続いてました。わずかに残された企業体力を加速度的に奪って、どん底へ叩き落す電子書籍の仕組みのバカさに付き合う必要はありません。そのことを著者も出版社もそろそろ気付くべきなんです。電子書籍は、結局、誰も幸せにならないんですよ」

  「弱国心態」の影響は、ここでも露わだ。社員氏は 「再販制度という流通制度に守られていながら、構造不況が続」 くのは何故か?、一度も考えたことはないのだろうか。外界の変化に目を背け、引き籠もっていれば、やがては事態が好転するとでも? 90年代、WTOに加盟しようと努力していた中国では 「保護的・閉鎖的だからなお後れ、後れるからなお保護的・閉鎖的になる」 と言われたものだ。日本のコメ農業も出版業界も同じことである。

  ブログ自体は冷静で、この出版社員の訴えに対しても、以下のように結んでいる。

  今回の契約書は日本の出版社にとっては、あまりにも不平等な物で、取材に応じた男性が激怒するのはよく分かる。だが、出版不況が長引く中で、対応策が練られて来なかったのも事実。アマゾンという 「黒船」 が、日本の出版界にどんな影響を与えるのか。注意深く見守っていく必要がありそうだ。

  そのとおり。不安に支配されて情緒的な反応をしていても始まらないのだ。

 電子書籍、何処へ行く?

  筆者も2冊の本を出している関係で、出版問題は 「他人事」 ではない。最初にブログを読んで 「55%とは法外な!」 と感じた心中には、あきらかに 「55%も取られる側」 の不安感が宿っていた。世間の「弱国心態」を戒めつつ、自分も「受け身」思考に陥りかけていた気がしないでもない。

  「自戒せねば…」 そう思いつつ、twitter にしたツイートはこれ。半分おふざけだが、おふざけだけでもない。このブログを読むかぎり、幸か不幸か、いま出版社と交渉している日本アマゾンには、出版業界を深く知る人も、長期の戦略を考えているヒトもいなさそうだが、やがて事態はこういう風に展開していくはずだ。
 
アマゾン電子書籍(妄想・長め)

:「+α」 の付加価値もつけずに単行本で千円よこせとは、「土管」 の分際で不届き千万!

Amazon:誰が単行本二千円って言いました? 電子版の新書はワンクリック二百円、単行本は四百円くらいですよ

:えっ!

Amazon:単価1/4でも冊数が5倍以上出ればいいじゃないですか。出版不況ってそういうことでしょ?

:・・・せめて単行本の値段は今の半値くらいに留まりませんか (ガクブル)

Amazon:それじゃ、紙出版社員と発想が同じじゃないっすか

: ぐぬぬ…
(平成23年10月30日 記)

本稿はブログサイト「アゴラ」に寄稿したものです。






 

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